豪華さと緻密さを兼ね備えた19世紀の広巾のアランソン
18世紀、パリの北西部、ノルマンディー地方の隣りあった街アランソンとア
ルジャンタンではそれぞれニードルポイントレースが作られていましたが、元々アランソンレースよりもアルジャンタンレースの方が発祥が古いとされ、そのい
ちめんにブランケットステッチ(ボタンホールステッチ)を施したアルジャンタンレースのグランドを簡略化したものがアランソンレースといわれています。
その18世紀のアランソンレースが100年近くの月日を経て進化したのがこちらの19世紀のアランソンレースです。レースの技法が完成され、もっとも華や
かなレースが作られた19世紀のフランスを代表するレースです。同時代にアランソンを模倣して作られたベルギーのニードルポイントレース、ポワン・ド・
ガーズと比べて圧倒的に作られた数の少ない稀少なレースです。
1883年にエミール・ゾラによって書かれた小説「ボヌール・デ・ダム百貨店」の中にも貴婦人がアランソンレースを万引きするシーンが登場しますが、その
ような点からもこのレースが当時の女性の憧れの的で、非常に高価なレースであったことが分かります。
滅多に見ることのない28cmもの広巾、ミュージアムピース(アランソンのレース美術館のコレクションで同様な広巾のレースを見たことがあります。)と
言って良い、まず出てこないレースのひとつだと思います。広巾のため、ウエディングドレスを飾るためのレースと思われ、ギリシャ神話を起源とする角笛の中
からお花が溢れる「豊穣の角」と呼ばれる豊かさの印と、ドウダンツツジ?と思われる釣り鐘状のお花のブーケの組合せ。(ちなみにドウダンツツジの学名
「Enkianthus(エンキアンサス)」は、ギリシア語の「enkyos(妊娠)」と「anthos(花)」を語源としていることからあながち間違っ
ていないかもしれません。)動きのある華麗なガーランド模様もあしらわれた豪華で気品のあるレースです。お花や角笛の模様の端々に、ガーランドや裾模様
に、様々な種類の繊細なニードルの細工が見られ、お花の花びらは一枚一枚違った地模様、その細工のひとつひとつを眺めているだけでも楽しいレースです。
レースの縁や模様のアウトラインには、アランソンならではの白馬のしっぽの毛が縫い込まれ(これはレースがよれて形が崩れないようにしたためです。)、手
で触っていただくと麻の質感だけではない独特のシャリ感を感じていただくことが出来ます。同時代のベルギーのニードルポイントレース、ポワンドガーズとは
また違った雰囲気を是非味わっていただきたいです。
当時、こうしたレースを誂えることが出来たのは、貴族か大ブルジョワのみ。こちらのレースは、きっと長年財産のひとつとして大切に保管されてきた物だと思われます。
一箇所ごく小さいホールがあるものの大変良好な状態です。ご希望の方には額装も承りますのでお気軽にご相談下さい。
※アランソン(ニードルポイントレース)についてはこちらをご参照ください。
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