〜前 編〜

■11月某日 晴れ
 今回の買付けは初めての深夜便で。エールフランスで、羽田午前0時半発のフライト。今回は河村が行かない代わりに、同じ奧野ビルのジュエラー、アンティークエデンさんこと晶子嬢と同行。彼女とは、往復のフライト、ホテル、パリからロンドンへの往復等、ホテルの部屋は違うものの、ほぼ同じスケジュール。特に、今回は午前5時にパリに着いて、そのまま仕事に行くため、二人の方が心強い。羽田のチェックインカウンターで待ち合わせをしたため、自宅近くの箱崎のTcatターミナルからバスに乗って羽田に行くことに。

 いつものように、ふたつのスーツケースのうちのひとつを河村が箱崎まで運んでくれ、「じゃあね、行ってきます!」と別れを告げようとするが、なぜか河村も私と一緒にバスの列に並んで、どこまでも付いてくる。「どこまで来るの?」と、不審がると、彼の手にはいつの間にかバスの切符が!いつも空港まで送ってくれたことなどないのに、今回は綺麗どころの晶子嬢と一緒のため、のこのこ空港までやってくるという。そんな「なんだかなぁ。」という感じで今回の旅は始まった。

今回は美女とその付き添いの二人旅。それでは行ってきます!

 午前5時パリ到着!まだ外は真っ暗。パリに着いて、いつもならRER(郊外高速鉄道)に乗ってホテルに向かうところだが、ただでさえ治安がよろしくないRER、真夜中のRERに乗る勇気はない。晶子嬢と共にタクシーに乗りホテルへと向かう。普段、シャルル・ド・ゴール空港からパリ市内までは必ず渋滞するのだが、土曜日の早朝はパリ市内までスムーズに向かい、無事にいつものホテルに着いた。
 流石にまだチェックインは出来ないが、ホテルに荷物を預けて、身繕いを済ませ、晶子嬢と近所のキャフェで朝食を。ようやくいつもの感じになってきた。バスに乗って買付け先へ。今日はこのまま夕方までノンストップで買付け、長い一日が始まった。

 空が明けてきた。まずはアポイントを入れた何軒かへ。が、その前に透明な袋に入ったレースを大きな袋からガサガサと粗雑に出しているマダムに遭遇。初めて見るマダムは、場違いに上等なレースばかりをガサガサと出している。普段だったら絶対にあり得ない状況に「ええっ!?これってどういうこと!?」と慌てる私。そして、周囲の人達の手に渡る前に、誰にも取られまい、無我夢中でとめぼしいレースの袋を手当たり次第にかき寄せる。そしてかき寄せたレースを袋から出してひとつひとつチェック。そんな私の行動を見ていたマダムは呆れて、「昨日仕入れたばかりなのよ。」と一言。たぶん地方のオークションで昨日仕入れてきたばかりなのだろう。
 その中から厳選したレースをいくつか選んだ。高価なレースばかりだが、昨今こんな上質なレースにお目にかかる事自体が珍しい。一番目の買付けが思いがけず高級なレース。幸先が良い。

 次はアポイントを入れてあったディーラー、細やかなマダムは毎度何かと手土産を用意しておいてくれるため、私も必ずユニクロのヒートテックやら暖かいタイツやら(何とも夢の無い私のプレゼント…。)を持って出掛ける。今日も私用に出してくれたボックスの中から、状態の良いシルク生地やトワル・ド・ジュイ生地が出てきた。そして、「何かスミレの物を。」という私のリクエストに応えて、デッドストックの状態の良いスミレのコサージュがいくつも!同様にロココも!色々選んだ後、「じゃ、後から取りに来るね!」と一旦彼女とお別れする際に、「マサコ、カドー(贈り物)よ!」渡された綺麗な紙袋。渡されると想像を絶する重さ。彼女と別れた後、「いったい何かしら?」と紙袋の中を覗くと、それぞれ500gはありそうなボディークリームとハンドクリームの大きなパッケージ。(こんな大きなハンドクリームは初めて見ました!)最初はフランスらしい素敵なパッケージに心躍ったものの、あまりの重さに途中でギブアップしそうに…。ありがたいような困ったような…商品と一緒に預けなかったことをひとり密かに後悔する。

 もうひとりのアポイント先は布やレースを扱うマダム。彼女から沢山仕入れることはあまりないものの、いつも何かしら私の好むアイテムを持っているため、一応「こーいうものとか、あーいうものとか、ない?」と事前にメールを送ってみる。今回もさほど期待をせずに行ったのだが…。沢山並んだアイテムの前で、気持ちを集中しながら見渡すと、レースとレースの間からチラリと見える私の好きなほぐし織りの質感が!そっと引っ張り出すと、それはほぐし織りのシルク製、ビーズのフリンジ付きのポシェット。ほぐし織りもビーズの状態も良い。「そうそう!こんなの欲しかった!」と高価なアイテムにもかかわらず、「だって、こんなのなかなか無いもの。」と、喜び勇んでゲットする。マダムからは今日はこれのみ。

 他にも、興味をそそる物があって、顔馴染みのマダムとお値段の交渉をしたのだが折り合いが合わず、残念ながら決裂。欲しい物と巡り会う事も、実際に手に入れることも、とても難しいのだ。それでも、4時間近く歩き回っただろうか。結局、最初から最後まで重いボディークリームとハンドクリームをヘトヘトになりながら持ち歩き、最後に預かって貰っていた商品ピックアップし、晶子嬢との待ち合わせの場所へ。いつものブーランジェリーでお気に入りのバゲットサンドをパクつき、午前中の成果について報告し合う。今日は午後にも買付けの予定。でもその前にチェックインのため、バスに乗って一旦ホテルに戻る。

 昼過ぎにホテルに到着すると、それまでチェックイン時刻は午後2時と聞いていたのだが、ラッキーなことにもう部屋に入れるという。「じゃ、20分休憩!」ということで、スーツケースをそれぞれの部屋に運び、ひと休み。今日はまだまだこれからなのだ。再び晶子嬢とロビーに集合し、今度はメトロで。長時間メトロに揺られ着いた先からまたテクテク歩き、ようやく到着。またここでも現地解散し、晶子嬢とは夕方待ち合わせすることに。

 が、流石に疲れから集中力が続かない。おまけにあまり時間がないこともあり、「また明日じっくり見ましょう!」と流しながら歩く。そんな中、長年顔見知りで「綺麗な物を持ってるマダム」と私と河村が呼んでいるマダムのところで、素敵なグラヴィールのクラウンの紋章入りのワイングラスを発見!ここしばらくグラスは仕入れていなかったが、王冠の紋章、つまり貴族の注文品であったワイングラスに心がぐっとなびく。ただ、「グラス=重い」ということで、もう一度明日元気な時に決断すべく今日はよくお礼を言ってマダムの所をあとにする。結局、歩き回った挙げ句、午後の収穫はお花三つとメタルビーズ三つ。(まぁ、昨今メタルビーズは珍しいアイテムなので満足感はあるのだが。)それでも約束の時間に遅れてしまった私。ゆうべから続く長い一日を過ごし、ぐったりお疲れの私達。帰りはゆっくりバスで帰宅。スマートフォンの万歩計アプリを覗いてみると、初日から1万2千歩踏破していた!

大好きなご近所の花屋さんのウィンドウ。咲き誇ったアネモネのお花が17世紀のオランダ絵画を思わせます。

■11月某日 晴れ
 昨晩ゆっくり休んだため、昨日の疲れからなんとか復活。今日は晶子嬢とはまったく別行動。夕方ホテルに戻ってきてから一緒に夕食を食べる約束をして、それぞれ買付けへ。

 私は昨日と同じルートをもう一度。今日も早朝からバスに乗って出掛けるも、午前中仕入れられたのはブリュッセル・アプリカシオンの襟一点のみ。昨日も同じ場所を巡ったとはいえ、何も見つける事が出来ないとテンションが下がることは否めない。
 午後は、昨日大急ぎで歩き回った別の買付け先へ。こちらは昨日全てを見きれておらず、まだ会っていないディーラーもいるため、何か出会えそうな予感がする。

 昨日は立ち寄ることの出来なかったレースや布製品を扱うディーラーのとこに訪れたのだが、残念ながらマダムは不在。マダムとは親子ほど年の離れた(でも夫の)初老のムッシュウにガラスケースの中のリボンを見たいと訴えるものの、ムッシュウはガラスケースの鍵がどこにあるかわからずオロオロ。そんな様子を見かねて、周囲の親切なディーラーのムッシュウ達(いずれも私も顔馴染み。)が集まってきたのだが、やっぱり鍵は見つからず、結局「また明日来ます!」ということになってしまった。集まってきたムッシュウ達も皆申し訳なさそうな顔をしてくれる。

 途中、昨日検討していた王冠の紋章入りのワイングラスを扱うディーラーのところに再び立ち寄る。よく見知ったマダムは私が真剣に検討している事が分かると、いくつものピースを並べて選びやすいようにしてくれる。ずらりと並んだグラスの中からサイズ違いのペア二組を選んだ。

 私達が「奥地」と呼んでいる人知れず奥まった場所にあるディーラー。にもかかわらず、次々と廃工場のサンプル品を仕入れてくるやり手マダム。廃工場といっても、私達の場合、それ相応に古くなくてはならないのだが、その点、彼女のチョイスは絶妙で、何かと魅力的なアイテムが揃っている。今日は店番の若いムッシュウだけだったが、挨拶を済ませて、次々と勝手知った棚の引き出しを開けて物色する。今日はその引き出しの中から、シルクで出来たお花を連ねたロココとモチーフが出てきた。「しめしめ!こんなのが欲しかった!」と喜び勇んで手に入れる。他にも様々な素材を選んだ後、ムッシュウに手渡しお値段を出して貰うが、少々納得がいかない。「マダムはいないの!?」と私。いつもマダムは近くのオフィスで仕事をしていることを知っているのだ。渋々ムッシュウが、マダムを電話で呼び出してくれると、2分もしない内にマダム到着。
 大柄で声の大きいいつも元気なマダムと挨拶を交わして商談開始。マダムは、「お人形用だったわね?」と、他にもしまってあったボタンを出してくれる。「今度は来る前にメールするわ!」と私。今まで、彼女にはアポイントのメールを入れたことはなかったのだ。商談成立した後、「お人形用の素材を集めておいてね!」と畳みかけて彼女の所をあとにした。

 今日は更に奥へ。ミュシャとアール・デコのイラストレーター、マルティの挿絵本を引き取りに懇意にしている古書店へ。しばらく前に河村が頼んであったのだ。本の持ち運びは重いのでひとりの買付けの時には出来るなら避けたいところだが(以前にも河村の頼んでおいたグランヴィルの銅版画の分厚い挿絵本をひとりで引き取りに来たことがあり、その時はあまりの重さに河村を呪いつつ、本を背負って帰ったのだった。)、しばらく前から取り置きをお願いしていたので、今回引き取りに行かなければ。が、今回は河村の本だけでなく、私のために用意しておいてくれた本が!それはフランスレースの書籍。戦後すぐの印刷で、"Dentelles et Dentellieres de France"のタイトル通り、フランスのレースばかりをセレクトした書籍。たまに19世紀のジュエリーカタログを集めた書籍やこうしたレースに関する書籍など、私にぴったりの本を用意しておいてくれる彼女。本当にありがたい。

 今日もあっという間に日が暮れてきた。ホテルで晶子嬢と待ち合わせをしている私は、早々にまたバスに揺られて帰宅。いい具合に揺れるバスの中で、居眠りをしないように帰るのが毎度苦痛なのだ。(パリの市バスやメトロの中では危険なので「絶対」に寝てはいけません!)

 ホテルで晶子嬢と合流し、近くの美味しいケーキとお総菜のお店ジェラール・ミュロへ。沢山並んだ美しいケーキに晶子嬢は目が釘付け!今日はバゲットとパテ、サラダを買いこみ、お部屋宴会!帰る途中、ワインを調達するためスーパーへ。そこで一緒にワインを選んでいたのだが、クーラーの下の方にひっそりと「10ユーロ(今のレートで¥1,400弱)」のシャンパンを見つけ、「この値段、あり得ない!」と、せっかく選んだワインをあっさり却下する私達。フランスでも10ユーロでシャンパンが売っているなんてあり得ないのだ。そしてあり得ない金額のシャンパンは、その金額ゆえか恐ろしく美味で、お部屋宴会を盛上げたのだった。

色とりどりのジェラール・ミュロのお菓子。どれも間違いなく美味しいです!


サン・シュルピス教会の前の噴水。その向こうにある6区の区役所はトリコロールのイルミネーション。

■11月某日 曇り
 今日は朝からゆっくり過ごし、昨日鍵が明けて貰えなかったムッシュウの元へのんびり出掛ける。その付近のディーラーへも回るため、やはり帰りは夕方か?今日も晶子嬢と夕食の約束だけし、それぞれ違う仕事先へ。

 今日もバスに乗って、長い道中はお気に入りの音楽を聞きながら。ずっと昔のこと、20代の頃にしょちゅう出入りしていた名古屋のカフェの名前は「リヴ・ゴーシュ(「左岸」の意)」。名古屋にあるにもかかわらず、不思議とパリを思わせる雰囲気のお店で、ひょっとするとそこが私の「パリの原点」なのかもしれない。今は無いそのお店でよくかかっていたジャズを聴きながらバスの車窓からパリの街を見ると、その頃のことを鮮やかに思い出す。

 さて、昨日のムッシュウの元に到着。今日もマダムは留守。この日も心なしかぼんやりしているムッシュウにお願いすると、今日はちゃんと鍵が出てきた!だが、出して貰ったリボンは手に取って見ると生(しょう)が抜けていて劣化。到底仕入れられる物ではない。せっかく出して貰ったが、「う〜ん。」と唸る私。そんな時、リボンを取り去ったその奥に、今まで見えなかった物が!とてもゴージャスなお花のかたまり。それは「かたまり」と表現するのが一番近い、様々なブルーのお花が連なった大きめのかたまりだったのだ。お客様には「ピンク好き」が多くいらっしゃるのだが、確実にブルーのお好きな方々もいらっしゃる。今日はリボンではなく、「ブルー好き」にぴったりの素敵なお花をムッシュウから入手。

 昨日も訪れた先をまた今日も覗くのだが、特に目新しい物は無く、皆、今週開催される大きなサロン(アンティークフェア)の準備に余念が無い。商品を運ぶために箱に詰め忙しそう、会うディーラー、会うディーラー、「サロンでね!」の言葉が別れの挨拶になる。

 もうひとつ今日買付けた物は、様々な色合いの細かなメタル製ビーズ。古い物から新しい物まで沢山のビーズがあるが、古いメタル製のビーズは昨今出てくるのが非常に稀。ガラスには無い独特の質感が魅力のビーズだ。沢山のビーズを揃えたくは無いが、世の中に数少ない変わったビーズなら欲しい私にぴったりのアイテムだ。

 遅いランチを済ませ、余った時間はモンマルトルの丘の下にある生地問屋街へ。特に必要な物がある訳では無いが、ちょうど帰る途中でもあるし、何かお店のディスプレイで使える生地が無いか、後学のため度々出掛けるのだ。バスに乗り、途中で乗換をしてモンマルトルの丘の上で下車。丘の上から歩いて降りてくると、その脇が生地問屋街になっている。毎度のことだが、久し振りに立ち寄ったモンマルトルは観光地らしくて、自分も観光客のひとりにいなった気分になれる場所。丘の上からパリの街を一望出来るのも、観光客気分に拍車をかけるのかもしれない。丘の上からトコトコ降りてきた左側、生地問屋街でも特に大きなDreyfusに毎度立ち寄る。6階建てのここの内装はすべて木製、ギシギシいう音をたてながらほぼ階段で上り下り。21世紀の現代に営業していることが不思議に思われるようなレトロな店内もたぶん創業時と大差ないはず。(ホームページに1910年のこの建物を写したポストカードが掲載されていたので、創業は19世紀?)

 「やっぱりシルクはないのね。」と、最上階の高価な織り生地をチェック。(リヨン織物美術館の織り生地を再現した生地はあっても、すべてビスコース製。)地階の豊富なシルクのドレス地の中から、シルクシフォンを触りうっとりする。日本と違い、シルク地の色数も多く、しかもデリケートな色合いが美しい。階段で階上に上がったり、階下に下がったり。今日は何も買い物しなかったものの、ぐったりしながら外に出た。その後は、側のリボン専門店でこちらも「偵察」に、

 またバスに乗り早めにホテル側まで帰ってきた後は、近所のアンティークジュエリーのショップをチェック。(路面店は、以外にもオープンしている時間に訪れるのが難しかったりする。)割高な事は分かっているのだが、パリに来たらすべてをチェックしないと気が済まないのだ。残念ながら、今回、ウィンドウに気になるものは無し。今日は空振りの一日だった。

「聖なる心臓」を意味するサクレ・クール寺院はいつ見ても雄大。パリの北側のランドマークですね。


モンマルトルの丘から眺めたパリの街。晩秋ですが、すっかり葉の落ちる真冬とは違って木々はまだ色づいたままです。


モンマルトルの香水瓶専門店。現行品からアンティークまで。この辺りにやって来ると、こちらのウィンドウを眺めるのがお約束です。


こんな香水も!パッケージは変わっていますが、たびたび扱う「トゥールーズのスミレ」のシリーズは現在でもロングランで発売されています。一度自分用に買ってみたいです。


■11月某日 曇り
 今日はアポイント先を訪れ、ほぼ終日過ごすことになっている。晶子嬢とはオテル・ド・ヴィルのデパートBHV(バザール・ドゥ・ロテル・ドゥ・ヴィル)まで一緒。パリの東急ハンズともいえるBHV、お店を作ったばかりの彼女に、何かお店の内装に使える物が無いかと案内したのだ。ドアノブや引き出しのハンドルばかりがずらりと並んだコーナーにふたりしてテンションが上がる。私達もお店を作った時、「近所にBHVがあったらいいのに。」と、どれだけ思ったことか。その後、晶子嬢と夕食の約束して、それぞれの仕事場に。

 久し振りに会うディーラーの彼女とあれこれ挨拶を交わし、私のために用意しておいてくれた商品を早速見せて貰う。大きな袋から次々出てくるレースやら布小物。ひとつひとつ状態に問題がないかをじっくり見て、瞬時に自分に必要かそうでないのかを見極めるのはとても集中力のいる作業。まずは軽めのレースから見ていき、徐々に上質なレースへ。高価なレースはすぐには判断が出来ない。リボン模様が美しいポワン・ド・ガーズのハンカチに「う〜ん。綺麗!」と唸った後、「ちょっと待って!」とひと休み。(ひと休みしながらも、「やっぱりこういう上質なレースが好き!!」と心の中で叫ぶ。)途中、ランチをはさみ、午後からもまたじっくり物色。

 今日は私のために取って置いてくれたシルク張りのボックスやリボン刺繍のパネル(どちらもたぶん彼女のコレクションだったのかも…)、それに、とても変わったシルク生地の生地見本、お人形にぴったりのシルク生地、それから件のポワン・ド・ガーズのハンカチを。そして、以前からずっと探していたチャイルドドレスを。このドレス、当時、ブルジョワの子供が着ていたと思われるコットンドレスで、すべて手刺繍による細工。何よりとても愛らしいのだ。

 彼女のところから帰るときには、サンタクロースのような大荷物を背負って。ずっしり重い荷物を背負いながら、「いつもだったら河村が持ってくれるよな〜。」と、ちょっぴり思いつつパリの街へ。完全に夕刻になる前に、このまま問屋街に行き、ジュエリーボックスやお店のデコレーションに使う什器を探しに。途中、いつも立ち寄るジュエリーのディーラーへも。ラッキーなときは何かしら良いジュエリーが見つけられるのだが、今回魅力的なものはナシ。つくづく「買付けって思い通りにはいかないなぁ。」と思いながら歩く。結局、ジュエリーボックスいくつかを仕入れ、すっかり暮れた夕刻になってようやく帰宅。いよいよ明日は今回の買付けの一番の目的。大規模なアンティークフェアへ。

いつも通るサン・ミッシェル広場。手前はギマール作のメトロの入口。こんな街並みが普通にあることに、パリの住人に対して羨望の眼差しを送ってしまいます。


毎日のように乗るバスの車窓から見える風景。セーヌ川とノートル・ダム寺院の王道の組合わせに、「なんと贅沢な!」と呟いてしまいます。

***「買付け日記」は後編へと続きます。***