■7月某日 雨
 セール期間中にもかかわらず、この時期しか予定を組めなかったため、7月半ばになってしまった買付け今回の買付け。この時期を逃すと、フランスは本格的にバカンスシーズンに突入してしまい、パリのディーラーは誰もいなくなってしまう。そしてこの時期を逃すと名古屋のフェアを皮切りにフェアが続くため、どう考えてもこの時期しか予定を組むことが出来なかったのだ。
 今まで数え切れないほど飛行機に乗ってきたが、お陰様でロストバゲージはあってもフライト自体のトラブルには遭遇したことがなかった。が、今回は出発日前日からこんなに気を揉む事になろうとは…。

 50年に一度という規模の台風が気になり始めたのは出発日の二日程前だっただろうか。それまで北東に向かっていた台風は九州で突然ルートを変え、一路東に一直線、「日本列島縦断か!?」との報道をジリジリとした気持ちで眺め、出発日前日は天気情報を眺めながら「エエッ!!これって出発時間に東京直撃だ!?」と焦りまくり、今回乗るエールフランスに電話を掛け(フリーダイヤルではないにもかかわらず、オペレーターにつながるのに優に20分はかかった。)、オペレーターに状況を聞くと、「今の段階では何もご案内出来ません。」と言う。たしかにそうなのだが、「もう明日の便の方は他の便に振り替えていらっしゃいます。」という言葉にさらに焦りが…。飛行機の便を変えると、予約してあったホテルもユーロスターもすべてがパーになってしまう。「他の日に振り替えるとすべてのスケジュールが狂ってきてしまうし…。」と苦渋の選択を思い浮かべていたところ、オペレーターの「でも、遅延はあるかもしれませんが、欠航はたぶんないと思います。」の言葉に救われる思いだった。(パリ乗り継ぎのロンドン行きの今回、遅延でもロストバゲージ、最悪パリまでしかたどり着けない可能性だってあるのだ。)

 しかも今回は初めての羽田発、午前7時35分発。ということは、自宅を出るのは午前5時前。更にアクシデントは重なり、以前大雨の際に水没して故障した自宅マンションのエレベーターは、前日から電気が落とされ使用不能。ということは、あの行きから重いスーツケース(しかも2つもある。)を自分達で降ろさなければならないということ。河村が「大丈夫!自分が降ろすから。」と決死の思いで早朝から階段で降ろし、地下鉄で羽田空港へ。

 台風は温帯低気圧に変り、昨日までの雨がうそのような晴れ間。初めての羽田空港もスムーズに移動、それまで「飛べ!飛べ!飛んでくれ〜!」と祈るように思っていた飛行機も定刻通り。さっさとゲートをくぐり、ラウンジでひと息つきながら、「あぁ〜、よかった〜!」としみじみ。ここまでで既に買付けの大半のエネルギーを使ったような気分だった。

 パリでの乗り継ぎを経てロンドンに定刻で到着!お陰様でロストバゲージになることもなく、無事に着いてただただほっとする。そして、ヒースロー空港からロンドン市内へ。いつもならそのままタクシーに乗って、お馴染みのグロスターロードのアパートメントホテルに向うのだが、今回はロンドン一泊の強行スケジュールのため、パディントンやセント・パンクラスなどイギリス国鉄の駅から離れたグロスターロードではなく、パディントンの初めてのホテルを予約。ヒースローから直通のパディントン・エクスプレスに乗ってパディントンへ。

 滅多に乗らないパディントン・エクスプレスに数年振りに乗車。が、私が乗ったターミナル4駅からは本線へ直接乗り入れてはおらず、一旦ターミナル1・2・3駅までヒースロー・コネクトに乗り、そこから本線に乗り換えなくてはならない。が、そのことを知らなかった私は、「パディントンはこちら」の案内板をひたすら信じ、ターミナル4駅からターミナル1・2・3駅までのヒースロー・コネクトを「?」のまま二往復したところで「これにいくら乗っていてもパディントンには絶対着かない!」と、ようやく気付き、ターミナル1・2・3駅で乗り換え。パディントンに着いたのはヒースローから乗って1時間も経ってからだった。やれやれ。

 初めてのホテルはパデイントンの駅からは程近かったものの、屋根裏部屋の5階(日本式の6階)をあてがわれる。レセプションで鍵を貰った後、付近をウロウロ、いくら探してリフト(エレベーターは)は見つからない。呆然とした私が「リフトはどこかしら?」と再びレセプションで訪ねると、レセプショニストの女性は申し訳なさそうに「うちにはリフトはないのよ〜。」とひと言。私のスーツケースは2個。思わず“Really?”と口走ってしまった。結局ボーイの男の子が重い方のスーツケースを軽々と運んでくれたのだが、翌朝、またそれを階段で降ろすことを思い、暗澹たる気持ちになってしまった。確かにこの界隈はヴィクトリアンから変わっていない街並み。この近所のホテルはたぶん皆リフトがないに違いない。明日もチップを払って降ろして貰うしかない!

そんなホテルの前の公園には巨大チェスが。イギリスらしい光景ですね。ロンドン到着のこの日は翌日に備えて午後8時に就寝!

■7月某日 曇り
 買付けの一日目、まだまだ身体が日本時間のため、買付けの最初は午前3時だったり、4時だったり、ごくごく早朝に目覚めてしまうことが多い。今日は少し遅めの午前4時半に起床。しばらくベッドの中から出ず、ひたすら体力温存!午前5時過ぎに起きだし、昨日空けたスーツケースを元に戻す。すべての用意が調うと、小さい方のスーツケースを手に持って降ろし(なにしろ私の部屋は日本式の6階!)、レセプションでチェックアウトをしながら、「お願いだから私のスーツケース降ろしておいて!」とチップを渡しながら泣きを入れる。レセプショニストの若い男の子は「そんなもの貰えません。」と礼儀正しく言うのだが、「いいから!いいから!」と無理矢理渡す。これであのスーツケースを降ろさなくても済むかと思うと、ひたすら感謝!「朝早くからごめんなさいね。お願いしますね。」と、ひたすら下手に出る。でもレセプショニストの男の子が素直な良い子で良かった!午前6時、心軽くホテルを出てタクシーを拾う。

 タクシーに乗り込み、いつものロンドンの仕入れ先へ。今日は午前6時半から午後1時頃までひたすら買付け、懇意にしているディーラーを次々回る予定。その後、ホテルに戻り預けたスーツケースをピックアップし、午後3時半のユーロスターでパリへ向うことになっている。そして、今回、パリからなんと二人旅!私達が入居している奥野ビルの1階、義理の姉妹ふたりで経営されているアンティークショップ「裏庭」さんの妹さんの方、ただいまロンドンに留学中の優子さんと一緒に旅する事になっている。誰かと一緒に旅するなんてほとんど無いこと。果たしてどうなることやら?

 いつも一番初めに向うディーラーのところにタクシーで乗り付けたのだが、彼女たち親子の姿が見えない。「あれ?」何度その辺りをキョロキョロしてもやっぱり彼女たちはいない。付近にいたディーラーの初老のマダムに「彼女たちはお休みかしら?」と声を掛けると、「彼女たちはホリデイよ。」との返事。心の中で「えぇ〜。そんなぁ〜。」と呟きつつ、次の場所へ。

 何度かジュエリーを譲って貰うことがあるおばあちゃんディーラーはヴィクトリアンに特化した品揃えで、ヴィクトリアンらしいロマンティックで華奢なラインで揃えている。が、高いのが玉にキズ。今日も彼女のガラスケースの中にヴィクトリアンらしいピアスを発見!それはハート形の上にクラウンを模したデザイン。いちめんにびっしりシードパールがセットされている。「ヴィクトリアンぽくて素敵!」と早速見せて貰ったのだが、何しろ想定外の金額。それを延々交渉のうえ、なんとか許容金額に持ち込み、商談成立。やれやれ。でもハートにクラウンなんて、「ヴィクトリアンそのもの」といった感じ!

 いつもゴールドチェーンを仕入れる彼女はこのところの私のお気に入りディーラー。「チェーンならこの人!」といった感じなのだ。というのも、ここ最近地金の値段が上がってからというもの、どのディーラーもチェーンのお値段がぐっと高くなり困惑していたのだ。そんな中、彼女は私にとっても許せる範囲のお値段。今日も何本ものチェーンの中から、使い易くて綺麗な物をセレクト。
 ルビーのリングとダイヤのリングを譲って貰ったディーラーは、初めて見る新顔ディーラー。「あなたはニューファイスね。」と声を掛けると、「いいえ、ずっと以前からアンティークを扱っているのよ。」とのお返事。そんな彼女の商品は私にとってはフレッシュ、その中からルビーにダイヤが取り巻いたリングと小さなローズカットダイヤのクラスターリングを選んだ。

 ソーイングツールばかりを扱うディーラーは昔からのお馴染み。今日はマザーオブパールハンドルのかぎ針やはさみなどの定番アイテムの他、珍しい可愛い猫の絵があしらわれたニードルホルダーを見つける。それは私が集めている猫のポストカードと同じ絵柄。「可愛い!」猫好きにはおすすめのアイテムだ。

 シルバーのパウダーケースとフラワーバスケットのシルバー製ステイショナリーセットはフランス物ばかりを扱うディーラーから出てきた。長らく気になっていたイギリス人の女性ディーラー、彼女はオルモルのフレームなどいつも美しいフレンチアイテムに囲まれていて、そのガラスケースの前を常に羨望の眼差しで通っていたのだ。ただ、彼女の商品は大きなアイテムが多いため、残念ながら今まで縁がなかったのだ。今日もガラスケースの隅々を眺めた後、ガラスケースの後ろにひっそりと置かれていたボックス入りのステイショナリーセットを発見。「これは売り物かしら?」と尋ねると、「どうぞ!どうぞ!見てみて!」と奥から出してくれた。てっきりシルバープレート製だと思ったら、地金がやけに美しい。「これはシルバー製よ。」と彼女。「ええ?そうなの?」と、そのひとつを取り上げてルーペでチェックすると確かにフランスの刻印が。フラワーバスケット柄もチャーミングで、状態がとても美しい。状態をチェックしていると、もうひとつシルバー製アイテムをどこからか出してきてくれた。それはリボン模様の丸いパウダーケース。そちらの状態も美しい。「そうそう!こういうのが好きなのよ!」と独り言を言いながらこちらの状態もチェック。「あぁ、やっぱりフランス物が好き!」彼女との初めてのご縁はこのふたつのアイテムで決まり。

 今日、どうしても欲しかったのは私が好きな小さなシール。だが、今日はどこからも出てくる気配がない。そんな中、シトリンの透明感が綺麗な小さなシールがやっと出てきた。陰刻は水盤で水を飲む二羽の鳩の図柄。「平和の象徴」とされる鳩だが、特に二羽の鳩が水盤から水を飲む姿は、キリスト者が洗礼の水によって再生に与かり、永遠の生命を得ることを意味している。シールはギリシャ神話やキリスト教に由来する意味あいが興味深い。

 今日のもうひとつのヴィクトリアンアイテムはシードパールがびっしりセットしたダブルハートのブローチ。先に手に入れたピアスと一緒に着けるとより素敵になるアイテムだ。ダブルハートのジュエリーはいくつか持っているものの、やっぱりこのモチーフ、外すことが出来ない。
 そのブローチが出てきたディーラーは長年懇意にしているジュエラー。沢山の在庫を嫌な顔ひとつせず、私のペースで次々手に取らせて見せてくれるありがたい存在だ。今日のもうひとつの出物はオパールのリング。前回の買付けで、気に入ったオパールのリングと出会いながら、もう少しのところで手に入れることが出来なかったので、今回はそのリベンジでオパールを熱心に探していたのだ。他のディーラーはあまり持っていないオパールを使ったジュエリーだが、ここの膨大な在庫の中に前回買いそびれた物よりもずっと良いリングがあって思わずテンションが上がる。今日は他にもウエディングリングにぴったりなダイヤのソリテールリングも。今日は様々なジュエリーをチョイスすることが出来、ご機嫌でディーラーを後にする。

 繊細な彫刻のアイボリーのニードルケースは思わぬ所から出てきた。まったく期待をせずにたまたま立ち寄ったディーラーのガラスケースの中に見つけ、すぐに初老のマダムに出してくれるようお願いする。マダムは私のことを中国人と間違えたらしく、「分かってるの?これは中国製じゃないのよ。フランス製よ。」とちょっぴりきつめの発言。「知ってる!知ってる!ディエップ製でしょ?(フランスの植民地だったアフリカで取られた象牙はノルマンディーの港街ディエップに運ばれ、そこで加工されたのだ。)」と私。その返事に満足したらしいマダムは、すんなりケースから出して見せてくれた。ずっと探していたアイボリーのニードルケース、隅々までチェックするが状態も良い。高価なアイテムだったが「ずっと探していたし…。」とやっぱり入手することに。

 ロンドン在住の日本人ディーラーも僅かだが存在する。昔からお付き合いのある彼女もそんなひとり、数少ない日本人ディーラーだ。日本を離れて既に何十年も経つ彼女はゆったりとした日本語を話す。そんな彼女と話していると、こちらまでゆったり優雅な気分になるから不思議だ。「これは高く仕入れてしまったので、○○ポンドで売らなければならないさだめなのです。」と言われると、「そうか〜。さだめなのね。」と思わず納得してしまう。今日は当てにしていたアイテムはなかったけれど、替わりにフランスの小さなペーパーボックスを譲って貰った。

 今日の最後はアポイントを入れておいたレースディーラー。今日も私のために頼んでおいたアイテムを持って来ておいてくれた。まずはポットに入ったお花の具体的な模様が珍しい18世紀のメヘレン、そして黒絹のレースシャンティイ、タティングレースの大振りなショール、そしてエシャーワークのベビードレス…etc. 沢山のレースの中から望みの物が出てきて嬉しい。

 あっという間に6時間を越え飲まず食わず、この時点で既に午後1時を回ってしまった。朝は寒くて薄手のダウンジャケット(!)を着ていたのだが、日差しが強く、それを脱いでも暑くてたまらなくなってきた。そろそろホテルに戻って荷物をピックアップし、ユーロスターに乗るためセント・パンクラス駅へ向う時間だ。
 お腹がすいても何か食べる時間はない。さっさとタクシーに乗り込み、まずはホテルへ。私の希望通り、大きなスーツケースもグランドフロアに降ろされていて、ラゲッジルームの中に。「あぁ、良かった!」大小のスーツケースを受け取り、近くでまたタクシーを拾う。今日はセント・パンクラス駅のラウンジで「裏庭」の優子さんと待ち合わせをしている。すぐに会えると良いのだが…。

 午後2時過ぎ、セント・パンクラス駅の構内で昼食用のサンドウィッチを調達し、ユーロスターのゲートの中へ。いつものように荷物のレントゲンとイミグレーションを通り過ぎ、ラウンジの一番奥へ。優子さんは先にベンチで私を待っていてくれた!すぐ会えて良かった!前回の買付けで、河村と一緒にロンドンで会ったときから3ヶ月。久し振りの再会が嬉しい。早速バーでワインを買ってきて、調達してきたサンドウィッチと一緒に遅い昼食。女ふたり、年齢は違ど早速おしゃべりが尽きなかった。

この時期のロンドンの街角は花盛り。パブの植え込みもお花でいっぱいです。

■7月某日 晴れ
 今回は「裏庭」の優子さんとルームシェア。まさか自分が他人と一緒に、しかもひとまわり以上年下の彼女と泊るとは思いもよらなかったのだが、前回4月にロンドンで彼女と会った際に、「パリに行くときは連れて行って下さいよ!」と言われていたことを思い出し、買付けの予定を立てているときに、「パリに行くけど一緒に行く?」、半分冗談で「私と一緒に泊る?泊るならダブルルームを予約したけど、ツインに替えるよ。」とメールすると、「私はダブルでも良いですよ!」と彼女からも冗談半分のメールが。今回はひとりの買付けでもあるし、「誰かと一緒の方が楽しいかも!」と思い、晴れて彼女とルームシェアすることになったのだ。(部屋はもちろんツインルーム!)
 今日はパリ一日目。朝から一緒にバスに乗って買付けへ。

 目的地に着くとそこからは別行動。昼食の時間と場所だけ決め、それぞれひとりで買付けへ。私はアポイントを入れて置いたディーラーが何人か待っている。7月上旬だというのに、もう早々とバカンスに出掛けたディーラーもいて、いつもより少し淋しい感じ。そんな中、顔馴染みのマダムからマリア様とスミレのカルネ・ド・バルを買付け。「カトリックの長女」とも呼ばれるフランスではキリスト教色の強い雑貨に惹かれることが多い。が、綺麗なお顔のマリア様に遭遇することは稀。今日のマリア様はすっきりしたフォルムが美しい「無限罪のマリア」のポーズ。年代を感じさせる点にも引きつけられた。

 すずらん模様のシルバー製コンパクトは顔見知りのムッシュウのガラスケースの中に見つけた。昔からずっとお付き合いのある彼。内気そうな笑顔がとても感じが良く、つい「何か彼から仕入れられる物はないかしら?」という気分にさせられる。きちんと吟味された物が並んでいるガラスケースをひとつひとつチェックし、何も仕入れることがなくても、にっこり"Au revoir.(さようなら。)"と見送ってくれる。でも、今日はそんな彼のケースの中にすずらんも模様の物を発見!そういえば、以前も彼からすずらん模様のシルバー物を譲って貰った事があり、その時は彼の奥さんとお値段がまとまらず延々と長い商談をしたのだった。今日は彼ひとり。探していたすずらんアイテムが見つかった嬉しさ半分、彼から仕入れられる嬉しさ半分、お値段の交渉はあっさり済み、お互いににっこり"Au revoir."と別れた。

 アポイントを入れておいたレースや布物を扱うカップルのディーラーは、私の到着を手ぐすね引いて待っていた様子。実は、彼女たちに連絡することをうっかり忘れていて、行きの羽田行きの地下鉄の中から携帯でメールを送り、なんとか彼らを捕まえることが出来たのだ。実は、その日ボルドーのフェアへ行く予定だった彼ら、私が来るというので急遽パリに残ってくれたらしい。ありがたいのだが、責任を感じてちょっぴり気が重い。
 到着するとにっこり笑顔で挨拶。どのフランス人のディーラーもそうなのだが、「一見さん」ではなく、「お客さん」と認識して貰えるようになると、それまでの扱いとは手の平を返したように愛想良くサービスして貰えることが多い。彼らの頭の中には「一見さん」と「お客さん」を区別するはっきりした線引きがあり、線のこちらの「お客さん」側にカテゴライズされると、やれ「あれを見るか?」だの「お茶を飲むか?」だの、こちらもびっくりするほどの調子が良く、少々呆れてしまうことも…。そんなところがフランス人の面白い点でもあるのだが…。
 今日は彼らからシルクの布やレースなど希望の物を仕入れることが出来たし、私の他にアメリカ人のお金持ちディーラーも仕入れにきていて、彼らとしてはかなり潤った様子。今日もご機嫌で別れの挨拶をされた。

 最後に向ったのは懇意にしている女性ディーラー、もちろんアポイントもしっかり取っている!特に今回の買付けでは、日本では「パリ祭」と呼ばれている革命記念日を挟むため、懇意にしているフランスのディーラー達がどこかバカンスへ行ってしまわないか心配でまず数人のディーラーにメールをし、全員に「大丈夫!いるよ!」という返事を貰い、スケジュールを決めたのだ。その彼女も最初に連絡を取ったひとり。いつもお世話になっている彼女、再会も楽しみだ。

 まずはいつものように両頬にビズー。そんな彼女のさりげないスキンシップも嬉しい。恒例「マサコの箱」を奥から出してくれる。「マサコの箱」からは出てくるわ!出てくるわ!バスケットやお花、ロココ付きのボックス、ジュエリーボックス、私好みの物が次々出てきた。それから小さなバスケットに入った白鳥の羽根のパフが付いたビスクのベビー。バスケットにすっぽり入った姿が、まるでお風呂に入っているようで愛らしい。これだけ一度の買付けで探し出すのは至難の技。彼女がキープしておいてくれるのが本当にありがたい。今日も彼女に感謝し、「じゃ、また次回ね!」と別れた。

 さて、午前中の買付けもひと段落、優子さんと約束していたブーランジェリーへ向い、お気に入りのプーレ(鶏肉)のサンドウィッチとキャフェ・クレームを注文し、彼女の到着を待つ。すぐにやって来た彼女と午後の予定をあれこれおしゃべり。すぐにこのまま午後の買付けに行くという彼女と、一度ホテルに荷物を置きに帰る私。「じゃ、また夕方にホテルでね!気を付けてね。」と、しばしお別れ。私は一度ホテルに荷物を置きに帰り、再びホテルから次の場所へ。今日はメトロに乗って出掛ける。

 午後の部で最初に立ち寄った先は今まで足を踏み入れたことのない素材屋さん。たまたま立ち寄ったそのディーラーのところに思いがけずお人形に使えそうな様々なブレードを発見。午後は時間が無く大急ぎの買付けなのだが、使えそうなブレードをさっさと選ぶ。お人形の材料はいつも私が探しているアイテム、今回は少しバリエーションが広がって嬉しい。

 次に立ち寄ったのは、アポイントを入れていないまでも、必ず立ち寄る女性ディーラー。私と河村の間では「綺麗な物を扱っているお姉さん」と呼ばれている彼女。(年齢的にはとっくに「お姉さん」は越えているのだが…。)美しい物ばかりをセレクトしている彼女、昔から憧れのディーラーでもある。今日も挨拶しながら早速ジュエリーの入ったガラスケースを覗き込む。少し気になったジュエリーを見せて貰ったのだが、想定外のお値段でがっかり。でも、気を取り直して他のケースを目を皿のようにして眺める。とすると、薔薇のお花やガーランドが施された非常に繊細なメタル製のフレームが目に入った。「これは?」と尋ねると、早速ケースの中から出してくれる。間近で見てもやはりとても繊細で良い出来映え。「ほら、ケースだってあるのよ!」と彼女がガラスケースの中から取り出して見せてくれる。オリジナルケースは傷みがあったものの、フレームにオリジナルケース、こんな組合せは初めて見た!ジュエリーのことなどさっぱり忘れて、嬉々としてフレームを手にし、そのままいただくことに。

 買付けの度に探しているもの。それはガーランドなどオルモル(ブロンズに金張り)の飾りの付いたガラス器。毎度毎度探しているのだけど、ここ最近しばらく入手していない。物凄く高価なお値段を付けている専門店にはあっても(そういうお店では、私が売るよりもずっとずっと高いお値段が付けられているのが常で、あまりのお値段にいつもびっくりさせられる。)、私が仕入れられる物は無い。比較的高価なオルモルの雑貨を扱っているムッシュウは私達も顔馴染み。今日も「ムッシュウはどうしたの?」と河村のことを尋ねられ、「彼は東京で一生懸命仕事をしている…はず。」と答えてふたりで笑い合った仲。その彼の綺麗なアイテムがずらりと並んだガラスケースの中にいつも探しているガラス器が!「これふたつ見せて!」とお願いすると、早速出してくれ、「君には特別に○○ユーロで。」と言う。(「特別」なんて言いながら、きっと聞いたディーラーすべてに同じお値段を言っているに違いない!笑)立体的なガーランドが付いた物も、もう一方のハンドルが付いた物も、どちらも状態も良く綺麗。ムッシュウが「ガラスはバカラだよ!」とダメ押しする。何度も電卓を叩き値段交渉。そして交渉成立!今回は一気に2点一緒にいただく事に。

 いつもは素通りしているお人形系の小物を扱っているマダム。ちょっと気になる物を持っていても、状態がいまひとつのことが多いため、ちょっぴり覗いて見るだけの場合が多い。で、今日も「何も無いよね?」と自分に問いながらちょっぴり覗いて見ると…「ん?ちょっと待って!」ひらひらと吊下げられた薄手のローンのベビードレス。アイリッシュクロシェが裾にあしらわれた可愛らしい洗礼服だ。何より非常に薄手で、見たことのないほど細かなピンタックが沢山施されている。もちろん手縫いだ。立ち止まってじっと見つめる私に気付いたマダムは、「これはイルランド(フランスではアイリッシュクロシェは「イルランド」と呼ばれている。)で…」と説明を始めた。「分かってます!分かってます!」と私。今度は「ほら、ミニヨンヌでしょう!?」とマダムの自慢が始まった。手に取って見せて貰うと、類い稀な状態の良さ!思いがけないところで、思いがけない良い物が見つかった!!元々、フランスが発祥のアイリッシュクロシェ。このドレスもフランス製でロマンティックな雰囲気だ。

 そして、いつも立ち寄るレースや生地を扱うディーラーのところでも出物が!!誰も見ない彼女のガラスケースの奥の奥まで毎度チェックする私。と、そこに「!!」衝撃のアイテムが!(ちょっと大げさ?)長年いつも探しているレースのハンカチ。そのハンカチは20年近くこの仕事をしてきて今まで2点しか扱ったことが無い。今までなかなかここでは良いレースとの出会いがなかったので、「どうしてここにある訳!?」とブツブツ独り言を言いながら、早速マダムに出して貰う。
 「実際に手に取るとがっかり」ということもあるのだが、このハンカチは期待を裏切らず状態も良好。早速マダムにキープをお願いして、夢見心地で他のアイテムもチェック。長年付き合いのあるマダムは「ほら、あなた、こんなの好きでしょ?」と、どこからかシルクのグラデーションリボンで出来たお花を持って来てくれた。誰も立ち入らない奥まで入り(一見さんには入ることの出来ない奥深くでも、私はマダムから無言の許しを得てフリーパス!)、生地の山をゴソゴソ。様々な生地を生地を引っ張り出してチェックするうち、最近珍しいシルクの織り生地が出てきた。「いいじゃない。いいじゃない。」と生地の山に埋もれながらノリノリの私。結局気に入って状態の良い生地はそれだけだったが、かなりウキウキした気分で商談に入る。商談成立!普段は厳しい表情のマダムも今日は笑顔。嗚呼、嬉しい!

 お人形は買わなくとも、何かと可愛いお人形の小物を物色するここ。お人形ディーラーのムッシュウはいつも礼儀正しく、お人形を買わない私にもとても親切にしてくれる。今日は可愛いお人形用のボネがないかと立ち寄ったのだ。ムッシュウにガラスケースに並んでいたボネを見せて貰い、そのひとつひとつを手に取り「どうしようかな…」と考え込んでいると、私の後ろからムッシュウが一際高級そうなハットスタンドに載せられた豪華なボネを「こんなのもあるんだよ〜。」と持って来た。一番良い物を見たら、やはりそれを買付けずにはいられない。物凄く豪華で可愛いけれど、物凄く高価なボネ。「ちょっと待ってて!」と電卓を叩き、考え込み、でもやっぱりいただくことに。このボネ、本当に可愛いのだ!

 気付くともう夕方、ディーラー達もお帰りの時間。「また明日!」とバスに乗って帰宅。ホテルには先に帰った優子さんが待ってた。今晩の夕食は近所のジェラール・ミュロでお総菜を買うことに。お菓子やチョコレートも美味しいけれど、パンやお総菜も美味しいジェラール・ミュロ。今日はついでにロゼワインも調達し、ホテルのお部屋で楽しい夕べ。私よりもずっと年下の優子さんだが、妙齢の優子さんの複雑な気持ちは長く独身だった私には理解出来る。ふたりでワインを開け、おしゃべりは夜遅くまで続いた。明日の晩はいよいよ革命記念日のエッフェル塔の花火へ。

夕食のお買い物をした後は優子さんと連れだってリュ・ド・シェルピス(シェルピス通り)へウィンドウショッピングに。パリはソルドとバカンスの季節。お洒落な帽子専門店Marie Mercieのディスプレイもすっかり気分はバカンスです!真ん中のネコミミ形の帽子が気になります。


この日のサン・シェルピス広場は雨上がりでちょっぴり淋しい印象。優子さんと一緒にせっかくここまで歩いたので、久し振りにサン・シェルピス教会の中にも入ってみました。

■7月某日 晴れ
 今日は「革命記念日」、日本では「パリ祭」という名前の方が有名だ。フランスの祭日でもある今日、シャンゼリゼでは軍事パレードがあり、18世紀から現代までの軍服のコスチュームでのパレードがあるのだが、私達にはわざわざシャンゼリゼまで見に行く時間の余裕は無い。ホテルの部屋で簡単に朝食を取り、優子さんとバスに乗って買付けへ。やっと来たバスに乗ったら…既にリヴォリ通りが封鎖されていてセーヌ川を渡る前にバスは通行止め、サン・ミッシェルで降ろされてしまった。仕方なくシャトレまで歩き、そこからはメトロに乗ることに。そんなシチュエーションでもパリの街を歩くのはなんとなく楽しい。

 少し迷いながらもやっとシャトレの駅をみつけ、あともう少しという地点で…頭の上を物凄い爆音が通り過ぎていった!!「いったい何事!!」びっくりした私達の頭の上を通り過ぎていったのは、軍事パレードに先駆けて飛んだ戦闘機の編隊飛行!しかもトリコロールのスモークをあげながら!思えば私達の歩いていたリヴォリ通りはシャンゼリゼからまっすぐ西側。編隊飛行はシャンゼリゼの上を通り過ぎ、そのままリヴォリ通りの上空を飛んできたのだ。フランス国民で無い私達でもトリコロールのスモークに感動したのだから、きっとフランス人にとっては心が震える出来事なのだろう。警備のポリスも軍の関係者も皆一様に携帯を出して写真を撮っていたのがおかしかった。その後も、様々な飛行機が続々登場!やっぱりシャンゼリゼのパレードも見たかった!

戦闘機のあまりの爆音にキモを潰され、そのスピードに追いつけませんでした。よって飛行機の姿はナシ。でも、トリコロールのスモークはくっきり残っています。


第一陣が去った後も、次から次へと様々な編隊の戦闘機が。右の塔はシャトレの塔です。こんなパリの街のすぐ上を飛んで良いのでしょうか?

 今日、最初に向った先は広大なスペースを持つコスチュームを扱うディーラー。でも、私が仕入れるのはコスチュームではなく、リボンやブレード、生地などの素材。今日は半日ここでじっくり膨大な在庫チェックに明け暮れるのだ。なが〜い回廊いちめんにずらりと並んだ在庫。毎度のこととはいえ、この在庫を見ただけで気持ちが萎えるのもいつも通り。オーナーやスタッフに挨拶をし、ひたすらひとつひとつシングルハンガーにびっちり並んだ在庫をチェックする。長い回廊にいくつも並んだシングルハンガー、それに吊下げられた在庫はいったいいくつあるのだろう?昼食を挟み3時間は優にここで過ごした気がする。
 一通り見終わった後の私の手は埃で黒ずみ、立ちっぱなしの仕事は腰にきている。今日はブレードやリボン、お花等々。こちらのディーラーに「客」として認識されると、とことん、不気味なほどフレンドリーにされる。今日もやり手のオーナーにこれ以上ないほどにっこり微笑まれ、何ともいえない気持ちでここをあとにした。

 今回はまだシルク生地の仕入れが出来ていない。本当に、最近シルク生地の仕入れがとても難しくなってきているのだ。必ず立ち寄るテスタイル専門のディーラーのところにも私が欲しいお人形用の小さな柄の物は皆無。よく見知ったディーラーは申し訳なさそうな顔をしてくれた。仕方なく時々立ち寄るテキスタイル専門の女性ディーラーの元へ。中近東をオリジンに持つ彼女からは毎度、フランス人よりもさらに濃い歓待を受ける。「紅茶はいかが?」「見たい物があったら、アシスタントの彼に何でも言って!」と超ご機嫌な笑顔で言われると、ありがたいような少し怖いような、微妙な気持ちだ。紅茶はありがたく辞退し、生地の山の中にまたどっぷり浸かる。
 彼女に言われた通り、アシスタントを手足のように使い、沢山積まれた生地の山の下の方の生地を引っ張り出して貰う。出てきたのは、小さな薔薇模様や蝶々の模様、リス模様(!)が起毛した可愛いシルク生地。たぶん子供服のための生地だったのかもしれない。他にも、毎回「お人形用の生地はない!?」としつこく尋ねる私のために、奥からひと山持って来てくれた。高価なペルシャ絨毯が敷かれた広い空間にそれらを広げてひとつひとつ物色。まだドレスの形のままの生地やら、小さなハギレやら、様々な物の中から畝織りのクリーム色のシルクと古い生地にありがちな極細のストライプのブルーの生地をチョイス。それにしても、マダムのあまりの愛想の良さに感心、やり手のディーラーは誰もがとても愛想が良いのだ。自分のことを振り返り、「私も常にっこりしていないと…。」と少し反省。仕事が済むと、沢山のテキスタイルやタッセルが吊下げられた空間をマダムの許しを得て撮影。

 そうしている間に、マダムのところには新たなお客が。それは中国人の一団、声が大きいのですぐ分かる。お金持ちそうな年配の男性に通訳の若い女性やら、お付きの者(?)が何人か付いている。男性は天井に近い場所にディスプレイされた一際高そうなメタルワークの衣装を所望、マダムのアシスタントが長い棒を駆使して一生懸命下ろし始めた。たまたまいた私も一緒になってその衣装を鑑賞。マダムの話では19世紀末のスペインのマタドールの衣装らしい。確かに鮮やかなシルクに重厚なメタルワークは、きっと闘牛場では良く映えたことだろう。こちらもマダムにお断りし、撮影。知らず知らず、中国人の男性と一緒に感嘆の声をあげ、「なんて素晴らしい!」と言葉を交わすことに。

 イギリスでもフランスでも中国人の一団とは少し距離を置いていた私。最近は私が訪れるようなアンティークディーラーのところに彼らもきていて、同じ場所でアンティークを選びながら敵意剥き出しの態度を取られることが多いので、あえて近づくことがなかったのだ。が、ここであった彼らは私の緊張感がどこかへ行ってしまうほどフレンドリー!「日本人ですか?」と聞かれたことから始まり、通訳の若い女性が、中国人の男性が北京と香港を行き来している貿易商であること、つい最近東京へ行ったことを話し始めた。私が「銀座へは行きましたか?私は銀座にお店を持っています。」と言うと、通訳の女性と男性はふたりして声を揃えて「Ginza!!Ginzaは綺麗な街並みでとても良かった!」と感激の面持ち。さらに「日本の食べ物は合いましたか?」と尋ねると、さらに「サシミ!スシ!何でもとても美味しかった!」とふたりとも興奮状態。(笑)どうやらお金持ちの中国人にとって、日本は大好きな国であるらしい。「今度日本に行ったらお店に行きます!」と言われ、名刺交換をして別れた。昨今の国と国との事情を考えると、びくりするほどフレンドリーな彼らに、「現実とはこういうものなのかも…」と目から鱗が落ちる思いだった。

これはマダムの在庫のほんの一部。画像だと大きさが分かりにくいのですが、この生地はすべてカーテン大の大判、上から吊下げられたタッセルは巨大な物ばかり。フランスのインテリア素材はとにかく大きいのです。


このゴールドワークがマタドールの衣装にほど越されていたもの。繊細ですが、びっしり刺されたそれは重厚感たっぷり!思わず皆で見入ってしまいました。

 それぞれにホテルに戻った私達、今日もホテルのお部屋でふたり宴会(?)。今回も本来ならひとりで淋しく買付けだったはずなのに、優子さんとふたりワインを飲みながらお部屋で食事をするのは楽しいこと。イギリスのこと、フランスのこと、もちろんアンティークのこと、話は尽きない。ゆっくり食事をし、今回のクライマックス、「革命記念日の花火」を見に出掛けたのが午後10時過ぎ。どこから見ようと考えあぐねていたのだが、帰りのメトロの激込みの混雑を予想してセーヌ川沿いを歩いて見に行くことに。花火は午後11時から始まるため、のんびりセーヌ川沿いを歩く。オデオン座からサンジェルマン大通へ降り、そのままセーヌ川へ。ルーブル美術館を通り過ぎ、川沿いをずっと西に向って歩く。そんな私の「歩いて行くよ!」という我が儘に「ハイ!」と気持ち良く返事をし、付き合ってくれる優子さんに感謝。結局、普段だったら絶対歩かないコンコルドまで来てしまった。(苦笑)

 コンコルドのセーヌ河岸から見る花火は、「すぐ近く」とはいかなかったが、その界隈は凄い人混み。それでも長年の念願「エッフェル塔の花火」を見ることが出来て私は十分満足!それは日本の花火とは印象を異にして、エッフェル塔のあちらこちらから滝のように流れ落ちる花火、トリコロールの花火。その姿はまるでアール・デコそのものだった。

 30分の花火を見た後は、人混みと一緒に再びコンコルドからオデオンまで歩いてホテルへ帰宅。帰りのセーヌ川河岸は、混雑を避けてバイクで花火を見に行っていた人々が爆音を上げて帰っていく。その騒音と思いがけない長距離の散歩にぐったりしながら帰路についた。この日、一番のスペクタクルな出来事はこの長距離散歩だったかもしれない。

対岸のコンコルド界隈から見えるL'Assemblee Nationale(フランスの国会議事堂)も「革命記念日仕様」にトリコロールのライトアップ!この色の組合わせ、やっぱりフランスらしく美しい!セーヌ川の水面に良く映えます。




一体どこに仕込んであるのか、エッフェル塔自体から流れ落ちる花火。フランスのスペクタクルの神髄を見た思いでした。


こちらは当日の動画、テレビ放映されたものです。音楽付きでゆっくりおうちで見る方用です。今年は第一次大戦100周年ということもあり、花火で描かれた“VIVE LA PAIX”の文字が印象的です。

■7月某日 晴れ
 今日はアポイントを入れてあるディーラーを訪れることになっている。比較的朝はゆっくり時間があったので、朝からすぐ近所のリュクサンブール公園に優子さんと一緒に散歩に行くことに。広々とした朝のリュクサンブール公園はのんびりしていて気持ちが良く、ナチュラリストの優子さんも喜んでくれた。私の知っているパリ、私の馴染んでいるパリを優子さんに紹介すると、どれも素直に喜んでくれるので、そんな優子さんの喜ぶ姿を見ると私も嬉しい。リュクサンブール公園を散策した後はそれぞれ別れて、私はディーラーの元へ。今日は一日じっくりディーラーのところで買付けをする予定。


パリ6区に位置するリュクサンブール公園は、パリの人々の憩いの場。週末には沢山の人々が思い思いにベンチに座ってくつろぐ姿が見られます。早朝の公園の周囲にはランニングする人々の姿も。遠くに見えるのはエッフェル塔。


リュクサンブール公園は、このリュクサンブール宮に付随するものとして、イタリアからフランス王室に嫁いできたマリー・ド・メディシスの命によって1612年に造園されました。


リュクサンブール公園の木立の中に立つ彼女はモンパンシエ公爵夫人ことアンヌ・マリー・ルイーズ・ドルレアン。ルイ14世と同時代を生きた彼女は、晩年ここリュクサンブール宮で余生を送りました

 長年お世話になっている彼女、いつものように挨拶から始まって、お互いの近況報告など、商品を見せて貰う前におしゃべりに花が咲き、なかなか商品まで到達しない。(笑)楽しいおしゃべりが一通り終り、やっと私用に集めておいてくれた大きな荷物が出てきた。
 その中から出てくる物は私にとって皆魅惑の品々。沢山の物の中からセレクトする大変だが楽しい時間だ。レースや生地、ブレード、リボン…etc. そしてロココも。物を選ぶことは、疲れているときには集中を切らさないようにするのが大変だが、彼女の所では毎度ワクワクドキドキ楽しくてすぐ時間が経ってしまう。今日もランチをはさみ、結局夕方近くまで長居をしてしまった。

 今日の出物は18世紀と思われるホワイトワークのハンカチ、デリケートなシルク生地やコットン生地色々、繊細なホワイトワークの素材、お花。特に18世紀と思われるハンカチは、19世紀の物よりもサイズがずっと大きく、その繊細なステッチや真ん中のローン生地からは何とも言えない古い素材感が感じられる。ローン生地の周囲を飾るメヘレンのレースもハンカチでは珍しい。そしてもうひとつ、豪華なシルクベルベットのグローブケース。ベルベットの状態も良い深紅のケースにいはきっと高価な手袋が収められていたに違いない。内側の淡いブルーのシルクも美しくとても良い状態、こんなゴージャスなグローブケースは今まで扱った事が無い。重量感もあったため、「本当に大丈夫?日本に持って帰れる?」と彼女から幾度も聞かれたのがおかしかった。

 選んだ物を肩から提げられる頑丈で巨大なエコバッグに詰め込み、彼女によくよくお礼を言い、「また次回ね!」と言い合って別れた。荷物はずっしりと肩に重いのだが、帰りは寄り道したくなって久し振りに美しいパサージュ、ギャラリー・ヴィヴィエンヌへ。

 1823年に作られたギャラリーヴィヴィエンヌはパリのパサージュの中でも一、二を争そう美しいパサージュ。お買い物をする訳でもなく、ウィンドウを覗き見てそぞろ歩くだけなのだが、心が華やぐ場所だ。きたぶん19世紀の人々も同じようにワクワクしながらパサージュの中を行き来したに違いない。何をするでもなく、ひととおりパサージュの中を歩き、満足したところでバスに乗って帰宅。

イエローの明るい壁と華やかなモザイクタイルの床。ギャラリー・ヴィヴィエンヌはパリの数あるパサージュの中でも際立つ美しさ。次回はこの中のキャフェでゆっくり過ごしたいです。


ギャラリー・ヴィヴィエンヌの古書店Jousseaumeは1826年創業。お店自体がまるでアンティークのようです。


ギャラリー・ヴィヴィエンヌのの中のブティックで。まるでアンティークにあるようなスミレのコサージュ。こんな風に襟元に飾るのも素敵。

 ホテルに戻ると優子さんが先に戻っていた。彼女とは最期の晩なので、レストランに誘おうと思っていたのだが、ランチをしっかり食べてしまったため、ディナーはパス。近所の行きつけのキャフェで簡単なお食事をすることに。私はいつものようにローフトビーフのサンドウィッチと赤ワイン、優子さんはサラダ。年下の彼女だけど、気が合うのか(それとも彼女が私に合わせてくれているのか)、一緒にいるとおしゃべりが尽きない。本来ならひとりで来るはずだった買付け。誰かと一緒に来ることがこんなに楽しいとは思わなかった。今回の買付け、私にとっては今まで経験したことのない目からウロコの出来事だった。

■7月某日 晴れ
 最終日の今朝は朝からスーツケースの荷作り。汗だくで買付けた荷物をスーツケースに詰めていく。今回買付けした大切な物は皆スーツケースへ注意深く詰め、自分の洋服などのパーソナルグッズは巨大なファスナー付きのナイロンバッグへ放り込んでいく。巨大ナイロンバッグも機内預かりにするので、最低限自分でレセプションまで降ろせれば、後はタクシーに乗せ空港まで運ぶことが出来る。後はジュエリーなどの貴重品を大きなタッパーウェア3つにまとめ、機内に持ち込むバッグに入れる。
 汗びっしょりになって荷物を詰め込むこと約1時間。ホテルをチェックアウトするため、優子さんと一緒に荷物を降ろし、レセプションで手続きをする。

 レセプションに荷物を預けようやく出発。優子さんとふたり「最後の朝だし、今朝は時間があるからゆっくりPaulでプティ・デジュネ(朝食)をいただきましょう!」ということで、出掛ける前に近くのビュッシ通りにあるPaulへ。最近は日本にもあるPaul、ここ数年はロンドンにも出来、美味しい物が乏しいロンドンでお世話になることも多い。Paulの朝食セットは、焼きたてのパンが食べられることもあり、ホテルで朝食を食べるよりもお得で、キャフェで朝食を食べるよりもちょっぴり贅沢な感じ。どこのPaulのサロン・ド・テもアンティークな雰囲気でクラシックな作りになっているので、時間があるときはここでゆっくり食べることが多い。優子さんとふたり連れだって歩いてすぐのPaulへ。

 たまたま隣合わせになったアメリカ人のムッシュウは私達にメニューを指し「これこれ!これが美味しいよ!」とオレンジジュース付きのセットをおすすめ。彼のアドバイスに従い優子さんはクロワッサンのセット、私はフルート・アンシェンヌのセットを。
 こんなゆっくり朝食をいただくことが出来るのもパリに来ている時だけかも。私のお馴染みのどこに連れて行っても喜んでくれる優子さん、彼女が喜んでくれると私も嬉しい。朝ごはんを食べた後はボン・マルシェのエピスリーで少々お買い物の予定。(この時間肝心の仕入れ先はまだどこも開いていない。)優子さんに「一緒に行く?」と尋ねると「ハイ!行きま〜す!」と良いお返事。バスに乗ってふたりでボン・マルシェへ向う。

 ボン・マルシェに入る前に、エピスリーのすぐ横にある恒例奇跡のメダイ教会へ。「ここが奇跡のメダイ教会といって…。ここの清らかな空気感が好きなの。」と優子さんと一緒に教会の門をくぐる。しばしミサの真っ最中のお御堂で過ごし、その後はお決まり、優子さんも一緒にメダイを調達。いつもの日本人シスターにご挨拶をし、エピスリーへ。
 ボン・マルシェのエピスリーは広々していてお買い物におすすめ!お土産に困った方にはおすすめの場所だ。オペラ座近くのデパートには何度か行ったことのある優子さんもここは初めてで「ここって楽しいですね!」とご機嫌。一緒に来て良かった!一通りエピスリーのフロアを歩いた後は本館のデパートへは行かず、ここで優子さんと別れまたバスに乗って買付けへ。

 正午近く、まずは馴染みのジュエラーのところへ。フランスのジュエラーは皆そうなのだが、沢山のジュエリーが並ぶそこへは、ブザーを押して施錠を外して貰い、二枚のドアを通って、ようやくディーラーのいる場所へ到達出来る。今日もじっくりとジュエリーをチェックした後で、ケースから出して貰い実際に手にしてみたものの…いまひとつしっくりこない。もうひとつ「これならいいかも!」と思えるものを見つけこちらも出して貰ったのだが、今度はお値段の釣り合いが取れず断念。マダムによくよくお礼を言い、また二枚の扉を経て向こう側へ。

 お昼も食べずにパリの街を歩き回ること何時間か。どうしてもまだジュエリーを仕入れたくて、思い当たる様々な場所を巡ってみるが、ディーラーがバカンスで留守だったり、ディーラーと会うことが出来ても私の気に入る物が無かったり、「最後の最後に仕入れなんて無理なのかな。」とトボトボと気落ちしながら歩く。
 一番最後に尋ねたディーラーは今までも何度かお世話になっているジュエリー専門のマダム。扉のブザーを押すと、ガラス扉の向こうから私のことを覚えていてくれたらしくにっこりしながら出てきた。

 そこでもいくつか見せて貰うものの、気に入ったと思ったらお値段が高過ぎたり、なかなかピンと来るものがない。でもその中にキラッと光るピアスを発見!「これは?」と尋ねる私に「これはホワイトサファイアのピアスよ。この時代のフランスのジュエリーにはホワイトサファイアを使ったジュエリーはたまにあるのよ。」のマダム。ダイヤとはまた違ったクリアな光を放つサファイア、ルーペで見ると台座の側面の細工が非常に繊細で、スペードの模様に透かし細工がされていることが分かる。断然、人間の手仕事が感じられるものに弱い私は、「これにする!」と告げた。
 が、実はそこからの商談がまた大変!買付けの最後で現金の少ない私と、あくまでもクレジットカードで買わせたくないマダムの間での攻防戦が待っていた。(でもここは一応「クレジットカード可」になっているのだが…。)私が「今日日本に帰るからあまり現金が無いの。」と言うと、マダムは目を剥きながら「今日!?」と。私が「夕方に空港に行って、今晩のフライトで日本に帰るのよ。」と言うと、マダムは心底驚いたようでフランス人のお決まり“Oh la la!”を連発。マダムにとっては極東の国への飛行機に乗る直前に、この辺りをフラフラしていることが考えられないらしい。(笑)私の言葉が効いたのが、現金とクレジットカードの半々でお支払いをすることに商談成立。「では、また!」とお互い笑顔で別れた。

 最後の最後に何とかひとつでも仕入れることが出来、義務を果たした感が。これでやっと帰ることが出来る!ホテルまで戻る途中、いつものキャフェでサンドウィッチとワインの遅い昼食をとり、ホテルへと戻る。優子さんとは夕方戻ってきたホテルでサヨナラする予定になっていたので、ホテルまで急ぎ足で歩いていると、向こうから「サカザキさ〜ん!」と私を呼ぶ声がする。振り返るとホテルに戻ってきた優子さん。一緒にホテルへ帰り、改めてお互いに「お世話になりました!」とご挨拶。ロンドンに帰る優子さんをホテルから送りだし、私は迎えのタクシーに乗った

マレ地区で見つけたインテリアショップ。7月後半のこの時期、皆「気分はバカンス!」お店のウィンドウにもそんな気持ちが表現されているようです。


同じくマレ地区にあるリールの老舗菓子店Meertのウィンドウ。ゴーフルが有名なこちら、どうやらシトロン風味のゴーフルが新発売された様子。毎度ここでゴーフルが買いたいと思いつつ、いつも散々歩き回った後で疲労困憊。お店の中に入る元気も無く通り過ぎてしまいます。(苦笑)次回こそは!


毎度癒される近所の花店のウィンドウ。このウィンドウを見たさに思わずお店のある通りを歩いてしまいます。夏の初めのウィンドウには薔薇のお花がいっぱいでした。

***今回も長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。***