〜後 編〜

■11月某日 晴れ
 今日は今回一番の目的、パリ市内の大規模なアンティークフェアへ。晶子嬢と連れ立ち、今朝もまたバスに乗って。目的地にでバスを降りると、初めてバスで来た晶子嬢に、一人で帰る時のために帰りのバス停を教え、二人一緒に会場へ。会場に入ると晶子嬢とは別行動。お互いの健闘を祈り合い、それぞれ会場内へと散っていく。

 まず今日も戸外の広い会場から歩き回る。フェアの初日は何周も歩き回ることを覚悟しているのでまずは軽く一周。最初に足を止めたのは、以前からあちこちのフェアで会っているノルマンディーのマダムとムッシュウ。私好みの何かと可愛い雑貨系のアイテムを持っている彼らからは、いつもお世話になることが多い。今日も、彼らのブースに入ると、「誰にも取られてなるものか!」とお急ぎでブースを眺め回し、気になるものはすぐに手に取っていく。もちろん、その前にはマダムとムッシュウへの挨拶と「手に取っていい?」のアイコンタクトは欠かせない。今日もあれこれ手にしたが、結局最後に手に残ったのは、シルクで出来た初聖体のポシェットだった。今までも何度か買付けた事のある初聖体のポシェット、どれも少しずつデコレーションが違うところが魅力だ。今回であったそれは良好な状態、繊細なブレードも良い感じだ。彼らからは、今日はそれだけを受け取り、次のブースへ。

 思いがけないところからシルバーのソーイングセットが出てきた。持っていたのは、地方から出て来たディーラー。シルバーのソーイングセットを3セット持っていて(昨今、一度に3つものシルバーのソーイングセットを目にするのは本当に稀。)、その中にリボンと薔薇の模様が!「あるじゃないの!あるじゃないの!」と呟きながら、マダムに出して貰い、はさみが切れるかどうかをチェック。大丈夫、よく切れそうだ。この模様のはさみはずいぶん以前も扱った事があるが、セットは初めてだ。ボックスの状態もまずまずで、手に入れることに。

 今日も歩いて歩いて、ブースに入っては隅々まで見回しての繰返し。そんなブースの奥底にいつも探しているシルクベルベッド製のジュエリーボックスを発見!在庫で持っているジュエリーボックスとそっくりな色合いだが、デコレーションの金属製の飾りが素敵。「やっぱり手に入れるべきよね!」と自分に言い聞かせこちらも入手。

 その後もキョロキョロと歩き回っていたところ…ロンドンでいつもお世話になっているディーラーのいるブースが。まさかと思いながら、「あなた、出店したの〜?」と冗談で聞くと、「そうなのよ〜。」と言う答えが返ってきて更にびっくり!このフェアでは、毎度ロンドンから顔見知りのイギリス人ディーラー達も集結しているのだが、まさか本当に出店していたとは!付いているお値段はポンド価格のままだが、その価格のままユーロで販売しているという。「え〜、いいの〜?」と言いつつ、ガラスケースの一番下にリボンワークの飾りが付いたシャンティーレースで出来たポシェットを見つけてしまった。イギリスとフランスの間をしょっちゅう行き来している彼女、「それはフランスの物よ。」と言われ、「そうよね〜。シャンティイだものね。」と、いただくことにする。

 ロココ付きのガラストレイを見つけた時には、思わずテンションが上がってしまった。ガラスケースの中央に鎮座しているそれを見つけるやいなや、ブースのマダムに「これ見せてください!」と叫び、手に取ってまじまじ眺める。状態は良し!だが、このトレイ、物凄く欲しかったのだが、どうにもマダムとお値段が折り合わず…。トレイを手にして、「う〜ん。」と唸りながら立ちすくむことしばらく。最後は、そんな私の姿に根負けしたマダムが、「もういいわよ!その値段で。」と諦めたように言い、こちらも無事入手。朝早く出てきて良かった!

 もう1箇所、狂喜乱舞(?)しながら選んだのが、布製品やお花を扱うディーラー。南仏からやって来る彼らと会えるのはここだけ。ブースの高い位置に置いてあったカゴの中に何やら素敵なお花がちらりと見え、遠くにいたマダムに手振りで「降ろして良い?」と伝えながらカゴを降ろした。大きなカゴは結構な重さ。その中に見たこともないようなお花発見!それは平面的な輪っか状にデコレーションされた小花のリース。小さなお花なのに、皆ペップが付いた上等な作りだ。「こんなの見たことない!」とちょっぴり興奮。カゴの中にあったリング状のお花はピンクと赤ピンクの2種類、「誰にも渡すもんか!」とそのふたつをしっかり手に持ち、マダムと商談。が、これもまた想像を絶するほどお値段が高い!「え?そんなに高いの?」と半分諦めつつ、商談を進める。なんとかマダムとお値段の摺り合せが完了した時にはぐったり疲れていた。

 この時点でもう会場を何周回ったことか。まだこの後には室内のブースもあるのだ。こちらはもう少し高級なアイテムを扱うディーラーが連なっている。簡単には手を出せないが、普段なかなか見ることのない高級なアイテムを間近に目にする機会。目を肥やすチャンスでもある。初顔のレースを持っているディーラーの商品を、マダムの許しを得て延々ひっくり返す。「これならいいかなぁ。」と弱気で選んだアイテムだったのに、マダムにお値段を聞くとあまりに高く、納得のいかない私は思わず手を離してしまった。

 ちょっと気になる工芸品ばかりを持っているマダムのガラスケースの中にすずらん模様の描かれたピンクエナメルのボックスを見つける。ガラス越しに見た時にはとても素敵に見えたそのボックス、いざ、目の前に出して貰って眺めるとどうもすずらんの絵が稚拙に感じられる…。いつもだったら、河村に「ねぇ?どう思う?」と聞くのだが、今回河村はいない。「う〜ん、こんな時に河村がいれば…。」と立ち尽くしていた時に、仲良しの日本人ディーラーのカップルに偶然遭遇。眉間にしわを寄せて悩んでいる私の顔を見て、彼女の方が「マサコさん、疲れてませんか?」と気遣ってくれる。「どうしようか迷ってて…。もう、なんだか訳が分からなくなっちゃったの。」と私。「これがいいような気もするんだけど、この絵がどうも稚拙なような気もして…。」と、知らず知らずブツブツ独り言を呟く私。そんな私に、「じゃ、また。会場のどこかで!」と、さりげなく去って行く二人。「そうだった。他人に意見を求めても仕方ないんだった。」とハタと我に返り、「迷いがあるものは止めましょう!」とそのブースから立ち去ったのだった。

 他にもボックス入りの素敵な柄織のシルクのパラソルを見つけたのだが、実は壊れていて商品価値がなかったり(なのに、扱っていたマダムは「大丈夫よ〜。」と無責任な言動。)、どうもこれという物に出会えない。そんな中、以前から顔馴染みで、装飾美術を勉強してこの道に入ったというまだ若いディーラーから繊細なアイボリー彫刻の優美な小さなボックス、切手入れを譲って貰い、今日の締めくくりにした。この時点でiPhoneの万歩計で1万6千歩。流石に体力の限界だ。

 時刻は午後3時を回った頃。会場を出て、すぐ近くのキャフェで一人淋しくランチをしていると(会場の中にもレストランが出店しているのだが、断然外の方がお値打ちなので。)、偶然晶子嬢がやって来た。こんな時、一人より断然二人の方が良い私は、すぐにテーブルを移って彼女と一緒にランチを。「どうだった?」とお互いの戦果を話し、「まだもう少し仕事をしてから帰る。」と言う彼女と別れ、私はいくつかアンティークショップが集まっているマレ地区へ。

 そこからまたバスに乗りマレ地区へ向かったものの、今日はそちらでも戦果は何もナシ。再びバスに乗りホテルに戻ると、もうどっぷりと日が暮れていた。

ショウウィンドウの中に何やら可愛いケーキを発見!いちめんに小花が付いた三段になったこのケーキ、ウエディング用でしょうか?


老舗のお菓子屋さん、A la Mere de Familleのウィンドウは季節ごとに変わるディスプレイも楽しい!シーズン限定のここのマロングラッセがお気に入りです。

■11月某日 晴れ
 今日はもう一度昨日行ったフェアへ。昨日は終日会場で過ごしたものの、まだ若干開いていないブースもあったことだし、広い会場内、ひょっとしてまだ見落としている物があるかもしれない。今日はゆっくり起床し、晶子嬢とのんびり近所のキャフェで朝食をとってからまたバスで。

 今日は会場に入ってすぐ、パリ在住の日本人ディーラーとバッタリ。滅多に会えない彼に会えて嬉しがる私に、心は乙女の彼は改めて私にビズー(ほっぺにチュッ、チュッと音だけたてるアレだ。)で挨拶。フランスだと身近な友達同士は男女を問わず必ずハグしてビズーする。日本にはない習慣だが、なんだかとても近しい間柄になれるような気がする。「本当に物を見つけるのって難しいよね〜。」と、そんな彼としばし立ち話。「頑張ろうね!」とお互いに言い合って別れる。

 彼と別れ、再び歩き出す。昨日迷っていたジュエリーをもう一度見るのだ。昨日迷っていたのはリボンシェイプのピアス。顔馴染みのディーラーに再度ガラスケースから出して貰う。リボンの形に小さなエメラルドとシードパール、やっぱり可愛い!「やっぱりこれに決まり!」と思いつつ、まだガラスケースの中に目を移すと…昨日目に入らなかったブローチが目に入ってきた。「どうしてこれがここに!?」というほど可愛いエンジェルのポーセリンブローチ。どうして昨日は目に入らなかったのかとても不思議。だから連日来なければならないのだ!フレームはヴェルメイユのため、さほど高価ではないが上質な細工。ピアスとブローチ、どちらも一緒にいただく事に。
 今日もまた会場を歩き回り、あっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロ。昨日迷った物を思わず今日もまた手に取ってチェックしてしまったり…。「あ、昨日止めたんだった。」と呟きながら。

 アイボリーの手の形のペンダントトップを悩んでいた私の背中に、「あれ?サカザキさん?」の声。偶然遊びに来ていた日本人ディーラーから声を掛けられたのだ。彼女の扱う商品は私には縁のない物だが、何度か顔を合わせているうちに、同じ日本人同士、おしゃべりするようになったのだ。気さくな彼女は「何?何?何見てるの?」と私の手元を覗き込む。そんな彼女に「これはディエップで彫刻されたアイボリーで…。」となぜか説明してしまう私。このアイボリーのジュエリー、マダムにガラスケースから出して貰ったのは良いが、「これは友達の物だから。」と言うマダムとお値段の折り合いが合わず、そこで延々とルーペで眺めていたのだ。ずっとそこに居続ける私に痺れを切らせたマダムが、「もうその値段でいいわ!」と根負け。繊細なオールドローズとすずらんのお花にハンドのモチーフに、「よしよし!」と思わず笑みがこぼれる。

 そんな感じで、今日も午後までびっしり歩き回ってしまった。そんな時、お互いに「この人誰だっけ?」と顔を見合わせたマダムが。すれ違った後、お互いに振り返ってやっと分かった!それはいつもロンドンでお世話になっているソーイングツールを扱うイギリス人ディーラーのマダムだったのだ。髪の毛を赤毛に染めていたので、一瞬誰だか分からなかったのだ。このフェアには、イギリスのディーラー達も集結していて、何人もの顔馴染みのディーラー達と挨拶を交わしていたのだが、彼女とここで会うのは初めて。向こうも、「あら、あなただったの?」とすぐに私だと分かってくれた様子。私も「素敵なヘアカラーね!」と笑顔で答える。ずっと昔から知っていて、しょっちゅうお世話になっているものの、ロンドンではそんなに話したことがなかったのだが…。

 このフェアに初めて来たというマダムは、「本当に難しい。」とたいそうお疲れの様子。イギリスで売るために、きちんと利幅が取れるものを探すのは、私達よりも更に至難の業らしい。「もうすごく疲れた〜!」「フランス語は全くダメなのよ〜。」と疲れた笑顔で私に英語で訴えるマダム。「分かるわ〜。」と相槌を打つ私。彼女は今晩午後9時のユーロスターでロンドンに戻るという。午後9時ということは、ロンドンに着くのは12時近くか。「え〜!?午後9時なの?」と驚く私に、「そうなのよ。まだまだ時間があるから、まだ頑張るわ。」と彼女。私も明日ロンドンに向かうこと、週末にロンドンの彼女のところに行くことを告げると、「どういうものが欲しいの?」と彼女。「ええと、パレロワイヤルのタティングシャトルとか、象眼のシャトルとか、シルバーのツールとか…。」とつらつら欲しいものを挙げていくと。「パレロワイヤルのタティングシャトルねぇ。はぁ〜。」とため息をつきながら苦笑。慌てて「私が欲しい訳じゃないのよ。私のお客様の日本のレディー達が探しているのよ。」と言い訳。ふたりで笑い合ってしまった。こんなに親しく彼女と話すのは初めて。思いがけないところで、思いがけない人と仲良くなれて嬉しい。

 夕方前には、会場を出て、今日はこれから一昨日お邪魔したディーラーの元へ。もう一度訪れれば、こちらでもまた何かに出変えるかも。歩き疲れた身体にムチ打って立ち寄ると、「もう一度来るかも。」と言っていた私のために、ロザリンペルレの広巾ボーダーを持って来てくれていた。こんな広巾のロザリンなんて、見たことがない!パールも沢山付いていて、素晴らしく状態が良い!「来て良かった〜!!」と心の中で叫んでしまった。

 今日もまたまた1万歩越え。明日は朝からロンドン行きのため、さっさと帰宅してベッドに倒れ込む。

日本と違ってクリスマスのディスプレイは12月に入ってからのところがほとんどですが、こんなガラスのバブルが!透明感があって素敵。


こちらは文房具屋さん。パリの中では珍しく11月初めから早々とクリスマス仕様のショウウィンドウです。見ているだけで楽しくなりますね。


■11月某日 晴れ
 今日は晶子嬢と一緒にロンドンへ。一旦パリのホテルはチェックアウト、すべての荷物を預けていくので、朝からバタバタと荷物の整理。(昨日は疲れさっさと寝てしまったのだ。)今まで買付けたすべての荷物はスーツケースに。自分の私物は巨大ナイロンバッグへ。そしてもうひとつ持って来た小さなスーツケースにロンドンに持って行く私物を詰め込む。

 今回は全部の荷物を持っての大移動ではないので、ユーロスターの出発するパリ北駅まではいつものようにタクシーではなく、晶子嬢と共にメトロに乗って。(バスでも行けるのだが、時間の読めないバスと違ってメトロが一番早いのだ。)

 ユーロスターは往復とも私が事前にネット予約しておいたのだが、代わりにロンドンのホテルは晶子嬢が予約しておいてくれ、ロンドンに着いたらひたすら彼女にくっついてホテルまで向かう予定。初めてのホテル、ロンドンは一泊だけなので、今晩はツインルームに一緒に泊ることになっている。

 「ユーロスターに乗るのは初めて。」という晶子嬢にとって、パリ北駅のユーロスターのゲートが新鮮らしい。コピー紙にプリントアウトしたチケットを機械にかざしてゲートを抜けると、今度はフランスのイミグレーション。こちらはパスポートのチェックだけで、あっけなく通過。次のイギリスのイミグレーションは、いつも飛行機でイギリスに入国する際のヒースロー空港のイミグレーションと同じく、滞在目的や滞在日数を聞かれるのはもちろん、日本への帰国便の飛行機のチケットまで求められることも。一年のうちに何度もイギリスに訪れる私は、「観光」などと言わず「アンティークの仕入れで!」と即座に返答。暗に「アンタの国にいっぱいお金落としてるのよ!」とプレッシャーをかけている(つもり。)
 無事にふたつのイミグレーションを通った後、今度は荷物のレントゲン検査。それを通って、ようやく自由の身になれるのだ。駅の売店で、車内で食べるランチのバゲットサンドを買い込み、列車に乗り込む。

 珍しく遅れることもなく無事ロンドン到着!ユーロスターの到着したセントパンクラウス駅からは地下鉄で。今回のホテルはふたりともよく知ったベイズウォーター駅界隈。事前にしっかり調べておいてくれた晶子嬢のお陰でさっさとホテルも見つかった。ただ、残念ながらチェックイン時刻には早く、荷物だけラゲッジルームに預け、今日は別行動。今日も買付けに行くという彼女と別れて、私は唯一のオフ。久し振りにヴィクトリア&アルバートミュージアムへ。何度も何度も数え切れないほど行っているここだが、このところしばらくご無沙汰。既に買付けも終盤で疲れもピークだが、今日は半日ミュージアムで過ごすことに。

 ユーロスターの中でランチを食べたものの、まずはカフェでひと休み。ミュージアムの正面玄関から入った一番奥、中庭を抜けた先のモリスルームがカフェになっている。まずはここでお茶とクロテッドクリームとジャムをたっぷりのスコーン。こんなイギリス風なお茶をするのも久し振り。

 カフェでひと休みした後は、いつものようにコスチュームギャラリーから見て回り、17世紀から19世紀のイギリスコーナーへ。最後にジュエリーギャラリーを見てフィニッシュ!今日も知らず知らずに凝視して、集中力を使ったせいか、買付けと同じようにどっぷり疲れて帰宅。

ヴィクトリア&アルバートミュージアムの中庭を越え、あの扉から入るとそこは広いカフェ。


ステンドグラスを眺めながらお茶を。V&Aのカフェは大人気!いつも混んでいますが、何とか席を見つけました。


コスチュームギャラリーに足を踏み入れてすぐの場所に展示されている素敵なシルク生地とボディス。1860年代の衣装です。


上のボディスと一緒に展示されていた赤いペチコートと可愛いシルクシューズ。こんな靴、履いてみたい!


上のグリーンのボディスにはグリーンのシルクリボンと小薔薇のデコレーションのボネを。


1830年代のハイウエストドレスはまるでジェーン・オースティンの世界。男性の衣装は、「高慢と偏見」のダーシーを思わせます。


鮮やかな色合いはこの頃発明されたアニリン系染料の色彩でしょうか。バックスタイルもお洒落。


薄いモスリンのドレスにはカシミールショールを合わせて。カシミールショールのオレンジに合わせたコーラルのブローチ。実際に着けていた様子が分かって興味深いです。


こちらのウエディングヴェールはベルギーのブリュッセルアプリカシオンによるもの。大振りで贅沢です。


1870年代の細身のドレスはお人形の衣装を思わせます。ファッションは大きなフープから腰当てへと変わっていったのですね。


18世紀のシルク生地。こんな生地欲しいです!


18世紀のイギリスの邸宅を再現したサロン。天井にも豪華な金張りのデコレーション。こんな部屋で舞踏会をしたのでしょうか。この時代、照明はキャンドルです。


踊り場に以前は無かった展示コーナー。どうやらここは手芸コーナーの様子。クラシックなミシンの回りはシルバー製のくけ台。


ミシンの向こうは当時のソーイングセット。あれ!こんなセット以前扱った事がある!!


今日はアイアンワークのギャラリーへ。こちらはフランスの門扉だったアイアンワーク。いったいどんな邸宅に付けられていたのでしょう?


こんな風に長い回廊の壁いちめんにアイアンワークが。ひとつひとつ見ていくだけで楽しいです。


まだまだ続きます。ヨーロッパ中のアイアンワークがコレクションされています。


V&Aの入口レセプション。このガラスの巨大オブジェを眺めながら、毎回「ひょっとして落ちるのでは?」と思わず心配してしまいます。


隣の自然史博物館の前庭にはクリスマスツリーとスケートリンクが登場。冬の風物詩ですね。

■11月某日 大雨
 今日は早朝からロンドンでの買付け!今夕にはパリに戻るため、ロンドンでの買付けは今日一日。晶子嬢と共に早起きして気合いを入れる。午前6時から正午過ぎまでが勝負の時間。その間、ひたすら歩き、集中して物を見つめ、決断をし、とにかくその時間は決死の覚悟(笑)で働くのみだ。

 午前5時過ぎには起床して再び荷物をまとめ、ラゲージルームに預ける。まだ外は真っ暗、早朝のロンドンの治安はいまひとつ、ホテルから買付け先までは予約していたタクシーで。大雨の中、ふたりともタクシーに乗り込み、目的地へ向かったはずなのに、「ハイ、ここ!」と降ろされそうになった場所はまったく予期していない見覚えのない場所。暗闇に目をこらし、「ええっ!?ここ?」と動揺する私達。「ちょっと電話貸して!」と、ドライバーのスマホを奪い、うろたえながらgoogle mapを出し、「ここじゃなくて、この道の逆方向だ!」スマホの地図を見せながら、「ここよ!ここ!」と指示。お陰でなんとか目的地に到着することが出来た。ロンドン名物のブラックキャブだったらまずこんなことはないのだが、今日はホテルが依頼したミニキャブ。(試験に通るのが難しいブラックキャブのドライバーになる以前のドライバーが営業している事が多い。)とにかく目的地に着くことが出来て良かった。
 タクシーを降りると晶子嬢とはここでお別れ。「じゃ、ホテルでね!」とだいたいの時間だけ決めてホテルで落ち合うことに。さぁ、ロンドンの買付けの始まりだ。

 まず最初に向かった先は、ソーイングツールを預かって貰っていたディーラー。前回、彼から買付けた物が無事お客様の手元に渡ったこと。感謝の気持ちを伝えるメールをしばらく前に彼に連絡した折、「前回と同じエンジェルのはさみが偶然出てきたんだよ!!よかったら取っておくよ!」という返事を貰ったのだ。そんな訳で、まず最初にここではさみを引き取ることに。早速ディーラーと挨拶を交わし、はさみを見せて貰うと、「もうひとつ、あなたのために取って置いたよ。」と彼。「えっ?何?何?」と尋ねると、出てきたのは象眼細工の鼈甲製のタティングシャトル。「ほら、鼈甲製だよ!」と彼。価値の分かる者同士、お互いににっこり頷く。彼がそれを見つけてくれたことも、私のために取って置いてくれたことも、物凄く嬉しい!「そちらも一緒に!!」と答える。そしてもうひとつ、今日は興味深いアイテムが。それはワックスフラワーのデコレーションが収められた厚みのあるフレーム、ワックスフラワーで作られたCとBのイニシャルも見える。しげしげ眺める私に、「これは今日初めて持って来たんだよ。結婚のお祝いだと思う。」と彼。グローブドマリエに似ているのだが、今までこんなフレームは見たことがない。気持ち良く、こちらも一緒にいただいた。

 いつも必ず立ち寄るジュエラーのマダムは、「ミスターはどうしたの?」と河村のことを気遣ってくれる。「彼はたぶん一生懸命東京で働いている…はず。」と答えると、思いの外ウケてしまった。こってりしたダイヤのリングとシールふたつを選ぶ。小さなシールもひとつひとつルーペでインタリオをチェックする。今回選んだのは、平和のシンボル鳩のシールと忘れな草のシール。「ほら、"PAIX(フランス語で「平和」の意)"と彫ってあるでしょう?」とマダム。それからシールを通すためのスプリットリングも。このスプリットリング、探してもなかなか出てこないことが多いのだ。運良く手に入ってラッキー。

 それは思いもかけないところから出てきた。そう、それはいつも探しているタティングレースのパラソル。様々な知り合いのレースディーラーの声がけをし、いつも見つけると共に連絡を貰うことになっているというのに、「え!?どうしてあなたが?」というジュエラーの女性ディーラーが持っていたのだ。普段はあまり縁の無い女性ディーラー。彼女の後ろ側にパラソルを見つけた私は、思わず「それはいったい何?」と聞いてしまった。彼女は、「これはタティングレースと言って…。」と説明を始め、私に手渡してくれる。折りたたまれているアイボリーハンドルをそっと組み立て、中のシルクを傷めないように注意深くパラソルを開く。パラソルのあちこちをよくよくチェックし、「大丈夫!まずまずのコンディションだ。」と心の中で呟く。それにしても、「どうしてこんな場所に?」という感じのパラソルとの遭遇だったのだが、他の誰かの手元に行かないうちに私と巡り会ってくれて本当に嬉しい。もう一度、今度はそっと畳み、マダムから譲って貰った。

 タティングレースのパラソルを得たことで、テンションも上がり、快調に歩く。次は、一昨日パリのフェアで出会ったソーイングツールを扱うマダム。先日会ったばかりのマダムとは、「あの時、疲れたわよねぇ。」と、いつにもましてフレンドリーな会話。そんなマダムがすすめてくれたのは、マザーオブパールのツールふたつと最近見なかったセルロイドのメジャー。セルロイドのフラワーバスケット形のメジャーは、ソーイングツールのカタログ本には必ず掲載されているアイテムだが、このところずっと目にすることがなかったのだ。手に入って嬉しい!

 ダイヤのスターバーストジュエリーは、なかなか気に入ったジュエリーが見つけられない中で、手にすることが出来た上質なジュエリー。中央のダイヤも大きく、地金の重厚感もばっちり!何度も何度もルーペでチェックした後、商談成立!

 前回、ホリディに出掛けていて、会うことの出来なかったレースディーラーは、その時の埋め合わせか、私のリクエストぴったりなアイテムを沢山持って来てくれた。まずは大振りなタティングレースの襟、常時イギリスにいる彼らにとっても「タティングは本当に難しい、なかなか無いレース。」と言ってはばからないが、前回会えなかった代償か、私のために大振りで豪華な襟を持って来てくれた。そして、同じく以前からしつこく私がリクエストしていた手刺繍のベビードレス。今回は私の好みに合わせてゴージャスな手刺繍の洗礼式用のドレス3着持って来てくれて、その中から2着をチョイス。さらに、いつも「アランソンが〜!アランソンが〜!」とうるさい私のために19世紀のアランソンのボーダー。(しかも4m以上あるという長さ。)上等なレースばかり、わざわざ私のために持って来てくれたのかと思うと、「すべていただきたい!」と思ってしまう。他にもいくつか気に入ったレースを選びご満悦な私。何かと気を使ってくれる彼らに感謝の一言だ。

 オパールのリングとゴールドのブレスレットは、いつもお世話になっているジュエラーのマダムから。一粒石のオパールの両側に小粒のダイヤをセットしたリングはクラシックで可憐な雰囲気。同じくしなやかなゴールドチェーンのブレスレットもこちらから。いつも探しているアイテムだ。パドロックにも手彫り彫刻、幅のあるチェーンにも梨地の細工を施したこちらは、私達の好みにぴったりなアイテム。物を見つけるのが非常に難しいと感じる昨今、好みの物との出会いは本当に嬉しく、ほっとする。

 そんな風に雨にも負けず7時間は歩き回っただろうか。晶子嬢との約束の時間が迫ってきた。最後にもう一度レースディーラーにお礼を言い、今度はブラックキャブ(タクシー)でホテルに戻った。

 ホテルのロビーには既に晶子嬢が。私も一緒に革張りのソファーにドッカリ座り、ラゲッジルームから出して貰ったスーツケースに、買付けてきたばかりの商品を詰め込み始めた。スーツケースは商品だけでいっぱいになってしまったので、自分の私物は大きなナイロンバッグへ。どっぷり疲労感の私達は、地下鉄でここまでやって来た昨日とは違って、今度はタクシーでセント・パンクラス駅へ。

 セント・パンクラス駅からパリに向う時には、駅の構内にある美味しいパンのお店Le Painquotidienで美味しいバゲットサイドを調達するのが決まり。晶子嬢と共に遅いランチを調達し、ゲートに入り、またもや今日も荷物のレントゲン検査と二国のイミグレーションを通り抜け、ロンドンの最終目的地、セント・パンクラス駅内のカフェへ。ここでたっぷり大きなグラスで白ワインをオーダーし、買ってきたばかりのバゲットサンドを食べるのが数少ないロンドンでの楽しみなのだ。晶子嬢と今日の戦績について話しながら遅いランチ。ふたりともほっとするひとときだった。

 が、その後乗ったユーロスターがパリに到着したのは、なんと定刻の約1時間遅れ。どうやら列車のトラブルなのか、途中からのろのしたスピードで全然進まなくなってしまったのだ。車両の故障は、新幹線と違ってユーロスターではさほど珍しいことではないが、疲れているところになかなか到着せず、まるで追い打ちをかけられたようだった。パリのホテルに着いたのは午後9時過ぎ。せっかく「最後の晩餐」に、華々しくレストランに行こうと思っていたのに、長い一日にぐったりした私達は近所のキャフェで、ワインとプレートのキャフェご飯。晶子嬢との楽しい夕べ、それはそれで美味しかった。

■11月某日 晴れ
 買付け最終日、まだ諦めきれない私は、僅かな時間しか無いにもかかわらず、今日も買付けへ。実は、まだ日本から用意してきたユーロを使い切ることが出来ていないのだ。このまま日本へ持って帰っても良いのだが、どうも諦めきれない私は、早々荷物をレセプションに預け、ホテルをチェックアウト。今回の帰国便は午後4時台なので、迎えのタクシーがホテルに来るのは午後1時。その時間に晶子嬢とホテルで待ち合わせすることにして、既に2度行ったフェアに、今日3度目のトライ。フェア会場にいられるのは約2時間。ひょっとしてひょっとすると何か買付けられるかも…。
 いつものようにバスに乗りフェアの会場へ。開場前にゲートに並び、開場と共に入場。今日はとにかく急いで会場を回るのだ。

 先日迷ったエナメルボックスのブースを通る。マダムはいないが、ボックスはそのまま。改めてガラス越しに見るボックスに、「やっぱりこれはないわ!」と心の中で独り言。次に向かった先は、何度も通ったレースを扱うマダムのブース。あまりに高価だったレース。「これも無理だわ!」とガラスケースの中を一瞥しながら通り過ぎる。顔馴染みのマダムのブースも、今日はケースをチラ見して素通り。

 先日、買付けたジュエラーのムシュウのブースでは、もう一度ケースの中を眺め回す。「そうだよね〜。もうないよね〜。」と心の中で呟き、彼と同じブースを一緒にシェアしている若いマダムのケースに目を移す。まだこの仕事を始めて間が無い様子の彼女は生まれてまだ数ヶ月の赤ちゃんを連れ、懸命にお仕事。そのかたわらには上手に赤ちゃんをあやすムッシュウもいる。

 今までも彼女のジュエリーは見ていたはずなのに、ケースの中に「あれっ!」という物を発見。それはガーネットとシードパールのピアス。「そうそう、こういうの欲しかった。」という感じ。それをケースから出して貰う間に、もうひとつ、クッションシェイプのダイヤのソリテールリングが。「えっ!?どうして今まで気付かなかったんだろ?」と、今度は自問自答。そちらも一緒に出して貰い、ルーペで隅々までチェック。結局、ふたつとも買付けるには持っていたユーロでは足りず、僅かに残っていたポンドを足してお支払。空港までのタクシー代は既にホテルでお支払い済み、最後の最後に綺麗さっぱり使い果たし、まるで憑き物が落ちたかのよう。ようやく肩の荷が下りたのだった。

 ほぼ一文無しになったら、もうここには用は無い。ホテルの側までは僅かに残っていたコインを握りしめ再びバスに乗って。そして、バスに乗っているうちに良いアイデアが浮かんできた。最寄りのバス停のひとつ手前で降りて、クリュニー中世美術館に寄ることを。確か美術館の入場料はクレジットカードで支払うことが出来たはず。文無しでも大丈夫!

 長年すぐ近くに滞在しているにもかかわらず、クリュニー中世美術館を訪れるのは、なんと20何年振り!その当時、有名なタペストリーも暗く闇の中に沈んでいるようだった。一昨年、日本の美術館を巡ったのは、この美術館の改装をするため。たぶん以前よりも見やすくなっているに違いない。しかも、久し振りのフランスの美術館に心が躍る。また、その当時の記憶はタペストリーしかなかったのだが、今回は他にも興味深い展示が沢山!ことにローマ遺跡でもあるこの建物そのものにも感動したのだった。現在のパリの街は1900年前後に作られたので、中世の物はほとんど残っていないが、ここは中世のテーマパークのよう!こんな近くにこんな楽しいところがあったなんて!もっと早くに河村も連れて来てやれば良かった!

 時間が迫っていたので、幾分早足ではあるものの、すべての展示物を見ることが出来、買付けの最後に中世の趣きにどっぷり浸かり、大満足のクリュニー博物館だった。

クリュニー中世美術館が見えてきました。この外壁を隔ててみる景色からして、期待が膨らみます。


こちらの美術館の起源は、ローマ時代の浴場遺跡に建設された14世紀の修道院とのこと。ゴシック建築のフランボワイヤン様式とルネサンス様式の混合だそうです。


こうした塔などもマレ地区の古い館を思わせます。

扉の上の装飾はフランボワイヤン様式でしょうか。興味深いです。

15世紀末の聖バルバラ像。そういえば、タペストリーも同時代。タペストリーの女性像も同じようなターバンを被っていたはず。


繊細な象牙彫刻が素晴らしい1200年頃の聖遺物入れ。

あまりにも有名な「貴婦人と一角獣」より「我が唯一の望みに」。とても静かな空間でじっくりと見ることが出来ました。


こちらは同じく「味覚」。赤とブルーの対比がとても美しいです。

1500年頃の木彫の聖母子像。木彫の暖かみが感じられる作品です。


ステンドグラスの最盛期といわれる12世紀から13世紀のステンドグラス。ブルーの色合いが何とも言えません!


ローマ時代の浴場跡だったこの建物。紀元前にはここにセーヌの水を引いて大浴場が造られていたそうです。


館内の回廊に刻まれていた彫刻。当時の修道院の高僧だったのでしょうか。こんなおじさん、今もどこかに居そうです。(笑)


外から見た美術館の建物。こちらはローマ時代の遺跡の跡ですね。

こちらも外から見た外壁です。ローマ時代は、一大ヘルスセンターだったとか。ローマ時代の遺跡が、今もパリの真ん中にあることに感動してしまいました。


***今回も長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。***