■11月某日 雨
 12月中旬のお人形のフェアに出店することもあり、買付けの時期をいつにしようかうかがっていたのだが、たまたま奇跡的に?マイレージのボーナスチケットが入手出来たので(ANAのボーナスチケットは予約が取れないことで有名。)、急遽出掛けることに。ただし、行きはエコノミーシート、帰国便はエコノミーが取れずビジネスシートで。1万5千マイル余計に必要になってしまうが、帰国便のビジネスシート、ちょっぴり楽しみだ。

 ちょうど買付けの前日、フランスのディーラーから「シャンゼリゼで起きた狙撃事件の犯人がまだ逃げているから気を付けて!」というメールを貰い(いったい何をどうやって気を付ければ良いのやら?)、久々に在フランス日本大使館のホームページを開いたのが運の尽き。こちらでは、件の事件の他にも、最近フランスで起きた日本人の被害を注意喚起している。その中にいつも空港から乗っているRER(郊外高速鉄道)の被害の多さを知らしめるページが!けっして治安が良くはないRERの構内(実際に私も実害は無かったもののスリの被害に遭ったことがある。)、「スーツケースもふたつあるし、やっぱり危ないよね。」と今回は空港からバスでモンパルナス駅まで向かうことに決めた。

 シャルル・ド・ゴール空港に到着すると外は大雨。バスに乗るために空港から外に出ると震え上がるほどの寒気。今週はマイナスになり、雪が降るという予報も出ている。運良くすぐに来たモンパルナス駅行きのバスに乗り込んだ。が、半袖姿のドライバーの設定していた車内の温度はたぶん30℃ぐらいあったと思う。車内が暑いままバスがぐるぐるとターミナルを周り、激混みの空港線に出た時点で、繰り返される発車と停止で、だんだんと車に酔って気分が悪くなってきた。そこから延々2時間半、激混みの空港線と激混みのパリの外周道路を経て着いた先は目的地のモンパルナス駅ではなくその手前のリヨン駅。その辺りで力尽き、「もう我慢出来ない!!」とリヨン駅で脱落。そこからまた寒空の下タクシー乗り場の長蛇の列に並び、タクシーでホテルへ。ホテルに着いたのは空港を出てから3時間。こんなことならキケンだろうが何だろうがいつものようにRERに乗れば良かった!!

 今回はいつものホテルが一泊分取れず、いつものホテルから中途半端に近い初めてのホテルへ。予約したのが直前だったこともあり、たった一室残っていたトリプルルームにひとりで宿泊。ここがまた…。(`ヘ´#)
 外気は1℃程度だというのに、二箇所あるヒーターは経費節減のせいかほんの僅かしか熱くならず部屋は寒いまま。こんな時は広いトリプルルームが恨めしい。冬なのにこんな寒いフランスのホテルの部屋は初めてだ!既にインターネットのパスワードを貰うため、分からず屋のレセプショニストと一戦を交えた後で疲れ果てていた私は、再びレセプションに文句を言いに行く元気もなく…。(トリプルルームにもかかわらず、いくら言ってもパソコン用とiPhone用のふたつのパスワードを貰うことを強硬に拒否され、散々言い合いをしたのだった。)

 いくら待っても部屋は暖まらず、「ありえない!」とばかりに、ベッドに余分の毛布二枚を掛け、寝間着の上にフリースを着、もちろん靴下も履き、首にはネックウォーマーまでし、寒さに震えながら寝るハメに。これだけ着込んでやっと眠れるようになったのだが、手が冷たくて冷たくて、手袋をして寝ようか真剣に悩んでしまった。
 こんな風に今回の買付けは暗澹たる思いで始まったのだった。

11月も下旬になり、パリの街も少しずつクリスマスイルミネーションが。こちら学生街サン・ミッシェルの本屋さんもこの通り!

■11月某日 曇り
 今週のパリは「マイナスで雪」との予報だったのだが、今日はお陰様で最低気温は1℃、お天気は曇り。寒かったホテルとはさっさとおさらばし、まずは買付け前にいつものホテルにお引越し。スーツケースはふたつ、中途半端な距離なので、タクシーで運ぶかそれとも自分の足で運ぶか迷っていたのだが、雨ではなかったので、朝からひと仕事。自分で運ぶことに。ホテルをさっさとチェックアウトし、運び出始めると…リュクサンブールの西側のこのホテルからいつものオデオン座脇のホテルまではずっと長い下り坂。スーツケースに手を添えていれば自力でゴロゴロ転がっていく。ゆうべの極寒部屋(けっして安ホテルという訳でもなかったのになぜ?)から逃れ、思いがけず簡単にいつものホテルに着き、レセプションの顔馴染みのムッシュウに迎えられた時、心からほっとした。
 チェックインにはまだ時間が早すぎるため、荷物だけ預け、本日の買付け先へ。

どんよりグレイの空は冬のパリそのもの。誰もいなかった市庁舎前の広場ですが、ここにはもうすぐ冬の恒例、スケートリングが登場します。こんな淋しい光景もパリらしいですね。

 今日は長年お世話になっているディーラーのところでランチをはさみ終日買付けの予定。買付けの最初はゆったりしたペースで。いつものホテルに荷物を置いた後、寒空の下、足取りも軽くディーラーのところへ。

 彼女とのお付き合いはもう十数年になるだろうか。私の欲しいもの、好きなものをキッチリ理解してくれている彼女は大切なブレインのひとり。今日も久々の再会を喜び合い、私のためにキープしておいてくれた次から次へと出てくる膨大なアイテムをひとつひとつチェックする。私が事前に日本でお人形のフェアに出ることを知らせておいたので、今日は素材系のものが多い。様々なシルク生地が出てくる。ロールになったごく薄いピンクのシルクシフォンは19世紀の物。それをふたりで触りながら「もうこんな物出てこないよね!」と溜息。他にも18世紀の男性用のジレのために刺繍をしたシルクサテン、19世紀らしい極細のボーダーのシルクタフタが出てきた。
 そして素材として使えそうなレース色々。ただ、あくまでも素材用なので、高価なハンドのレースとは一線を画す物だ。また、「素材用に…。」と状態の悪いハンドのレースも色々出してくれたのだが、最初から状態の悪い物に手を出す気にどうしてもならず、「う〜ん、どうしたものか?」とグルグル悩み迷った末却下。(それにこだわらなくなったら、自分で無くなってしまうような気がして…。)

 いつも私がベルベットのボックスを探していることをよく知っている彼女が袋からおもむろに取り出したのは状態の良い深紅のボックス!しかも鍵付きだ。しかも…「前回譲ったボックスの鍵が出てきたのよ。」と、もうひとつの鍵も!「でも、鍵を掛けると開けられなくなることがあるから、掛けない方が良いかも。」との笑えないアドバイスも。
 そして何より嬉しかったのは、美しいリボン刺繍のランジェリーケースともうひとつ、フランス刺繍のランジェリーケース!こちらは長年彼女がコレクションしてきた物らしく、今回初めてお披露目。美しいリボン刺繍に、フランス刺繍に、そしてフランス刺繍のランジェリーケースの縁に付いていた古いパスマントリーに感動。その両方を手にしながら、しばし「昔はこんな可愛い物があったのね…。」とあまりの愛らしさに呆然としてしまう。

 他にも「こんな物もう今では無いよ!」という彼女の言葉と共に出てきたのがゴールドのメタル糸で織られたレースボーダー。グラデーションリボンで作られたデコレーションが付けられている。こうしたアイテムも、こういう物があることは本などで見て知っていても、実物を見ることはほとんど無い。ふたたび「は〜。」と溜息。一緒に出てきたロココもお花がビーズになった物。普通のロココでも見つけるのは大変な昨今、こういう19世紀の素材は本当に貴重だ。
 それから頼んでいた古いメタルビーズも沢山。ボックスにどっさり入った何種類もの混じり合ったメタルビーズ。たぶん元々はビーズバッグに使われていた物だったのかもしれない。(ビーズバッグからビーズを外すのは実は大変!)喜んでいただいたものの、そのボックスを帰国の折にスーツケース内でぶちまけることになるとは…!!(無事に回収したのでご安心を。)

 こんな調子でいったいどれだけの商品をチェックしただろうか?仕事とはいえ、そんな私に付き合い、私の願いをなんとか叶えてくれようとするディーラーにはただただ感謝。今日は思いの外時間が掛り、ランチを一緒しただけでなく、夕方、今日から解禁されたボジョレー・ヌーボーを近所のキャフェで飲み交わした。

買付けた荷物を持ち帰る途中、あまりの重さにいつも荷物を持ってくれる河村に、こんな時だけ感謝の念が…。ようやく帰ってきたホテルの近所で見つけたスミレに心和みます。

■11月某日 曇り
 今日は早朝からパリ市内のフェアへ。一応、公称午前8時オープンとなっているが、午前6時からディーラーは準備するらしい。一体何時に現地に到着すれば良いのか迷っていた私。時差ボケで午前4時過ぎから起きていたものの、「イギリスならともかく、まさかフランス人が午前6時から来ていないよね。」と思い直し、午前7時に現地到着の予定で出掛ける。流石に日の出前のパリは真っ暗、そして寒い。でも、予報を裏切り雪でないだけマシか。今日は終日外で買付けのため、自慢の(?)「寒冷地仕様」のダウンのロングコート、上半身はもちろん下半身も三枚重ね、足は登山用の靴下(靴下用のカイロを貼ったものの靴に足が入らず残念ながら却下。靴下用のカイロはベリッと剥がし、そのままお腹にペタッと張り直し!)、帽子と手袋は指有り指無しの二枚重ね!!これだけ着込むと、普段とバランスが違うのか、すぐに何かにつまずいて転びそうになる。

 暗がりの中、昨日路線図で調べておいたバスに乗り、目的地へ。パリ市内で数百軒も出るフェアは珍しく、私も来たのは初めて。初めてのフェアだと、どこにどういうディーラーが出ているか分からず不案内なのだが、今回の目的、馴染みのディーラーがどの辺りに出ているのかは事前に連絡を取り調べはついている。
 フェア会場に到着。今日のフェアは露天で、テントはあるが戸外。まだ日の出前のテントの中は真っ暗で何も見えない。持って来た長年買付けで愛用しているマグライト(懐中電灯)で照らそうとし、バッグから取り出したのだが、電池が尽きたのか暗いまま。その後、電池が液漏れしていることが発覚し、「せっかく持って来たのに〜。」と歯ぎしりすることに。(このマグライト、結構な重さなのだ。)

 だが、目的のディーラーのブースにたどり着き、まずはムッシュウと挨拶の後、薄暗い中で商品を物色する。(何事にもこまめなムッシュウは既にテントに来て作業をしていたが、太っ腹で少々大ざっぱなマダムはまだ来ていなかった。)テントの中には私の他まだ誰も来ていない。「しめしめ」と物色を続ける私。ころんと可愛い小さなパニエやトワル・ドジュイの生地、金糸のブレードを両手に握りしめていると、マダムがやって来て、「あなたのために持って来たわ!」というシルク生地やリボンをボロボロの紙袋から(そんなところが彼女らしい。笑)出してくれた。マダムとムッシュウから一通りいただくと、今度は広い会場(とはいっても普通の街の道端)にずらりと並んだテントを覗いていく。

 ようやく日が昇ってきた。これで懐中電灯無しでも見ることが出来るから大丈夫!次から次へとブースを回るも、馴染みが無いフェアのせいか、いまいちどこに何があるのか分からず、なかなかピンとくる物がない。そんな中、可愛いリボン刺繍のフレームを発見!「こんな場所でリボン刺繍のアイテムを見つけるなんてキセキ!」と心の中で呟きながら、売っていたムッシュウに出して貰い、よくよく間近で見てみる。状態も良く、グリーンのモアレにピンクのリボン刺繍が可愛い!フレームの中には何も入っていなかったので、「中に何を入れようか?」と考えるのも楽しい。ウキウキしながらいただくことに。フォトフレームをいただくためにふと視線を移動させると、そこには細かい編み目のソーイングバスケットが。「え?こんな物もあったの!?」と手に取ると、留めの金具も後ろ側のふたとのジョイント部分も良好な状態。内側も珍しい薄ピンクの布張りだ。こちらもいっしょに買付け。

 次に見つけたのはすずらんのシルバー製パウダーケース。通常、どれだけ探しても出てこないすずらん模様のシルバー製品がそこに!「うそ!すずらんじゃない?」とこれまた心の中で叫び、マダムに出して貰う。特に傷も無くコンディションも良好。どうやらこのフェアには普段会うことのない地方のディーラーも数多く出店していて、バッチリお化粧した綺麗なこのマダムもそんなひとりらしい。(フランス人女性は全くのノーメイクか、もしくはバッチリお化粧のどちらかが多い気がする。在フランスが長い日本人の友人によると「部屋が暗すぎてしみやシワが見えないのよ。」とのこと。なるほど。)マダムとはじっくり商談の後、いただくことに。すずらんのシルバーアイテムは嬉しい出物だ。

 途中、出会ったアンティークビーズを扱う色葉の森田さんと「1時間半後にランチね〜。」と約束し、通りから通りへブースをチェックしながら歩く。日が昇ったとはいえ、今日もどんより曇り空。でも、元々は「マイナスで雪」の予報が出ていた今日、雨や雪でなかっただけでも本当にありがたい。(寒いのは厚着でしのぐことが出来ても、雨や雪で戸外のフェアだなんて、目も当てられない!)日本ではまず味わうことの無い「キーン」と頭に来る寒さで、帽子無しではいられない。そんな寒さの中、まだまだ歩く。途中、仕入れに来た顔馴染みのフランス人ディーラー、日本から買付け出来た日本人ディーラーと出会う。皆、仕入れに来ているので、一様にせかせか歩いている。

 すべてのブースをほぼ制覇し、色葉さんとのランチの時間が迫ってきた。約束の場所の手前で彼女と出会い、そのまま色葉さんおすすめのキャフェへ。ここはキャフェといっても、大きな作りで、ランチの時間はほぼレストランといった雰囲気。室内はそのままの格好では暑過ぎるので、コートやマフラーを脱ぐのもひと苦労、卵とハムが丸いバンズにのった何やら美味しい食べ物に、昨日解禁のボジョレー・ヌーボーをここでも。既に何時間も歩いた私達は、ワインを飲みながらのんびりランチ。普段、愛知県に住む彼女とは11月初旬にも会ったばかりだが、お互いの近況報告をし、買付けの様子について語り合う。
 満足のいくランチをした後は、そこから程近い問屋街へ一緒に出掛けることに。ここにはジュエリー用のボックスやディスプレイ用の資材が売っていて、何かしら用事があるのだ。仕入れの度、というほどではないがたまに立ち寄る場所だ。私は何度か来たことがあるが、初めての色葉さんは興味深げ。「ここに来ればいつでもフランスでお店が開けるよ!」という私の言葉に二人して笑った。
 いつものようにジュエリーのボックスを手に入れた後は、色葉さんは荷物を預けていたディーラーの元へ、元いたフェアへ戻っていき、私は次のフェアへ。

 そこからメトロに乗って出掛けた先は北駅から程近いフェア。あまり治安の良くない北駅周辺なので、昨日のうちに場所はよくよく地図でチェックしてある。再度地図を開くのも人目につかないようにこっそりと。ようやくフェアが開催されているはずの教会へたどり着いたのだが、それらしき人の姿は見えず、教会の周りには人っ子ひとりいない。「おかしいな。キャンセルかしら?」と付近を歩き回るのだが(フェアがキャンセルになるのはよくあること。)、それらしき気配は何も無い。でも教会の掲示板にはしっかりと“Brocante”の文字が。よくよくそのポスターを見ると住所も書いてある。その住所の通り、教会脇の道を歩いて行くと、目的の番地にたどり着いた。どうやらそこは教会付属の建物で、教会主催のフェアらしい。
 中に入って行くと、沢山の人が並んでいて、「Brocanteに行く人はここに並んで!」と並ばされる。が、開始時間は既に過ぎていくのに並ばされた列は微動だにせ…ず。「どうして?」と心の中で思ったまま、大人しく並ぶ他の人達に混じって並んでいたのだが…痺れを切らした私が「あの、私アンティークディーラーなんですけど。プロフェショナルなんですけど。」と受付けのムッシュウに訴えると、「ハイハイ、そこに並んで。」と一蹴されてしまった。フランスやイギリスのフェアでは、ディーラー(プロフェッショナル)と一般の人の線引きがはっきりしていて、アンティークディーラーであるネームカードを見せると先に入れて貰えることも多い。狐につままれたまま20分ほど並んだだろうか、さらにはいつの間にか私の前にひとりの男性が横入り。「え?ちょっと、どういうこと!?」と思いつつ、そのまま並んでいると、私の前に並んでいたマダムが「あなたが先でしょ。こちらへいらっしゃい。」と手招きしてくれた。マダムにお礼を言うと「solidarit?(連帯)よ!」とにっこり。この言葉、フランスの悪名高いストの折によく耳にする言葉ゆえ、あまり良い印象がなかったのだが、マダムの優しい微笑みに、不思議と素敵な言葉に聞こえてきた。

 やっと会場に入れて貰うことが出来た。どうやら会場内が狭いうえ、人が多過ぎて、入場制限をしていたらしい。会場に入ると、まず最初に美しいブリュッセル・アプリカシオンのラペットが目に飛び込んできた。綺麗なブリュッセル・アプリカシオンで、糊の効いた未使用な状態。早速マダムに取って貰い、間近でチェック。マダムはその場に似つかわしくない外国人の私に「これはベルギーのレースで…。」と一生懸命説明してくれる。そんなマダムの言葉を「知ってます!知ってます!」とにこやかに遮り、「よしっ!」とまずは手にしっかりとキープ。そしてもうひとつ、ピンクのシルクの裏地の付いたコットンの可愛いベビージャケット。こちらも可愛い!そのふたつを手にし、満足して会場を回ったのだが、実はディーラーらしき存在はそのレースを扱っていたマダムだけで、後はフリーマーケットに近い雰囲気。「ここでレースを得ることが出来たなんてキセキだ!」と思いながら、さっさと会場を後にする。

 今日も一日歩いて買付け終了。朝が早かっただけに夕方にはもうエネルギー切れ。その晩、「あのフェアどうでしたか?」と買付けに来ていた知人のディーラーからメールが来たが、「私はキセキが起きてレースを仕入れたけど、フリーマーケットだからあんなところ行っちゃダメよ。もう今から寝ます!」と返事を返し、午後9時に就寝。

パリの夕暮れ。街に夜のとばりがおり、灯りの灯る頃、街並がいっそう素敵に見えたりします。(汚い物が見えなくなるからですかね?笑)


レストランの窓辺に置かれた沢山の燭台。こんな光景を見ると「フランスだなぁ。」と思います。雰囲気がありますね。


昨日も今日もボジョレー・ヌーボーを飲んだにもかかわらず、夕食の買い出しに行った近所のスーパーで、シンプルなラベルに惹かれ思わず買ってしまいました。ボジョレー・ヌーボーって、ジュースみたいですよね。(それって私だけ?)

■11月某日 曇り
 フランスにいながら連日時差ボケのため、早朝起床。日本に帰ってからの時差ボケよりはマシとはいえ、毎日午前3時頃に目覚めてしまい、ベッドの中でもんもんと過ごすことになる。今日も午前7時過ぎに出発。まだ外は暗く、例の懐中電灯は役に立たないが、それも日の出までのこと。今日も終日買付けの予定、戸外で過ごす時間が長いので、思い切り沢山着込んで出掛ける。兎にも角にも今日も雪でなかったことだけがありがたい。

 いつものようにバスに乗って買付けへ。(私はメトロよりも安全なバスの方がずっと好き!)まずは目当てにしていた雑貨を扱うマダム。(ムッシュウもいるにはいるのだが、ボスはなんといってもマダムなので、マダムのご機嫌を損ねないよう挨拶はキッチリ!)久々に会うマダムは私の顔を認めるや挨拶を返し、機嫌が良い感じ。なのに…今日、いくら物色しても私が欲しいものは何も無い!こんなこともあるのだ。よくよくマダムにお礼を言って次の場所へ。

 いつもは通り過ぎるレースのディーラーのマダム二人、毎度通り過ぎてしまうのは何度となく「やっぱりここには何も無いわね。」と体験しているから。でも、この日に限り、ふと目に入ったシルク片。近寄ってよく見るとそれは美しいシルク織物で作ったハンカチケース。少し変わった形で、ピンクのシルクリボンが付いている。それをそそくさと胸に抱き、「ひょっとして他にも何か?」と物色。そうすると、やはりシルクのボンボン入れが出てきた。巾着になっている袋で、縁は金糸のブレード、やはりリボンで結ぶと贈答用のボンボンやチョコレートを入れるギフト用の袋になるのだ。こちらも胸に抱き、どちらもいただく事に。

 久し振りに会う素材ばかりを扱うマダム。そこは山と積まれた箱の中に、レースばかり、お花ばかり、ボタンばかり、様々な素材が入れられていて、マダムはそれらの箱に埋もれている。しかも入口には「部外者は立ち入り禁止!」とでもいうように棒が渡してあって、マダムのお眼鏡にかなった者しか中に入ることは出来ない。その棒の線引きはそれははっきりしていて、中に入ってみたいと思っても、「一見さん」は入れて貰えない仕組みになっている。(と思う。笑)昨日、色葉さんとランチを食べた時にも話題になったのだが、その線引きは恐ろしくはっきりしていて、線のこっち側か向こう側かでは扱いがまったく違うのだ。(笑)

 そんなマダムだが、私にはビズーで挨拶し、とてもフレンドリー。今日もそんな棒の向こうに入れて貰い、マダム自ら次から次へと箱を持って来て、愛想良く私の仕入れを手伝ってくれる。今日は細々した素材に欲しいものは無かったのだが、大事にガラスケースに入れられたベビーボネを発見。くるくるシルクのリボンが沢山付けられていて「可愛い!」とマダムに見せて貰うが、思っていたよりもちょっぴり高価。「う〜ん。」と唸ることしばらく、やはりいただく事に決めた私にマダムは極上の笑顔を向けた。こんな風に笑顔を向けられると「マダムにはやっぱり勝てないな。」と思うのだ。

 その後もあれこれ買付けは続く。途中、奥野ビル1階の裏庭さんに遭遇し、「時間があったらお茶でも。」と誘われる。ここでの買付けはもうあと僅か。「じゃ、後でね!」と少し後にいつものブーランジェリーで待ち合わせ。今日は午後からもびっしり予定があるので、そこで手早くランチを済ますのだ。
 「おつりがない!」と駄々をこねるマダムに手を焼いているうちに約束の時間ギリギリに。「先に着いたら、さっさと食べてるね〜。」なんて偉そうに言ってしまったものの、ふたを開けてみればハアハア息を切らし走って登場することに。ブーランジェリーの奥の狭いテーブルで裏庭さんとささやかなランチ。お互いに買付けの様子を報告して情報交換。彼女はパリでしばらく過ごした後、ロンドンへ移り、留学中の義妹さんと会う予定だとか。義妹さんも良く知っている私は、「宜しく伝えてね。」と伝言。お互いに忙しい合間に密度の濃い時間を過ごした。

早朝、バスを待つ間に撮影した近所のブティック。ここはオーダーのみ、素敵なピンクのドレスはFeteに着ていくため?


同じくこちらのウィンドウはやはりローブ・ド・マリエでしょうね。足元にクルクルするチュールが個性的です。

 一度ホテルに荷物を置きに帰り、そのまま部屋を飛び出し、午後のお仕事へ。午後にはいくつか約束したアポイント先が。冬のパリは日が暮れるのが早い。なんとか今日一日でめどを付けたいものだ。

 まず最初に訪れた先はレースと時代衣装を扱うディーラー。かくしゃくとしたマダムは気位が高く、最近やっと握手を応じてくれるようになった。さて、今回は如何に?静かに、でも期待を持ってマダムは私の来訪を待っていた。いつものように丁寧にご挨拶をし、マダムが愛想良く出してくれた箱の中からひとつひとつのレースをチェック。途中、非常に珍しく、かつ目が飛び出るほど高価な、最近入手したばかりのマダムご自慢のレースを見せてくれたのだが、出るのは溜息ばかり…。マダムも「このレースは私も実物を見るのは初めて。」と言っていたので、本には掲載されていても、そうそう出てくる物では無いのだと思う。思わず「素晴らしいレースを見せていただき、ありがとうございます。」と最敬礼でかしこまってお礼を言ってしまった。

 ひとつ、「とても可愛い!」という柄のアランソンがあったのだが、どうにも状態が悪く却下。マダムに「これがもっと状態が良かったら…。」と独り言のように呟くと、マダムは「フンフン。」と納得の表情のまま「状態が良ければこれよりもずっとずっと高いわね!」としごく真っ当なお返事が帰ってきた。確かにそうなのだけど…。
 結局、今日マダムからいただいたのは、複雑な模様のアイリッシュクロシェの襟。アイリッシュクロシェには薔薇はもちろん、クローバーやアザミが編み込まれているケースが多いのだが、この襟は少し変わったポコポコと素材感のあるアザミの細工。私が「アザミよね、これ。」と心の中で呟きながらじっと見入っていると、マダムの「これはマルグリット(マーガレット)ね!」と断定的なひと言。あえて否定する勇気の無い私は「ハイ、マルグリットでございます。」とマダムにつかえる召使いの如くオウム返しに答えたのだった。

 それから顔馴染みのジュエラーへ立ち寄り、ジュエリーをチェック。今回の買付けではロンドンを訪れないので、めぼしいジュエリーがなく、困っていたのだ。でも、ここで久し振りにとても好みのローズカットダイヤのジュエリーを発見。沢山のローズカットがセットされていて繊細に揺れるダイヤも美しい。凄く惹かれたのだが、まだ目的のアイテムを制覇していない私はスッパリ買ってしまう勇気がない。じっくりルーペでチェックし、マダムに「明日また来るから!」とその場を去った。

 そこから遠く離れた生地やシルクパーツを扱うディーラーへ。異常にトコトコ早く歩くことが出来るのは、買付け中でアドレナリン全開のせい?前回初めて出会った、まるで隠れ家のような場所にあるディーラー、私がトコトコ到着すると、前回会ったことをしっかり覚えていてくれて、アシスタントの女性と共に歓待してくれた。そして、挨拶もそこそこパーツの入った引き出しをひとつひとつ開けてチョイスしていく。途中、近くの倉庫からストックを運んできてくれて、「もっと見ろ!」「こっちもあるぞ!」とばかり、見る物がどんどん増えていく。それと共に欲しかった生地見本を出して貰い、こちらも物色。大急ぎで回っているはずなのに、すっかり時間が過ぎてしまう。見終わった頃には、私が選んだ小さなパーツやパスマントリーの類が山になっていた。

 さらにまたトコトコ歩いて、生地を扱うディーラーを回る。今回の買付けから帰国すると、12月にお人形のフェアがあるため、お人形用のシルク生地がどうしても欲しいところだ。買付けの度、いつも探し回っているが、昨今綺麗なシルク織物を得るのは本当に難しいこと。ディーラーに頼んで出して貰った生地は、私が思っていた何倍も高価だったり、色がイマイチだったり、大量過ぎたり、「どれも帯に長し、たすきに短し」で、なかなかピンとくるものがない。ここでもまたある程度目星を付けて、「ではまた明日来ます!」とそそくさと退散。

 冬のフランスの夕暮れは早い。そろそろ外は夕暮れになってきて、気ばかり焦る。最後に立ち寄ったのは、河村が「怖いマダム」と呼んで苦手にしているディーラー。美人の彼女はにこやかに迎えてくれるのだが、何も仕入れるものがないと途端に態度に出てしまうある意味フランス人マダムらしい人。色々と見せて貰えば「ありがとうございます。」としっかりお礼を言うが、そんな彼女の態度に「だって欲しいものが無いから仕方無いでしょ。」と割と平気な私。今日は、「そういえばあなたニードルのレース、探していたわね?」とお声がかかり、早速奥から大量のレースの入った箱が出てきたのだが…。
 残念ながらどれもいまひとつ。ここでも可愛い柄のアランソンが出てきたのだが、いかんせん状態が。同様に、マダムがどこからかニードルで出来たフラワーバスケットモチーフを持って来てくれたのだが、これも穴あきで状態は×。首を振る私に、「どうして?どちらのレースも素敵な柄よ!」とマダム。そんなマダムに、静かに「私もこのレースは好きだわ。だけど、私の日本のお客様にとって、このコンディションは良くはないのよ。見せてくれてありがとう。」と私。穏やかに言ったお陰か、マダムも今日は納得の表情。明日こそもっと良い物と巡り会いたい。

買付け途中で見つけたビンテージのタッセル。70年代でさほど古いものではなかったので仕入れませんでしたが、こうやってディスプレイしてあるとカラフルで綺麗。他にここで仕入れた物があったので、お店の方にお断りをして撮影させて貰いました。


11月の街はまだクリスマスシーズン本番ではありませんが、いつもの文房具屋さんのウィンドウはいちめんクリスマスでした。


こちらもホテルの近所のテーブル周りのお店。プレゼントを持ったサンタがバッグのようにリースを手に提げています。下に置いてある美味しそうな真っ赤な実もののようなカップはキャンドルです。

 今晩はアンティークビーズを扱う色葉さんと夕食のお約束。夕食とはいっても、私のホテルの近所、行きつけのキャフェで簡単な「キャフェ飯」。時間もかかり、予約が必要なレストランより、「気軽に食べることの出来るキャフェが良い!」とのことで、わざわざ彼女の常宿のグランブールヴァールからわざわざオデオンまで来てくれることになったのだ。

 週末のキャフェは満員!でも顔馴染みのギャルソンが席を作ってくれ、すぐに座ることが出来た。今晩のお食事はごく簡単にローストビーフのサンドウィッチとコート・デュ・ローヌの赤ワイン。お気に入りのデザート、ミステールまで食べてご機嫌!(このデザートMystereは、以前ここで一人で食べていた時に隣のマダムから「それなあに?」と尋ねられたというもの。中はメレンゲの入ったプラリネのアイスクリームだが、外はナッツに覆われていて外から見ると何だか分からない、「ミステリー!」というもの。)疲れていたはずなのに、色葉さんと会えて嬉しい私は、しゃべりにしゃべって気付くと午後11時だった。色葉さんに「くれぐれも気を付けて帰ってね!」とメトロの駅へ送り帰宅。

■11月某日 晴れ
 昨日と同様、今日も早朝から、でも昨日よりもちょっぴり遅く日が出てから出勤!外に出てみると今日はパリに来て初めての青空。何にでもくっきした陰が出来、明るい日差しが気持ちいい。
 まずはバスに乗り、昨日時間切れになった仕入れ先へ。昨日は決断が出来ず、「また明日ね。」と今日へ先伸ばしにしたアイテムが色々。今日、もう一度あらためてチェックをしてカタをつけなければいけない。

早朝の誰もいない街並み。フランスへ来て初めての晴れ間、ずっとグレイの曇り空か雨降りだったので、明るい日の光が新鮮です。こんなにお天気に感謝するのもヨーロッパならではかもしれません。

 最初に訪れたのはジュエラーのマダムのところ。昨日見たローズカットダイヤのジュエリーが忘れられなかったのだ。挨拶しながらやってきた私に、マダムは「よしよし、やっぱり来たわね。」と満足気。もう一度ジュエリーを出して貰い、改めて一からチェック。表側はダイヤの色に合わせてシルバーだが、裏側にはゴールドを貼り合わせ、ブローチピンもゴールドの上質な作り。何よりもクリアなダイヤが美しく、その流れるような曲線のフォルムが気に入ってしまったのだ。そして何より、ダイヤを沢山使ったジュエリーにもかかわらず、納得のいくお値段。「やっぱりいただきます!」と今日は昨日とは一転、さっさと決断する。

 そんな帰り際、マダムが「そういえばこんなのもあるのよ。」と引き出しからもうひとつのダイヤモンドジュエリーを出してきた。こちらは同じダイヤでもプラチナ台。けっして大きなサイズではないが、冷たく光るプラチナとダイヤの組合せのとても存在感のあるジュエリーだ。「えっ!こっちも素敵…。」と思ったものの、たった今ダイヤのジュエリーをなんとか一つ手に入れたばかりの私は、さらにもうひとつチョイスする勇気がなく、マダムによくお礼を言って立ち去った。

 そこから遠く離れた生地やパーツを扱う昨日訪れたディーラーへと、凄い勢いでトコトコ歩く。昨日リクエストしたアイテムを、たぶん今日出しておいてくれているはず。今日もいくつものディーラーを回るため、とにかく出来るだけ早足で!
 「はい!はい!今日も来ましたよ!」とばかりに挨拶し、マダムが山のように出しておいてくれた生地をチェック。そう、今日はシルク生地のチェックに来たのだ。ただ、見るもの見るもの、どうもいまひとつ。目的のお人形の衣装や手芸にピンとくる生地が皆無。今日も時間を掛けて生地の山をチェックしたが、結局その中から仕入れることが出来たのはシルク生地2点とシルクリボン1点。あぁ、なんと効率の悪いこと!でもやはり自分の目で見て、自分の手で触ってみないと選ぶことは出来ないので仕方が無いのかも…。

 またトコトコ戻ってきて、今度は膨大な生地に埋もれたムッシュウのところへ。小柄ででっぷり、でも優しくて朗らかなムッシュウは、いつもオペラを歌いながらお仕事。いつも私の「あれ取って!」とか「これ見せて!」というお願いを気分良く聞いてくれる。勝手知った場所、まずは挨拶し、後は好き勝手に生地を引っ張り出していく。沢山積んである生地の重みで欲しいもアイテムが取り出せないと、「ムッシュウ〜!」と呼んで、二人で力を合わせて引っ張り出す。どうもここでは必ず、ムッシュウとの共同作業なのだ。(笑)今回、思いがけなく見つけることが出来た生地は何点か。シルク生地を探しに来たのに、好みのコットン生地まで出てきて、そちらも一緒にいただくことに。

 朝から何軒かディーラーをハシゴし、昨日保留したアイテムを見て回り、私なりにそれぞれの決着をつけた後、どうしても気になって、また朝一番に訪れたジュエラーのマダムのところへ戻ってきてしまった。先程ローズカットダイヤのゴージャスなジュエリーを手に入れたばかりなのに、最後に見せられたプラチナ台のダイヤモンドジュエリーが気になって気になって仕方が無くなってしまったのだ。戻ってきた私の姿を見て、「あら、また来ちゃったの?」とでも言うように、マダムは不敵な笑みを浮かべている。先程のプラチナ台のジュエリーをもう一度出して貰い、またまたチェック。覗いたルーペの向こうには今までに見たことのないほど細かなミルグレインが隅々まで細工されている。もちろんミックスされたブリリアントカットダイヤとローズカットダイヤも綺麗。思わず決断!「やっぱりこれも。」と言う私にマダムは不敵な笑みではなくて、「ね。いいでしょう?」とでも言うようににっこり微笑みかけた。

 お昼も食べずにディーラーを回り、気付いたら夕方。大急ぎで最後のアポイントメント先へ。ここが何しろ一番大変!膨大なアンティークの素材の海の中にイカダで出るような感じとでも言ったらいいのか。ほぼ倉庫と言ってもよい広さの中から欲しい物を見つけ出すのは、毎度の事ながら強い意志というか決意をが必要。(笑)なんと言っても、この広大なアンティークの海の中で、オーナーのマダムに「こういう物ありますか?」と聞いても、アシスタントのマダムやムッシュウに同じように聞いても、帰ってくるのは「さあ、どこかしら?」という返事ばかり。ようはすべて自分で探し出さなければならないと言うこと。ただひたすら一点一点調べて探し出すしかないのだ。嗚呼、気の遠くなるような作業が今日も待っている。

 荷物とコートを預かって貰い、買い物カゴを持たされ、いざ出陣!ここは潰れた工場の倉庫ごと買付けてくるというスケールの大きいマダム。アンティーク業界に多いユダヤ人のディーラーの中でも指折りのやり手で、とにかく働き者なのだ。ずらりとパッケージされて並んだ生地見本やリボン見本、その他の素材見本。アンティークディーラーに珍しくすべてシステマチックに整理されているが、あまりにも数が膨大すぎて、誰もどこに何があるのかきちんと把握している人はいない。何しろ在庫の数は多いが、私が求める19世紀の素材はごく僅か。以前いただいたベルベット生地を思い出し、マダムに聞くのだが、案の定その生地の事自体をまったく覚えていない。
 とにかくひとりでアンティークの海と格闘すること1時間以上、その中から選び出したのは19世紀の美しい織柄の生地とモアレ生地、リボン、そしてお人形の衣装に使う羽根。たった4点だが、ずっと探していたアンティークらしいシルク生地が見つかったからまぁ、良しとしよう!

 そして、今日の最後。「アンティークの問屋」というべきディーラーへ。こちらも倉庫に眠っている何トンものデッドストックを買付けるというダイナミックなディーラー。ただ、私が欲しいのは何トンものアイテムではなく、この世にたったひとつの19世紀のアイテム。ここの大半は1930年代〜50年代、もしくはそれ以降のアイテムで、よく日本の有名セレクトショップのバイヤーがそういう物をごっそり仕入れているところに出くわすことも多い。(「金に糸目はつけず」という感じで大量に仕入れていて、ちょっぴり羨ましく思うことも…。)嗚呼、またここでも時間が…。
 結局ここでも時間を取られ、仕事が終った後、今日も色葉さんとお約束していたにもかかわらず、彼女を待たせることになってしまった。

 すべての仕事を終え、空腹も通り過ぎ、ただただヘトヘトなヌケガラになった私は色葉さんと待ち合わせ場所で再会。約束をした時点では、「じゃ、仕事が終ったらシャンゼリゼでも行ってみましょう!」なんてお気楽に調子良く言っていたのに、顔を合わせた途端、疲労から「シャンゼリゼは無理〜!」と私。まずは待ち合わせ場所近くのキャフェで、それぞれワインとビールを飲みつつ、ひとつのフルーツタルトをつつき合うという妙な組合わせでひと息入れた。

 すっかり日が暮れた後、「一人で食事するのが嫌い!」という色葉さんと今日も連れだって私の宿の近所オデオンへ。(彼女のご近所に行くと言っても、「馴染みのお店がないから。」と言って、今日もわざわざ左岸まで来てくれたのだ。)本日のディナーは私の行きつけの中華。ずっとフランスの物ばかりを食べ続けた後のここのスープ・ド・ラヴィオリ(ヌードル入りのワンタンスープ)は最高!中華のスープなのだが、「お出汁」が身体に染みいるようだ。硬いフランスパン(それはそれで美味しいのだが)や、チーズやバターばかりを食べていた後、米粉で出来たヌードルの優しい美味しさにほっとする。今日も疲れも忘れて、ご飯を食べながら長いおしゃべり。
 普段は愛知県と東京に離れて住んでいる私達。連日一緒にご飯を食べるなんて、すぐ近所に住んでいるような気がして楽しい!今日もすっかり遅くまで彼女をオデオンに引き留めてしまった。

■11月某日 曇り
今日は買付け最終日。午後7時過ぎのフライトのため、午後4時のタクシーの予約をする。レセプションのムッシュウに「15分前には戻ってきてね。」と念を押され、荷物を預けて外へ出た。

 最終日の今日は高級品ばかりを扱うディーラーが出店している16区のサロンへ。私の滞在している6区から16区までは遠い。通常、用事がなければわざわざ出掛けない距離なのだが、今日はバスとメトロを乗り継いで。目的の駅はメトロのエトワール、つまり凱旋門。凱旋門やコンコルド広場などパリによくある大きなランドマークの駅の場合、出口を間違えると大変なことに!凱旋門の地下をさまよったり、広大な広場を苦労して横切ったり、大変な目に遭うため注意が必要。しっかり駅の案内板で目的の通り名を調べ、一番近い出口から外に出た。今日も外はキーンとするような寒さ。沢山着込んで早足で歩く。

 目的地の該当番地にたどり着くも、そこはホテル。「あれ?そんなはずはないんだけどな。」と思いながら、ホテルのドアマンに尋ねると、「あなたが行きたいのはFoch通り、ここはHoche通りですよ。」とにっこり。言葉には出さないけれど、「げっ!!」と思ってしまった私。この二つのよく似た綴りの通りは凱旋門を隔ててほぼ対角線上に位置している。Foch通りに向かうはずだったのに、"Hoche"の綴りを見て、「うん!こっちだ!」と勘違いしてしまったのだ。そこからまたトコトコ歩き、凱旋門の地下を横切り、優に1キロ以上歩いたと思う。

 Foch通りといえば、何年か前に亡くなったお客様のことを思い出す。在仏30年以上、「日本語もフランス語もほぼ同じに話せる。」と言い、日本とフランスを行き来する彼女が住んでいたのが、「使用人がいない家は無い」と言われるパリ屈指のお金持ち街のFoch通り。そんな彼女が日本で住んでいたのは帝国ホテル。「超セレブ」とでも言えば分かり易いかもしれない。超お金持ちの彼女が私から何かを購入することはほとんどなかったのだが、フランスのアンティークフェアでも、日本のアンティークフェアでも、会えば愛想良くお話しし、親分肌で、「私の月々のお小遣いは○百万円だから。」と豪語するのも彼女だから許される稀有な存在だった。

 いつもファッショナブルで、いつだったかアンティークのサロンのノクターン(夜会)で出会うと、フランスマダムを越えるゴージャスさ。「今日も素敵なお召し物ですね。」と私達が声を掛けると、「この帽子はガリアーニで、こっちはディオールのオートクチュール。ガリアーニも友達なのよ!」と気さくに答え、「ここのサロンで何か欲しい物があったら、私が交渉してあげるよ。ここのディーラーはみんな私の友達だから。」とご機嫌だった。彼女のお世話になることは無かったが、スケールの大きなマダムだった。そんな彼女があっけなくご病気で亡くなられてもう何年も経つ。

 彼女のことを懐かしく思い出しながらFoche通りを歩くと、目的のサロンの建物がようやく見えてきた。「なるほど。お金持ちがお客様のサロンはお客様のご近所で開催するのね。」と思いながら歩く。あらかじめ入場するチケットを入手してきたので(こうしたサロンは入場料も結構高い。)、ガードマンのムッシュウに挨拶し、すんなり入場することが出来た。
 流石サロンだけあって、美しい物、綺麗な物、いかにも高価な物がいっぱい!!「買える」「買えない」はともかく、やっぱり来て良かった。美しい色合い、細工のエナメル、ガラス、ジュエリーに、「あぁ、こういう物が見たかったのよ!」と心の中で叫ぶ。たいていはフランスの室内装飾に使う物ばかりなので、日本の住宅事情に合わなかったり、ジュエリーも日本人には大き過ぎる物ばかりなのだが、ここでは「使う」というよりも、「美術品」という目で見てしまう。

 そんな中、度々サロンで出会うディーラーのマダムと再会。とても貫禄のあるマダムのブースは、そのセンスと財力で私の知る範囲の最高に美しい物で埋め尽くされている。いつも彼女のブースを眺める度、「どうやっても越えることの出来ない」どうしようもない敗北感と焦燥感にかられるのだ。今日もそんな気持ちは脇に置き、しっかり勉強させて貰った。そして何より、いつも私のことを覚えていてくれて、どんなに忙しくとも愛想良く挨拶してくれるマダムに別な意味で尊敬の念を抱いた。こうしたサロンに足を運ぶ度、「フランスの神髄」を感じ、毎度感激する。今日は縁のある物は無かったのだが、「またこうした物を見たい!」という強い思いで、この仕事を続けているのかもしれない。

まだノエルのウィンドウには少し早い左岸でしたが(シャンゼリゼなど右岸の商業地区は一足先にクリスマス仕様。)、ここラデュレはちょうど今日、ノエルのウィンドウに。ゴールドのマカロンが眩いです。(笑)


私のホテルのご近所、洗練されたファッションと香水のセレクトショップ。「いつか大人になったらお買い物がしてみたい…。」とウィンドウを覗いてから既に20年以上。お店に足を踏み入れる勇気がないまますっかり大人(おばさん?)になってしまいました。(涙)


ノエルの時期は男性だってこんなにお洒落。モーヴのジャケットもジレも色鮮やかです。いったいどんな男性が着るのでしょうね。


素朴で可愛いトナカイも左岸ならではのウィンドウディスプレイかも。商業主義一辺倒、キラキラ眩しい右岸から馴染みの左岸に戻ってくるとなんだかほっとします。


***今回も長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。***