〜前 編〜

■5月某日 晴れ
 今回、買付けに出掛けたのはお店で「すずらん祭り」を開催していた最終日。今回はスケジュールの都合で、本来もっと先に行くことになっていた買付けを前倒しにして行くことになり、「すずらん祭り」の最中でもあったため、ひとりでのひっそりとした買付けとなったのだった。

 朝、いつものように河村に空港行きの箱崎のバスターミナルまで見送られ、連休中ということもあり、スムーズに成田に着くと…機材の関係でマサカの時間変更!11時20分発の飛行機がなんと16時10分発に!!パリ到着は21時30分と聞き、グランドホステスのお姉さんに思わず「ええ!?」と聞き直してしまった。
 搭乗は6時間先。一瞬、「家に帰ろうか?」と頭をよぎるが、バス代を考えてそんな考えを頭から払拭する。こういう体験は始めてだが、欠航にならなくて本当に良かった!

 飛行機会社から支給されたミールクーポンで朝からお寿司など食べ、一緒にビールなど飲んだりしてひたすら時間をつぶす。(ミールクーポンですべてを支払おうとしたら、「ビールには使えません。」と言われ、ムクレる。)

 長い待ち時間にはスマートフォンが必須。バスの中で散々インターネットのニュースを見てきた私の携帯はもう充電が心もとない。(スマートフォンは便利だが、本当に充電の減り方が速いのが玉にキズだ。)仕方なくダメもとで近くの携帯電話のレンタルサービスのブースの若い男女の店員さんに「充電出来ませんか?」と聞くと「充電は出来ないのですが…。」と歯切れの悪い返事。「コードは持ってるので、コンセントさえあればねぇ…。」と呟くと、「その辺のコンセントに刺しちゃって大丈夫ですよ!」と今度はふたり揃って明快な返事。「え?それって盗電じゃ…。」と畳み掛けると、「大丈夫ですって!」と無責任かつ明るい返事が返ってきた。
 さっさとゲートに入った後は目を皿のようにしてコンセントを探したのだった。(空港内には意外に沢山コンセントがあることをこのほど発見。)

 待つこと6時間。6時間経ってもまだ成田にいることに愕然としながらも、ようやく搭乗時刻になり、機上の人となった時には、心底ほっとした。

 結局、パリのいつものホテルに着いたのは午後11時。あらかじめ成田からホテルに遅れる事をメールしておいたので、優しいレセプションのムッシュウは、外に私の姿が見えるや否や荷物を運びに飛んできてくれた。そんなちょっとした親切がとても嬉しい。

■5月某日 晴れ
 買付け第一日目は朝から出動!想像していた通り気温はけして高くない。ウールのタートルネックのセーターに同じくウールのカーディガン、ショールにコートというまったく冬の格好で出掛ける。

 いつものように早朝のバスに乗り、バスのドライバーに"Bonjour!"と声を掛けると(バスのドライバーと挨拶を交わすのはフランスではごく当たり前のこと。)、なんだかパリに「帰ってきた。」気分がしてきた。今日もアポイントを入れたディーラーが何軒か。メールでは皆「待ってる!会えるの楽しみにしてる!良い物を用意しておくから!」と言っていたが、果たして実際はどうだろうか…。

 まずは久々に会うディーラー夫妻。彼らの扱うアイテムはとても私達のツボに入った物ばかりなのだが、いかんせんタイミングが合わず、このところしばらく会っていなかった。久し振りに会う私にもマダム(ここは夫婦で仕事をしているのだが、イニシアティヴを握っているのはどうやらマダムだと私は踏んでいる。)は、「また来たわね。」というような、見知った者に対してのちょっぴり辛口の微笑み。(何しろフランス人は見知った者とそうでない者との線引きが非常にはっきりしているので。)そんな彼女のガラスケースの中にすずらんのニードルケースを発見!すずらん柄の物は久し振り、欲しかったアイテムにテンションが上がる私。早速見せて貰うと、マダムはまたここでも「ほら、5月1日はすずらん祭りだし。」と魅力的な辛口の微笑み。他にも、お客様からのリクエストでずっと探していたルルドのスーヴェニール。こちらも嬉しい出物だ。ふたつ一緒に入手し、次の場所へ。

 いつもレースや布物を扱う私と同世代のマダムとムッシュウは、今日は珍しく子供連れでお仕事。お手伝いの女性に「彼ら、子供がいたの?」と聞くと、「そうそう。いつもは彼女のお母さんが預かっていたんだけど、今バカンスでいないんだって。だから今回は犬も子供も一緒に連れてきたみたいよ。」という返事。子供が犬と一緒にされているところがおかしい。(でも実際見ていて、彼らの中では「子供は犬以下」と思っているフシが垣間見える。)
 そんな彼らの所をガサゴソしていると、様々な物の下から美しいリボン刺繍の物が出てきた!前からも後ろからも、内側も素早く状態をチェック。シルク製のリボン刺繍は傷みがあることが多いのだが、これは珍しく良好なコンディション!めっきり可愛い物が少なくなった昨今、「あら〜、こんな物もあるのね〜。」と嬉しい独り言。そしてもうひとつはボワシエの贈答用のシルクのポーチ。お花の地模様と一緒に"BOISSIER"の文字が織り出されたそれは凝ったブレードも付けられていて19世紀の趣きが伝わってくる一点。日本からは撤退してしまったボワシエ、以前16区のボワシエの店舗に足を運んだ時、同じような19世紀のポーチやチョコレートボックスがディスプレイされていて、「チョコレートよりもこれが欲しい!」と強く思ったのをよく覚えている。私が嬉しそうに手に持っているのを見たマダムも「これ素敵でしょ!私も凄く好き!」と熱い一言。洋の東西を問わず、好きな物は同じなのだ。

 午前の部は他に繊細な編み目のパニエやデッドストックのお花のモチーフなどを入手。どちらも最近あまり目にしない物だけにありがたくお持ち帰り。近くのブーランジェリーでいつものプーレ(鶏肉)のバゲットサンドをパクつき、次の場所へ。

 午後の部はレースのディーラー他、次々と回る先が。まずはレースのマダムから。いつものように両頬ビズーのフランス的挨拶を強要され(ビズーは「音だけ」なので、実際に頬に唇画触れる訳ではないけれど…。)、抱きしめられ、「ムッシュウは?」と尋ねられながら、それを終えてようやく商談。今回、これといったレースのボーダー類は無かったものの、見たことのない大振りな襟を発見。それはハンドのヴァランシエンヌレースを組み合わせて作った大振りな襟で左右がとても長く作ってある。よくよく思い出すと、以前扱った19世紀のモード雑誌の中で見たことのあるアイテムだ。それは肩から降ろし、前でクロスし、後ろで蝶々結びにするというファッションアイテム。「これってフランス語でなんというの?」と聞く私に、マダムは"CANEZOU"とメモしてくれた。「え!?カネゾウ?」と一瞬不審に思ったものの、実際の発音は「カンズー」、どうやら袖無しのケープを指す言葉らしい。モード雑誌の中のドレスは大きく膨らんでいたので、1860年代頃、19世紀半ばのものだろうか。なかなか見ないファッションアイテムなので興味深く、そのうえデッドストックと思われる状態の良さ、今回はこちらをいただくことに。

 もうひとり、生地を扱うマダムも今日の目的のひとり。このマダムも、まぁ、個性豊かというか、パリの人には珍しく愛想が良いばかりか、いつも話しているうちに私の手をニギニギし始めるというなんとも距離感の近いマダムだ。(一旦知り合いになりさえすれば、フランス人の方が日本人よりも、人対人の距離感はずっと近い気がする。)今日もある程度私が生地を選んだ後、マダムと商談を始めると、いつしか私の手を握り始める。(笑)「だって、綺麗なシルク生地はなかなか無いし…(ニギニギ)」といった具合だ。そんな風に商談を終え、今日も美しい織柄のシルク地をゲット!マダムには頑張ってこの仕事を続けて貰わなければ。

 こちらは一転変わってクール、時代衣装やレースを扱うマダムはプライドが高く、初対面で「見るだけ」だとちょっと凹んでしまいそうな冷ややかさ。でも、すっかり慣れた私には、ちょっぴりだけ微笑んでくれる。今日は最初、ムッシュウしかいなかったのだが、彼がマダムに「日本のディーラーが来たよ!」と電話で呼んでくれ、すぐにどこからか飛んできてくれた。そして、こちらはビズーではなく「握手」でご挨拶。彼女との距離感は「握手」止まりなのだ。でも、すっかり私の欲しいものを把握している彼女は、奥から素敵なレースを出して来てくれた。そのひとつは広巾のアランソン、そしてロココの付いた流麗なホワイトワークのボネ、もうひとつ私が選んだのは幾分凝った細工のデュシェスレースのボーダー。どれも私がとっても好きなアイテムだ。「とても美しいわ。」と私がため息と共に呟く言葉に満足気なマダム。「次回、また連絡して来ますから。」と丁寧にお礼を言ってマダムとムッシュウの元を去った。

 いつも顔を合わせるディーラーのムッシュウは本当に商売熱心。私には必ず日本語で挨拶してくれる。フランスの数あるディーラーの中でもそんなのは彼だけ。とても日本贔屓でもあるのだ。今日は特に用事が無かったので、挨拶だけして「じゃあ、またね。」と去ろうとした私を、「ちょっと待ってて!」と強く引き留められた。そして奥から出てきたのは、とても状態の良いシルバーハンドルのめうちとかぎ針のセット。確かに良い物だけれど、けっして安くないのも彼の特徴。「う〜ん。」と迷う私に、「あなたのために取って置いたんだよ。あなたにぴったりだと思って。」と彼。その言葉にホロリとさせられ、「いいや、なんとかお値段安く付けましょう。」と陥落。

 そんなやりとりを繰返しながら、ふと気付くと午後5時。買付け初日、朝から終日しっかり仕事をしてしまった。最近愛用しているiPhoneの万歩計アプリを見ると1万5千歩あまり。あまりの歩数に「ひえ〜!もう帰らねば。」とホテルに退散。

ようやく初夏がやって来たパリでは藤のお花が満開。建物の壁面にびっしり這った藤のお花はとても豪華です。


藤と同じく、この時期はライラックの季節でもあります。これはお花屋さんのお花ですが、この時期のフランスではどこでもライラックのお花を目にすることが出来ます。

■5月某日 晴れ
 朝から寝起きのまま河村とiPhoneでfacetime(携帯の画面を通してするいわゆるテレビ電話。Wifi環境であれば海外でも無料で通話出来る。)をしていたときのこと。寝起きのままボサボサの頭で、お店にいた河村と話していると…「え?サカザキさんはまだ来ていないの?」と電話の向こうの日本からお客様の声。河村が買付け中であることをお知らせすると「えぇ!?パリなの!!?」と驚かれた声が。その後、ボサボサで化粧もしていない私の「目から上」だけ画面に映しながらお客様とおしゃべり。あの小さな携帯で、東京―パリ間の距離を顔を見ながらお話し出来るなんて…改めて「凄い時代になったな。」と思うことしきりだった。

 今日も昨日とほぼ同じルートをもう一度たどって見落とした物が無いか確認する予定。昨日のiPhoneの万歩計アプリは1万5千歩を記していたが、果たして今日の成果はいかに?

 昨日と同じように朝からバスに乗って買付けへ。なにしろ昨日一度見ている物ばかりなので、目を皿のようにしていても、いくら歩き回っても、特に収穫が得られず。昨日一通り見ているから当然なのだが、昨日上がったテンション急落。そんな中、「あれ?これは昨日見てないゾ。」小さな香水瓶というかセントボトル(気付け薬を入れるための小さなボトル)をいくつも持っているディーラーに遭遇。どれもイギリスの物とみられるセントボトルで、これだけの数があるということは、きっとコレクターのコレクションだったのかも。ひとつひとつ私が手に取って改めていると、持っていたディーラーのムッシュウは「これは元々コレクターだったマダムの物だよ。」そしてマダムは手振り身振りで「コルセットを着けると気分が悪くなってそんな時嗅ぐ物よ。」と教えてくれた。「やっぱりね。うんうん、知ってる。」と頷きながらセレクト。
 いつも思うのだが、フランスでイギリスらしいアイテムを仕入れると、思い切り高いか、もしくはイギリスではあり得ないほど安いかのどちらか。今回は運良くイギリスでは考えられないほど安い。(イギリスでは、この手のセントボトルはコレクターズアイテムで小さい割に高価。)フランスでイギリスらしい物を仕入れるのに一瞬躊躇したが、「でもこれ私好きだし。」と仕入れることに。ピンクとホワイトの小さなレースグラス、今回のお値打ちアイテムのひとつだ。

 今日はもう一箇所、日にち限定のフェアへ。事前に地図をチェックすると、ちょうど一番目の仕入れ先からバスとメトロを使えばさほど遠くないことが分かり、本日二番目のスケジュールに組み込んだのだ。日本の縁日にも似ている商店街にずらりと露天が出たアンティークフェア、元々お肉屋さんや八百屋さんが並んだ路地に出ていることもあって、人通りも多い。露天が連なる長い通りを一軒一軒チェックしながら歩く。

 いったい何軒覗いたことか。すべてチェックしたものの欲しい物は皆無。「こういう事ってよくあるよね…」と自分を慰め、ため息をつきながら次の場所へ。またもやメトロとバスを乗り継いで目的地へと向う。

 再びバスに揺られてたどり着いた先、午後も昨日回った場所をもう一度確認のため巡る。昨日も一度見ているから当然とはいえ、新たな発見は…ない。昨日は会わなかった顔見知りのディーラーに呼び止められる。「何を探しているの?」と聞かれ、以前彼からアイボリーの美しい彫り物を譲って貰ったことを思い出し、「何かアイボリーの小物とか…。」と答えると、「ほら、こんなのはどう?」と小さな紙箱を見せられた。中から出てきたのは小さなアイボリーの動物シリーズ。どう見ても中国製と思われるアイテムで、「う〜ん、そうじゃなくって…。」と心の中で呟くも、「あなただけ特別に○○ユーロにするよ。」と畳みかけられ、「おいおい。」と更にテンションが下がる私。「また来るわ。」と一言残して立ち去った。

 そんなこんなで、一日歩き続けるも、気付くと朝からロクな仕入れが出来なかった一日。無駄足になろうとも今日も1万3千歩!夕方近く、今日もぐったり疲れて帰宅。案外、沢山仕入れが出来て重い荷物を持っている時の方が、気持ちは元気なのかもしれない。

鬼の居ぬ間に…何年も前からずっと気になっていたエスパドリューユ、河村に「そんな物が欲しいの?」と言われてなかなか買えなかったのですが、今回河村がいないのを良いことに購入!50ユーロ也。意外に歩きやすいです。


ひとりの夕食は雑誌をお皿代わりに、今日はお総菜のポロ葱のマリネ(ホワイトアスパラが無かったので。)とパンとワイン。このシリアル入りのバゲットとエシレバターの組合わせは最強!美味し過ぎる!(フランスでは、エシレバターは普通にスーパーで売っています。)

■5月某日 晴れ
 買付けも三日目。三日目にして今日はようやく朝ゆっくり、アポイントの時間が遅いため、近所のいつものキャフェでのんびり朝食を食べゆっくり出掛ける。ひとりで食べる朝食、でもここには見知ったギャルソンがいて、「あぁ、今日もまた来たね。」と迎えられるのもちょっぴり嬉しい。腹ごしらえの後、今日はメトロに乗ってアポイント先へ。

 今日のアポイント先は膨大な在庫を所有するテキスタイル系のディーラー。テキスタイル系といっても、そこには19世紀末からの膨大なコスチューム類、帽子や靴、そして私の目的であるリボンやブレード、生地類、お花等々、とにかく沢山!ただ、沢山あるだけに玉石混淆、そこから欲しい物を見つけ出すのが何より大変なのだ。河村とふたりの時には手分けしてチェックするのだが、今回はすべてひとりで。今日はここで一日仕事!

 本日、オーナーはバカンスのため留守。まずは何人かいるスタッフに挨拶もそこそこ手荷物を預かって貰い、身軽になっていざ出陣!この膨大な在庫の山、ある意味一番忍耐が必要とされる仕事かもしれない。いったいいくつあるのか、どんなデリケートなリボンもお花もフランスの巨大ホッチキスで「バッチン!!」と台紙に留められているメンタリティーに毎度おののきつつ(それを毎回傷つけないように台紙から外すのも大変!)、何千点?の膨大な数をチェック。

 結局、素材はさほど集まらなかったものの、そのほとんどが大人用の衣装が並ぶコスチューム部門から数少ない子供用のアイテム、素敵な子供用のボネを発見。薄いローンを贅沢に使って作られたそれはとても豪華。いったいどんな裕福なお家の子供が被っていたものなのか?
 今日は他にも思いがけずレース編みで作られた小さな可愛いパニエとそれにぴったりのお花が出てきた。時間を掛けて探しただけあって、数は少ないものの気に入ったものが出てきて本当に良かった!結局、そこを後にしたのはお昼をとっくに過ぎた時間、あっという間に時間が過ぎてしまった。バスを乗り継いで今度はパリの街へ。

まるで絹のような質感の芍薬は近所のお花屋さんで。淡いピンクとアイボリーのたっぷり豪華なお花。フランス人は本当に芍薬が好きですね。


近所でバスを待っている間に見つけた建物。これが人の顔に見えてしまうのは私だけでしょうか?

 私のとってのパリはバス移動が基本。地下鉄よりもバスの方がまだ安全だし、移動中にずっと外の風景を見ることが出来るのが楽しく、ラッシュアワーでなければだいたい座れることも大きなポイントだ。もちろん地下鉄でも移動出来るのだが、私がいつも滞在しているリヴ・ゴーシュのオデオン界隈からセーヌ川を挟んだ向こう側リヴ・ドロワへは地下鉄よりもバスの方が便利、バスに乗ればだいたい思ったところへ行くことが出来る。

 今日もホテルに帰る道すがら、バスを乗り継ぎもうひと仕事へ。携帯の乗換アプリが無いとどこへも行くことの出来ない東京にいるのと違って、バスを駆使して歩き回るのはとても自由になった気がする。日本語の通じる東京よりもパリにいる方が自由な気がするなんて、自分でも少々納得のいかない気持ち。だが、20年近く買付けに来ていて自分の足であちこち歩いているパリなので、それも当然のことかもしれない。

 ホテルに戻る前に立ち寄ったジュエラーのところでも今日は収穫無し。明日は待ち望んでいたフェアの初日。「そんな日もあるさ。」といつものキャフェでひと息入れて帰る。

明け方の気温は低いのに午後は夏のような暑さ。一日の仕事の終わりはやっぱり夏らしくコート・ド・プロヴァンスのロゼ。チップスは顔馴染みのギャルソンのサービス。(日本にいる時は全く食べないのに、こちらでは連日食べさせられていました!)

■5月某日 晴れ
 さぁ、今日はいよいよ今回一番の目的、パリの市内で開催されるアンティークフェアへ。以前は良く足を運んでいたこのフェア、開催時期が限られているため、ここ最近予定が合わずしばらく訪れることがなかったのだ。今日はのんびり朝ごはんを食べている間もなく、さっさと支度をして出掛ける。

 バスに乗って出掛けたフェア会場では、まだディーラー達が荷物を運び入れたり、商品をディスプレイしたり…そんな作業の邪魔にならないように、でもじっくり見て歩く。皆ディスプレイが済んでおらず、なかなかその全貌を見ることが出来ないまま、あちらへこちらへ。

 そんな中、私好みの雑貨を沢山ディスプレイしたブースにたどり着いた。まだ誰からも荒らされていない新鮮な感じ。(アンティークに「新鮮な感じ」というのもヘンなのだが。)周りの目も気にせず気に入ったものから手当たり次第、「絶対誰にも渡さないもんね!!」とばかり次々抱え込んでいく。ソーイングボックスにジュエリーボックス、バスケット、それに紙製のボックス、etc.(最近、状態の良いそうした雑貨系のアイテムを探すのは至難の業なのだ。)取りあえず欲しいものを抱え込んだ後は、一点一点状態のチェック。そして本当に必要な物を絞り込む。その時、はたと我に返ってブースのオーナー夫妻とにっこり目が合わせて挨拶すると…「なんだかこの人達見覚えがある!あれ、どこで会ったのだっけ?」
 そう、彼らは、私が度々足を運ぶノルマンディーのフェアで会ったことのある二人。この冬、彼らにノルマンディーで会った時にも、彼らのブースでひとり「大量買い」をした記憶が。私が「ノルマンディーのフェアにも出ているわよね?」と尋ねると、「あ〜あ〜、あの時の…。」という感じで私のことを思い出してくれた。(こういう時は私がオリエンタルなので、みんなの記憶によく残っていて便利。)今回も前回同様に、欲しい物をしっかりゲット。朝イチから欲しい物を手に入れ、気分も軽く彼らのブースを後にした。

 その後出てきたのはロココ付のパウダーボックス。また別のブースのガラスケースの中に鎮座していたのを見つけたのだ!ロココ付のボックス、ずっとずっと探していたけれど、出会ったのは久し振り。ふたの裏側にミラーも付いていて重みがあるのも何だか嬉しい。

 同様に豪華なオルモルのデコレーションが付いたグラスのパウダーボックスも欲しかった物のひとつ。目入るや否や「そうそう、こういうのが欲しかったのよ!」とすぐさま商談に入る。薔薇とリボンの彫刻的なデコレーション、これもまたフランスらしいアイテムのひとつだ。喜び勇んで入手したものの、その後このポットの重さに苦しむことに…。

 大きなサイズのレースを扱うことがないので、テーブルクロスやシーツなどの大きなリネン類を扱うディーラーにはあまり縁がない。今日も、そういったブースをサラリと流そうとしたところ、ブースの奥に私の眼を留める物が。ニュアンスのあるピンクのシルク、なにやら四角い形の子供柄。普段は寄ることのないブースだが、この時はズカズカ奥まで入って行って、むんずと掴みチェック。それは小さな、「ひょっとして子供用かしら?」と思われるハンカチケース。とにかくシルクの質感が美しく、石版印刷の子供柄が可愛く、そして状態も良好。私の一連の行動を見ていたマダムと商談。けっして高価ではないのだが、思わず「で、それが最終プライスかしら?」と尋ねると、「分かってるでしょ?これが綺麗で可愛いこと!」と笑われてしまった。

 私の顔を見てにっこり笑いかけてくれたのは顔馴染みのディーラー夫妻。親切なムッシュウとしっかり者のマダム。昔から知っている私にとって、彼らは「お兄さんとお姉さん」という意識が抜けないのだけど、お互いにもうすっかり貫禄のあるマダムとムッシュウになってしまった。でも、綺麗な物を持っているのは昔から変わらず。今日も「ここは見なくては!」と気合いを入れてブースへやって来たのだ。
 まず目に付いたのはガラスケースの中のすずらん模様、久々に目にするシルバーのピルケース。宿り木や柊の模様はよく見るのだが、すずらん模様は本当に無い!!マダムに出して貰うと、出してくれたマダムも私のチョイスに満足そう。もうひとつ目にした可愛い模様のカルトナージュを「誰にも渡さん!」とばかりに引っ掴み、今日は優しいムッシュウではなくシビアなマダムと交渉。ふたりであ〜でもない、こ〜でもない、とお値段について交渉ののち、最後は話がまとまった。

 そんな調子で会場内を朝から4周、いや5周は回っただろうか。(なかなか開かないブースもあるので、何周も回るハメになるのだ。)いつもは荷物をすべて持ってくれる河村も今回はいない。だんだんと肩に食い込むガラスのパウダーポット(正直こんなに重いと思わなかった。)& more、途中、フェアの会場でバゲットサンドをささっと食べて昼食を済まし、今日も夕方まで物を探して過ごす。

夕方になってもまだまだ明るい日差しが続いています。冬の間は水が流れていなかったサン・シェルピス教会前の前の噴水もこの通り。爽やかで気持ちの良い夕方です。

 フェアの会場から出てきたのはすっかり夕方、フランスの「サロン」と呼ばれるアンティークフェアには綺麗な物、美しい物が沢山沢山あって心躍るのだけれど、いざ手に入れようと思うと、上質な物だけに非常に高価で自分の手には届かず、「こんなに美しい物があるのに、どうして私の物にならないの!?」と、この世の(?)すべてを手に入れたい私は激しい欲求不満にさいなまれて、思い切り凹んでしまうのだ。

 凹んだまま最後に向った先は、度々立ち寄るジュエラー。高価な物を扱うここは、ドアが常に施錠されていて、「その気」がなければ立ち入ることが出来ない仕組み。ここでは「ジャストルッキング」は許されないのだ。でも、今日は「あら!素敵!!私好み!」のピアスが出てきた。ターコイズでブルーの忘れな草を模したピアスかと思って見せて貰ったら、こちらは18Kにエナメル製。ふたつの小さなお花が連なった愛らしいピアスだ。さっきまでの欲求不満も忘れて嬉々としてこちらをいただいて帰った。

ホテルから見える夕暮れの街並み。丸天井のドームはリュクサンブール公園に隣接するリュクサンブール宮。現在はセナ(元老院)として使われています。

***買付け日記は後編へと続きます。***