2005年11月〜フランス編〜

■10月某日 曇り
 今回の買付けはフランスから。通常イギリスから入り、フランスから帰国することが多いのだが、今回は開催されるフェアの日程の都合でますはフランスへ入国、パリで10日近くを過ごしたあと、ロンドンへユーロスターで移動することになっている。いつもはイギリスで大半の仕事を終えたあと、少しほっとしながらフランスでリラックスして過ごすのだが、今回はフランスが「しっかりお仕事モード」の私達。フランス大好きな私達なのだが、どんなものが買付けられるか暗中模索で、緊張感が抜けない。
 
 買付け1日目。事前にフランス、イギリスのアンティークデイーラー達から盛んに「寒い。寒い。」と言われてやってきたのだが、なんと気温は22℃!この時期のフランスでは珍しく、寒いどころか、暑くてたまらず、冬の服装しか持ってこなかった私は「私の服装計画をどうしてくれる〜!?」と思いながら半袖で出歩く。

 まずは、アポイントを入れてあったディーラーの元へ。私のリクエストしていたものを一生懸命探しておいてくれた彼女に感謝しながらレースやリボンなどのアンティークの山をこなしていく。長年の付き合いで私の好みをしっかり把握してくれているため、嬉しい出物がいっぱいだ。可愛いピンクとチェリーレッドのお花が互い違いになったロココに、思わず「可愛い!」と声を上げてしまう。そして…いきなり出てきた!19世紀のアランソンのラペットだ。ラペットを手に、しばし無言でじっと眺めてしまう。他にもハンドメイドレースの数々、そして可愛いプリントのカーテン等などをget。可愛いもの美しいものが手に入るとすごく嬉しい。

 半日掛けてセレクトしたあと、ぐったり疲れてホテルへ帰還。商品のセレクトには非常に集中力を必要とするため、とてつもなく疲れるのだ。時差ボケも加わって、買ってきたお総菜をホテルで食べながら眠気が襲ってくる。

マレのショコラトリーで「実りの秋」そのもののチョコレートを発見!苦みと甘みの入りまじった香りに、通りがかりのフランス人の子供と一緒にウィンドウにへばりついてしまいました。

■10月某日 晴れ
 恒例の「紙ものフェア」で終日カードを探すことに。今回の買付けの前半のクライマックスでもある。まずは、その隣で併催されていた高級品を扱う「サロン」と呼ばれるアンティークフェアへ。まずそこでみつけてしまったのが、細工が素晴らしいパレロワイヤルのニードルケース。マザーオブパールの透かし彫りの大変豪華なものだ。顔馴染みの美しいものばかりを扱っているディーラーだ。私も見たことのない細工のシードルケース、素晴らしい細工だけあって、非常に高価。が、河村と二人、清水の舞台から飛び降り、気付いたら自分たちのものになっていた。

 さて、クライマックスの「紙ものフェア」。知り合いのディーラー達とあちこちで“Bonjour!”と挨拶をしながら進む。いつも扱っているウィーン趣味やエンジェル、お花のカードも沢山仕入れることが出来たのだが、それ以外のフランスのグリーティングカードに可愛いものが沢山見つかり大満足。ただし、ここは100年の埃を吸った紙が主役のフェアゆえ、会場内の空気は最悪!おまけにそんな中でもたばこをスパスパ吸うフランス人のため、会場内はなにやらもうもうとしている。
 この日も出会った顔馴染みのディーラーの奥様は中国人、ちょうど私達とも同じくらいに見える年頃だ。彼女の「蛾眉」と呼ばれる独特の形にした眉毛から「きっと中国の人ね。」と思い、以前からオリエンタル系同士、なんとなく近しく感じていたのだが、今回は初めてちょっぴり立ち話。というか筆談。「私は中国人なのよ。」とフランス語で話しかける彼女に、私が「私は日本人よ。」と答えたあと、「名前?」と漢字で書いたメモを見せると、そこは流石に中国人。「苗茹」と書いてくれた。(発音も教えて貰ったのだがあまりに難しく不明。日本語にはない音だった、とだけ言っておこう。)この漢字というもの、西洋人には東洋の神秘(?)に映るらしく、名前の漢字の意味を聞かれることが多い。特に東洋磁器を扱うオリエンタル贔屓のデイーラーなどに漢字でサインをすると“Excellent!”と感動のまなざしで言われることすらある。また、私達日本人にとってはごくあたりまえのことなのだが、アルファベットを使う彼らにとって、何千もの漢字を覚えていること自体が驚異的なことらしいのだ。

 ようやく楽しくも苦しい「紙地獄」から退散。ほっとして外の新鮮な空気を吸いこむ。少しフラフラしながらバスで帰還し、時差ボケのため、即就寝。というか、ホテルに戻ってベッドに横になっているうちに疲れからか眠り込んでしまい、明かりがついたままの部屋で午前1時に目が覚めるが、「顔だけ洗ったからもういいや。」と、入浴もせずそのまま寝てしまった。

街を歩いていてみつけたフェルトで出来た(?)カラフルなネックレス。今シーズンは、こんな大振りのボンボンの様なアクセサリーが流行なのだそうです。

■10月某日 にわか雨のち晴れ
 雨上がりの中、早朝からパリ市内で買付け。時刻は7時過ぎ、まだ外は真っ暗だ。屋外のフェアのため懐中電灯が必需品なのだが、着いた途端、うちの「懐中電灯係」の河村が、「あ、ホテルに忘れてきた!」というではないか!思わず「え?何?忘れた!?」と聞く私の声は尖っていて、こめかみがピクピクする。この時間懐中電灯がなければ、沢山並んでいるアンティークが何も見えないのだ。仕方なく私がジュエリーのチェック用に持ってきたペンライトで照らすが、余りにも小さい光で「焼け石に水」という感じ。そんな暗い中でも、何とかソーイングボックスをみつけて状態をチェックする。今までにも何度か仕入れてきた小花模様、今回は大きめのサイズが特徴的だ。
 しばらくすると無事夜が明け、すっかり明るくなってきた。いつもボン・マルシェのカードを仕入れるマダムは、私達が来ると即席のテーブルを作って、ゆっくり見せてくれる。この日は、今までのサイズのボン・マルシェカードより少し大きなサイズのものをget。初めて見るシリーズに、河村と「こんなボン・マルシェ・カードもあったんだねぇ。」と呟き合う。アンティークの世界には、まだまだ未知のものがいっぱいなのだ。

 午後からは市内にあるアンティークセンターへ。実はこの週末、トゥサン(英語で言うところのハロウィン)のお休みにあたるため、一週間ほどのバカンスをとる人も多い。という訳で、アンティークセンターの中は、ウィンドウに飾った数々のアンティークを眺めることは出来ても、それぞれのショップはもぬけの殻。だが、また来週再び訪れる予定ため、真剣にウィンドウを眺め、チェックする。

 相変わらず私達が着いてからというものパリは連日22℃。フランス人ですら「この時期にこんな暖かいのは気持ち悪い。」と言う。早朝以外は毎日半袖だ。だが、辛いのが私の足元。実は、例年の秋の寒さを想定して、ブーツしか持ってこなかったのだ。パンツの時もパンツの下はブーツ、通常だとそれが暖かくてちょうど良いのだが、今回は暑くてたまらず、まるで「ふくらはぎのダイエット」を強いられているかのよう。「だってブーツじゃ暑いんだもん。」と言いながら、ボン・マルシェ近くの私が「靴屋通り」と呼んでいるRue du Cherche-Mideで靴のお買い物。その間、河村には、同じ通りにある有名なブーランジェリーの「ポワラーヌ」に行かせてパン買わせる。久し振りに食べる「ポワラーヌ」のリンゴパン、素朴な味で美味しかった。

 

フランスでも秋は菊のシーズン、花屋の店先に置かれた菊の鉢植え。トゥサン(万聖節)の季節には、菊の花束や鉢植えを持ってお墓参りに行くのだそうです。日本では目にしたことがないグレイッシュな赤ワインのような何とも複雑な色合いでした。

■10月某日 晴れ
 朝から買付け。昨日も見た屋外のフェアを歩く。何か昨日見落としたものがないか、目を皿のようにして歩く。キャフェで一息入れたあとは、バスで移動し別のフェアへ。まずは、顔馴染みのジュエラーの元へ。たぶん彼女と私は同じくらいの年頃だと思われるのだがパリジェンヌらしく気位が高そう。「きっと私のことずっと子供だと思っているんだろうなぁ。」と思いながら、せいぜい威厳を持って「これ見せて。」と気になったジュエリーを見せて貰い、愛用のルーペでじっくり拝見。その中からエンジンターンの細工が美しいダイヤ入りのロケットを入手。ゴールドの細工とダイヤの美しさが惚れ惚れするロケットだ。美しいものを手に入れると、それだけで嬉しくなってしまう。

 そして、レースや布などを専門で扱っているマダムのところへ。英語をほとんど話さない彼女に、一生懸命「19世紀のアランソンは?」「ポワンドガーズのハンカチは?」と尋ね、沢山のレースの中から出して見せて貰う。なによりもぎっしり積まれた布やレースの中から、お目当てのものを見せて貰うのが一番大変なのだ。今回はアランソンはなかったものの、美しいポワンドガーズのハンカチを発見!一緒にクラウンの紋章(貴族の持ち物だった証)が刺繍されたハンカチも手に入れる。高価なハンカチを仕入れた私達にマダムは上機嫌。“Cadeau(プレゼントよ)! Cadeau!”となにやら色々レースのお土産付きで送り出された。

 その後、いつもの順路で見ていると、珍しく山積みになったソーイングボックスの中に可愛い柄を発見!飛びついてしまう。河村の言うことには、私はソーイングボックスとかごには目が無く、発見しただけで嬉しくなって冷静さを欠き、ついつい選ぶ基準が甘いのだそうだ。でも、箱にしても、かごにしても「可愛いいのだから仕方ない。」と思うのだが。それからシルバーのソーイングセットなどなどを買付ける。可愛いお人形のベッドをみつけたのだが、折りたたみの出来ないタイプのため、持って帰るのは不可。後ろ髪を引かれながら諦める。

 結局終日歩き回り、ようやく夕方お腹をすかせて、いつものキャフェに食事(昼食と夕食の中間)をしようと入ったら、「食事はもうおしまい。」と言われ、空腹のまま泣く泣くバスを乗り継いで帰宅。

私のお散歩ルートRue Saint-Sulpiceに新たに雑貨ショップがオープン。今回は残念ながら夜のウィンドウを覗いただけで、実際のお店には入れず仕舞いでした。アイアンの家具やフレンチプリントのインテリア小物が素敵にディスプレイされたフレンチテイスト溢れるお店でした。

■11月某日 晴れのち曇り
 市内のフェアを覗いてみるが、いまひとつ。市内のアンティークショップなどを覗いてみるが、トゥサンのお休みでどこも開いていたり、閉まっていたりの様子。特に何も巡り会えず、そのまま街をブラブラすることに。
 バスでグラン・ブールバール周辺へ。ここ何回かのスリ事件でちょっぴりナーバスな河村は、最近は私と同様、メトロよりもすっかりバス派だ。バス停で待ちながら、街を行き交う車を眺めては嬉しそうな様子。私達が最近日本で乗り始めた車はルノーのカングー、元々がフランスの商用車として作られた車なので、当然フランス本国では沢山のカングーが「働く車」として走り回っている。そのカングーが通る度、彼は「あ、キログー(黄色いカングーのこと)だ!」「あ、ミドグー(グリーンのカングーのこと)だ!」「あ、ロングー(日本では正規に輸入されていないロングバージョンのカングーのこと)だ!」「あ、ニセグーだ(シトロエンやプジョーなどが販売しているカングーそっくりな商用車のこと)!」とカングーチェックに余念がないようだ。その様子を「まるで子供みたい。」と思っていた私なのだが、彼と一緒にカングーチェックをしているうちに、思わず「あ、うちと同じアカグーだよ!」などと口走ってしまう。前々から感じてはいたものの、カングーが、こんなにもフランスではいっぱい乗られている車なのだということを再確認し、なんだかちょっぴり安心したのだった。

 思い立って、モンパルナスにある郵便博物館へ。この郵便博物館、よくバスの窓からは眺めていたのだが、実際に訪れるのは初めて。アンティークのポストカードを扱う私達、何かここでアンティークポストカードのヒントが得られるのかと思い、やってきたのだ。フランスの郵便の歴史は古く1700年代から郵便が使われていたらしい。もっともまだこの時代の郵便は一般的なものではなかったらしいが。古いポストカードの展示も少しあったのだが、それよりも興味深かったのは美しい切手のコレクションだ。ブラックペニーと呼ばれる世界で初めて印刷された切手をはじめとして、現代のアーティストがデザインした切手まで、その繊細な図柄とたぐいまれな印刷技法には目を奪われてしまった。
 その後ミュージアムショップでは河村がしっかり“La Post”仕様のカングーのミニカーをget。そう、フランスの郵便の車はカングーなのだ。

郵便博物館に展示されていた1900年代初頭のポスト。ちょうど私達が扱っているアンティークのポストカードは、こんなポストに投函されたんですね。

■11月某日 晴れのち曇り
 今日、明日は何の予定のないオフ日。この両日に限って、パリでは何のアンティークのフェアもないのだ。ドローの競売所もトゥサンのバカンスでお休み。「こんなことなら、どこか2泊3日ほどで、イタリアとか東欧とか他の国まで遊びに行ってしまえばよかったかも。」と思ってみても今さら手遅れ。もっともそんな余裕はないのだけど…。
 そんな訳で、河村の発案により、パリの東の端に位置するビュット・ショーモン公園へ。あまりこのベルヴィル地区には立ち寄ったことが無く、私も初めて足を踏み入れたビュット・ショーモン公園は、「市民の憩いの場」という感じで、芝生で思い思いに寝ころぶ人、散歩する人など、犬も一緒に秋の一日を楽しみにきた人でいっぱいだ。何よりここは山あり、谷あり、渓谷あり、池あり、滝あり、吊り橋あり、洞窟あり、という非常に盛りだくさん、広大な公園なのだ。公園に入る前に、まずは近くでバゲットサンドと私はビール、河村はペリエを調達。公園の芝生に座って腹ごしらえ。そのあと、岩山にハイキング。もちろん岩山といっても、たいした高さはないのだが、ついつい山登りを思い出してしまう。頂上の展望台からは遠くサクレクール寺院が見える。パリの中で、こんな自然に溢れた場所があるとは思わなかった。パリの喧噪に疲れた人にはおすすめの場所だ。

ビュット・ショーモン公園 Parc des Buttes-Chaumont はメトロ5番線ローミエール駅(Laumiere)から徒歩5分。これが岩山の上の展望台。ここからの眺めは最高!


展望台から見下ろした公園内。遠く人の姿が小さく小さく見えます。


■11月某日 曇り時々雨
 昨日と同様、オフの一日。一日パリで過ごすのももったいなく、郊外まで出掛けることに。マルメゾンへ行って、ジョゼフィーヌの住んだ城館を見ようか、シャルトルで世界遺産にもなっているノートルダム寺院のステンドグラスを見ようか迷った挙げ句、河村の意向でシャルトルへ行くことに。モンパルナス駅からフランス国鉄に乗り、1時間余り。シャルトルが近づくにしたがって、車窓からも高い尖塔の教会が見えてくる。映画のシーンの一コマのようで、わくわくする瞬間だ。あとで分かったことだが、このノートルダム寺院の尖塔は、普通の日でも7km先から、よく晴れ渡った日だと30kmも先から見えるという。

 実は、私は10年以上前にシャルトルに来たことがあったのだが、是非一度河村にもあのステンドグラスを見せたかったのだ。ノートルダム寺院は駅からも歩いてすぐ。寺院の建物を間近に眺めながら「こんなに大きかったんだ。」と独り言がでてしまうほど大きい。雨まじりのお天気ということもあって、観光客でいっぱいのパリのノートルダム寺院と違って、人気が無くひっそりしている。寺院の中に入ると、薄暗く、さらに静かで重厚な世界が。椅子に掛けて、ひとつひとつのステンドグラスをゆっくり鑑賞する。ステンドグラスには、それぞれ聖書のストーリーが込められているらしいが、やはりなんといっても大きな薔薇窓の美しさといったら、言葉にしつくすことが出来ない。河村が「カレイドスコープ(万華鏡)みたい。」とポツリと呟いた言葉そのもので、ブルーのガラスはサファイヤ、赤いガラスはルビー、そのはざまにチカリと光るダイヤ。まるで宝石で作られた万華鏡のようだ。

 ステンドグラスを堪能したあとは、寺院前の広場から出ているプティトランに乗る。このプティトラン、テーマパークにあるような汽車の形をした乗りもので、街中を6カ国語の解説付きで案内してくれる私達のお気に入りだ。フランスの田舎の観光地ではよく目にし、この夏、南仏のアルルやマルセイユでもプティトランに乗った私達は、ここシャルトルでも迷うことなく乗車。何より、街中の史跡について日本語の解説が聞けることと、歩くだけでは回りきれないところも見ることも出来ることがプティトランの魅力だ。「こんな細い道入れるの?」と思うような細い路地まで入っていって、その街に住む人々の生の生活を垣間見ることも出来る。今回、シャルトルのプティトランに乗った結果、シャルトルには中世の建物がゴロゴロしていることを発見。1400年代のルネサンスの建物はもちろん12世紀の建物までもが、現在でも住居として使われていることを知り、大変興味深かった。

 プティトランのあとは街を散策。小さな運河が流れる古い中世の街、小さな街の小さな繁華街。夕方近くみんな思い思いにショッピングにやってくる。ちょっぴりお腹のすいた私はショコラトリーをみつけお買い物。歩きながらトリュフを口に入れる。フランスの小さな街は、それぞれ歴史や特徴があって、本当に楽しい。次回はどこに行こうか?

空を突き刺すような高い高い尖塔。シャルトルのノートルダムは、左が16世紀ゴシック建築の北の塔、右側が12世紀のロマネスク様式の傑作といわれる南の鐘楼です。そんな昔の時代に、こんな壮大な建物をいったいどうやって造ったのでしょうね。


「シャルトルブルー」と呼ばれる青を基調とした薔薇窓。その美しさは宝石で出来た万華鏡を見るよう。いつまでも眺めていたい思いにかられました。


これが噂のプティトラン。あちゃ〜、しっかり写したつもりだったのに、どこかのおじさんも一緒に写ってしまいました。後ろに何台も客車を引くそれはラヴリーな乗り物です。


街を散歩していてみつけたさも古そうな建物。古そうな外観に惹かれて写真を撮っていたら、初老のムッシュウに「これはルネッサンス時代の建物なんだよ。」と声を掛けられました。この建物、れっきとした現役の書店です。内部はしっかり改装され、沢山の本が並んでいました。


■11月某日 曇り時々雨
 そして、今回の買付けの半ばでのクライマックス、目当てにしていたフェアが始まる日だ。朝から万全の準備で会場へと向う。普段は非常にナマケ者なのに、仕事となると思いきり気合いが入る私。「早く、早く。」と開場の30分近く前に着いてしまう。

 目をまるでカメラのワイドレンズとマクロレンズのように使い分け、アンティークを探し求める。「何でも見てやろう!」「何でも探してやろう!」と気合いだけは十分。ずっと探していたロココ付きのトレイをみつけ得意満面。どこかの納屋か倉庫から出てきたのだろうか、恐ろしく埃が積もっているのだが、ずっと仕舞われていただけあって状態は良好。きれいにすればとっても素敵なはず。また、このところいくら探しても縁の無かったエンジェル柄の時計ケースが出てくる。昔のお輿をかたどったものだ。それまでも、いくつか目にしていたのだが、満足のいく状態のものが皆無だったのだ。今回出てきたものはなかなか良好な状態。河村と「やったね!」と顔を見合わせた。
 仕事がようやく終わる頃、フェアに出ていた古着を扱うブースで、河村は今回の買付けのお目当てバーバリーのコートをget。もうじき誕生日がやってくる河村には「新品は買ってあげられないけど…」と言い渡してあったのだ。膨大なバーバリーの古着のコートに中から「これは!」と思うものに次々袖を通し、一番フィットするものを選ぶ。ボタンが無くなってないか、汚れがないかをチェック。私の持っているベージュのステンカラーよりも若干色が濃いめのものを選んだ。

 様々なものを仕入れて、心地よい満足感で開場をあとにする。実は、2〜3日前、他の場所でみつけたダイヤのリングがあったのだが、大変高価なため「一度頭を冷やしてからよく考えよう。」と即仕入れなかったのだ。が、リボンをかたどったシェイプと大きめのダイヤがとても魅力的だったため、再度足を運ぶ。またもやマダムに「あのリング見せてくださる?」とリングを出して貰い、じっくり交渉。年代や材質を確認し、ついに手に入れてしまった。

マドレーヌのフォーションのウィンドウ。有名高級食材店だけあって、それはそれは見事なフルーツでした。(でも高そう〜。)赤い実ものとフォーションのロゴの入った黒い袋の取り合わせが鮮やか。


ヴァンドーム広場でハイジュエリーをウィンドウショッピング。シャネルのショップの前を通りがかると、ウェディング姿のカップルが…。きっと雑誌か何かの撮影でしょうね。中央で両手を広げて指示している男性がカメラマンです。

■11月某日 曇り
 今日はフランスの最終日。夕方にはロンドンへユーロスターで渡ることになっているのだ。昨日出掛けたフェアを再度回り、見落としがないかチェックする。昨日が気がつかなかったエナメルのロケットや高価なレースが出てきて、アラアラという感じ。大変珍しい19世紀のアルジャンタンが出てきたのだ。アランソンとは姉妹のようなレース、アルジャンタン。やはり実際に見てしまうと、そのまま置いて帰ることが出来ない。

 その後、フェアが予定していたレピュブリック広場へ向うが、どうもキャンセルになったらしくフェアの開場はどこにも見あたらない。フランスでは、そんなふうに予定されていたフェアが急にキャンセルになることはよくあること。さっさと次なる場所へと向う。(まさかこの直後、例の暴動でレピュブリック広場でも車が燃やされるとはその時は知るよしもなく。)
 「最後のあがき」という感じで、先週トゥサンでもぬけの殻だったアンティークセンターへ。先週チェックしておいたものをひとつひとつ見て回る。そして最後に可愛いパールのリングとプラケオ(金張り)のロケットを入手。これで、フランスでの買付けはすべて終了。

 夕刻、それぞれスーツケース2個とともにユーロスターに乗るために北駅へ。ロンドンまでは3時間余り、私はマルシェで調達しておいたカリフォルニア巻きのセットに白ワイン、河村はお気に入りのバゲットサンドで軽い夕食。本を読んだり居眠りをしているうちにロンドンのウォータールー駅に着いてしまう。
 ウォータールー駅では、河村に両替に行かせて、私はゲート近くでスーツケースとともに待っていると…。このユーロスター、遠距離恋愛の二人を結ぶ乗り物だということを再確認!「なんだかやけに人が沢山いるなぁ。」と思っていたら、それはゲートから出てくる人を待つお迎えの人々。バカンス中のこの日、ロンドンの恋人に会いにそれぞれユーロスターに乗ってやってきたのだ。私の回りで、楽しげにはしゃぎながら抱き合う二人、二人、二人。みんな幸せそうだ。そんな折、もうマドモアゼルとはいえない年齢のひとりの女性が目についた。黒に近いシャタンの髪に黒のトーク帽をかぶり、黒のセーターにグレイの細身のパンツ、同じく細身のベージュのロングコートを羽織っている。とても洗練された雰囲気で、ロンドンにいるのにかかわらず、見るからにお洒落なパリジャンヌという感じだ。仕事の都合でロンドンに住むことにでもなったのだろうか。そのまま見ていると、彼女の元へユーロスターに乗ってきた恋人らしき男性が駆け寄ってきた。グレイヘアがちょっぴりリチャード・ギアに似た雰囲気の長身の彼。辺りをはばからずしっかり抱き合う二人。周りの若いカップルのように笑顔を見せることなく、ただただじっと抱き合っている。そんな二人の姿を見ながら、柄にもなくなんだか「じ〜ん」としてしまった私だった。

〜イギリス編へとまだまだ続く〜