〜後 編〜

■9月某日 晴れ
 今日のフェアは午前8時から。起きるとともにすぐに身支度し出掛ける準備。今回は3階のダイニングルームから遠い部屋をあてがわれたため、朝食を食べた後すぐに出掛けられるよう、スーツケースと共にダイニングルームへ。いつものように、ホテルのマスコット猫にチーズやヨーグルトをねだられながら朝食を食べ(彼女はいつも朝食を食べる私の側までやって来て、じっと私の眼を訴えるように見上げて必ず何かをgetするのだ。)、そのままレセプションにスーツケースを預けてチェックアウト。近くのバス停からバスに乗って開場へ行く。そもそもなぜ今回こちらに泊まることになったかといえば、今まで午前8時半だったオープン時間が午前8時に早まったため。パリから列車に乗ってやって来ていては、いくら一番列車に乗り、駅からタクシーを駆使したとしても間に合わないからだ。
 いつものように会場に着くと、既に沢山の人でごった返している。昨日一緒に食事をしたK嬢を探し出し、皆でおしゃべりしながら開場を待つ。話しているうちに、帰りの列車の予約が同じ時間だということが判明。開場と共に「じゃ、また後で駅でね。」と言いながら別れた。

 このフェアでは、まず何はともわれレースを扱っているマダムの所へ。まだ準備中のマダムに、挨拶もそこそこ「マリアージュのハンカチは?シルクのリボンは?シルク生地はない?」と矢継ぎ早に質問。一応、それらしいものを出してはくれたのだが、今回満足のいくハンカチは皆無。マダムはリボンも生地も無いと言う。そうそうにマダムのことを離れ、次々にブースを回るのだが、今回に限りなかなか気に入った物に出会えない。

 いつもソーイング小物を持っているムッシュウの所からシルバーのかぎ針が。よく見るとイギリスの刻印。イギリスからやって来たものだ。イギリスでフランスの物を買付けることは頻繁にあるのだが、その逆は珍しいこと。デコラティヴな装飾が気に入りいただくことに。

 気に入った物に出会えないと気持ちも焦ってくる。そんな中、ベルベットのボックスや小さなパニエなど繊細な雑貨ばかりを持つマダムとムッシュウのブースにやって来た。フランスの状態の良い雑貨は本当に少ないもの。そこには珍しく私好みのアイテムばかりが並んでいる。「あれと、これと。それからこれも…。」眼を光らせながら、次々欲しい物を手にしていく私。そんな様子をマダムとムッシュウはにこやかに見ている。特に赤いベルベットのソーイングボックスは、今までに見たことのない不思議な形。マダムは「これはナポレオンの帽子の形よ。珍しいのよ。」と教えてくれる。アイボリーのシルクのポシェットは、小さなお花が沢山付いていて繊細な雰囲気。ハンドルのタッセルにはシルクだけでなくビーズも付けられている。状態もまずまず。他にも様々な雑貨を得て本日はここでの仕入れが大半を占める結果に。とにかくわざわざはるばるノルマンディーまで来た甲斐があって良かった。

 「何か良い物は無いか!?」と血眼になって探し歩いていたとき、私に挨拶をしながら近づいてくる女性が。「えっと誰だっけ?」と思い出す前に、私の顔に頬を寄せビズーを強要。「あ、そうそう。いつもパリで布やお花を譲って貰うマダムだった。でも、ビズーをするほど親しかったかしら…?」ほんの短い間に頭の中をそんな考えが駆け巡るが、「ま、いいか。」と私もマダムに合わせて両頬に「チュッ!」と音をたてる。(ビズーはキスでなく「音」だけです!念のため。)「で、ここのフェアはどう?」とマダム。「う〜ん。難しいわ。」と私。「ほんと、最近は物が無いし、高いし…。」とぼやくマダム。週末にマダムの所へ立ち寄ることを約束して別れた。

 昼近く、そろそろ潮時が近づいてきた。何周も歩き回った会場を後にし、バスに乗って荷物を取りにホテルへ再び。ホテルで預けたスーツケースを受取り、今度はゴロゴロしながら歩いて駅へ。「そうそう、K嬢も同じ列車だった。」と彼女が駅へ着いても絶対会えるように、入口近くのキャフェでひと休み。昼食のバゲットサンドとワインを注文していると、私と同じ考えのK嬢もキャフェへやって来た。そこに私達のアンティーク業界の先輩K氏もやって来てお昼を食べながら三人でおしゃべり。皆日本語に飢えていることと、疲れていることとで、話が弾む弾む!
 私達の次の列車を予約しているK氏とはそこで別れ、列車に乗ってパリへ。

 再びパリ・サン・ラザール駅まで列車の中でK嬢としゃべり倒し、二人ともフリーな明日のランチの約束をして別れた。

 ホテルのご近所の花屋さんは類い希なセンスでいつも素敵なディスプレイ。ウィンドウの前を通る度、癒されます。


 こんなデリケートな色あいのお花ですが、お花を飾っている店主は一見強面のムッシュウ。でも彼のお花のセレクトは本当にいつも素敵!

■9月某日 晴れ
 今日は特にアポイントもフェアもない、ほぼフリーの一日。K嬢とランチを約束したものの、ディーラーから「良い物が入ったから来て!」と急遽連絡が入り、朝から出掛ける。

 出てきたのはベルベットのジュエリーボックス。毛足もたっぷりの状態の良さ、何より淡いラベンダー色が魅力的、鍵も付いているし、内側のシルクのクッションも綺麗。こういう状態の良いジュエリーボックスは昨今見つけるのが本当に大変。「お値段高いけどどうかしら?」というディーラーの控えめな言葉が言い終わらないうちに、「いただきます!いただきます!」と叫んでいた。いくら高くとも有る物は仕入れることが出来るが、無い物は仕入れることが出来ない。わざわざ連絡まで貰って、こんなチャンスはまたとない。本当に有り難く、感謝の気持ちでいただいた。

 気付くとK嬢と待ち合わせた時間まであと僅か。このままメトロやバスに乗っていては間に合いそうにない。大急ぎで大通りに走り、タクシー乗り場へ。(パリには流しのタクシーというのはほぼ無い。タクシーに乗りたければ大通りのタクシー乗り場に向うか、電話で予約が必須なのだ。)が、いくら待っても時間が経つだけでちっともタクシーは来ない。「このままじゃムリ!」とダメもとで通りに出て走ってくるタクシーに合図を送る。タクシーが走るのは専用のバスレーンのため、タイミングを計ってタクシーを止めないと、後ろから来たタクシーやバスにクラクションを鳴らされて大騒ぎになるため、焦りつつも慎重に。運良く気の良いドライバーのタクシーを駐めることが出来た。「ボン・マルシェまで行って!」と告げ、K嬢には「先にレストランに入っていて!」と携帯からメールを送る。

 今日のランチはボン・マルシェのエピスリー(食品館)の上にあるイタリアンレストラン。実はここ、以前行きつけにしていた近所のイタリアンレストランCASA BINIのセカンドライン。CASA BINIは間違いなく美味しいのだが、間違いなくお値段も高いため、このところご無沙汰だったのだ。先日ボン・マルシェに来た折にCASA VINIと経営が同じことが分かり、K嬢を「絶対美味しいから!」と説得し、今日はここでランチをすることになったのだ。ボン・マルシェの前でタクシーを降りると、K嬢はエピスリーの入口で待っていてくれた。12時過ぎ、二人で広いお店に入るとまだ人はまばら。広いテラスの気持ちの良い戸外のテーブルに落ち着いた。

 そこから二人で盛大な飲み会が!お昼からスプマンテのボトルを開け、それでも足りない私達は赤ワインのカラフェを追加。美味しいには美味しかったのだが、広い店内は大盛況でサービスのムッシュウはてんてこ舞い。そこはセカンドラインなので、「きめ細かなサービス」とはいかず、フランス語もさほど堪能でないオリエンタルの女二人は何かと後回しにされがち。気軽にランチを取るには良いけど、ゆっくりお食事をするのだったら、やっぱりCASA BINI本店に行くのが良いかな。

 ゆっくり食事をした後は、バッグ好きなK嬢と一緒にボン・マルシェのバッグ売り場を冷やかす。普段ひたすら河村と一緒で、単独行動はもちろん、お友達と一緒に買い物に行ったことなどない私は、女二人デパートをそぞろ歩くのが楽しくて仕方ない。でも、楽しい時間はあっという間に終わり。すぐにそれぞれの仕入れ先に向ってバスに乗った。

 まずは先日訪れたパリ市内のアンティークショップが集まるヴィラージュへ。先日、行ってみたもののまだバカンス中で留守だったマダム。今日もバスに乗り、トコトコ歩いて出掛けるもまだクローズ。まだしばらくバカンス中で南フランスにでもいるのかもしれない。仕方なくまたバスに乗り次の場所へ。

 こちらはかつて高級なショップが集まっていたアンティークモール。以前は、お金持ちそうな人々がそぞろ歩く美しい物でいっぱいの憧れのモールだったのだが、モールの経営の都合で、最近はどんどん店舗が出てしまい淋しい有り様。ここしばらく足を運んでいなかったのだが、「怖いもの見たさ(?)」で行ってみたのだ。
 想像したとおり、いや想像以上に、夕方近くのアンティークモールは誰もいない。以前はグランドフロアーと地下一階の2フロアーにぎっしり入っていた店舗も、今ではもう数えるほど。歯が抜けたようで閑散としている。もちろん買う物もなく、淋しい気持ちのままホテルに戻った。世界中が不景気の昨今、あの煌びやかだった空間が蘇ってくることはもうない。そんなことを確信出来るほどの淋しい風景だった。

 シルバーグレイのレースに淡いピンクのシルク。フランスの下着って本当に綺麗!女心をそそります。(笑)


 「ピアノの自宅レッスンいたします。」ご興味のある方はこちらの電話番号まで。こういう原始的な紙のお知らせ、パリでは結構見かけます。興味のある人はビリッと破いて持っていくシステムです。


 子供服のNATALYって日本にもあるのかしら?マトリョーシカのウィンドウディスプレイが可愛い!こういう色合いって大好きです。


 このヘンテコな人形は近所の本屋さんのディスプレイ。「キモ可愛い」とでもいいましょうか、不気味なのに何だか気になってしまう存在です。


 近所のサン・シェルピス広場の噴水。グレイの街並みと合うこの空の色がパリの色なんですよね〜。

■9月某日 晴れ
 買付けも終盤になってきた。今日は一日仕事、数々のディーラーとのアポイントメントもある。まだ薄暗いうちから起き始め、さっさと身支度をする。部屋で朝ごはんを食べ、暖かい格好で外に出てバスに乗る。

 まず最初に訪れた先はアポイントを入れていたディーラーの彼女。会うやいなやまずはギュッと顔を寄せて両頬にビズー。「あれ?ムッシュウは?」という彼女に「彼は東京で仕事よ。」と簡単に返事をする。夏でもバカンスへ行かずに仕事をするという彼女、私の知っているフランス人の中でも一番目か二番目に働き者。今日も「ハイ!マサコの箱。」と大きな箱を出してきてくれた。

 ガサゴソ箱の中の物を取りだし、ひとつひとつチェック。彼女が夏の間一生懸命働いてくれたお陰で、素敵な物が沢山出てきた。ふんわりしたお花のリース、ウエディング用のブーケ、綺麗なグリーンのベルベットのジュエリーボックス、赤ちゃんの絵柄が可愛いチョコレートボックス、すずらんのソープボックス。いつも「欲しい!」と思っているような物ばかりが出てきてドキドキ、テンションが上がる!特にウエディング用のブーケは状態も非常に良く、「これはマサコにって思ってたのよ!」と彼女が言うとおり、私の好みにぴったり。出てきた物達を「誰にも渡さん!!」とばかりに彼女が手渡してくれた別な箱に入れていく、そして中の物を他の誰かが触ったりしないか、横取りされたりしないか、時折目配りも忘れない。こんなにも素敵な雑貨ばかり出てくることは本当に稀なこと。彼女にはただただ感謝。別れるときにも感謝を込めてギュッと抱きしめてお別れする。

 次のマダムは、一昨日ノルマンディーのフェアで会ったばかり。「待ってました!」とばかり、私を招き入れ、一昨日同様、またマダムにされるがままにビズー。午後に会う予定のレースを扱う年配のマダムもそうなのだが、お互いの言語もはっきり解することもなく、日本人の友人達よりも様々な意味で距離感があるはずのフランス人なのに、抱きしめ合ったり、ビズーをしたり、そういう習慣のお陰か身体的な距離感はもの凄く近く、付き合ってきた年数も長いためか、「何だか良く分かってないけど、とっても仲良し!」という不思議な関係だ。いやいや、ここでこうして仲良くなったのも浮き世の縁、もっとフランス語を勉強しなくては。
 マダムの所で出てきたのはお人形に使えそうな可愛い小花のデッドストック。おまけにそういったお花を入れて飾るとぴったりなシルクで出来たブルーとピンクのパニエ2つ。その場でお花を入れてみると周りにいた人々が羨ましげに見ているのが分かる。マダムと一緒に「う〜ん、トレ・ミニヨンヌ!(とっても可愛)い!)」などと肯き合う。今日はパニエふたつとお花をいくつか。デッドストックで状態が良いのも嬉しい!

 午前中、最後に会ったマダムは布やレース、リボンなどソーイング物ばかりを扱っている。沢山の在庫を持っているのだが、状態がいまひとつだったり、好みがいまひとつだったり、沢山の物があってもなかなか気に入った物が見つからない場所。でも、今日はバカンス明けだったせいか(アンティークディーラーは習性か、バカンスに出掛けても、バカンス先で買付けをして帰ってくるのが常。)いつもと違った珍しい物がいくつか。綺麗なシルクの織り生地やコットン生地、それにブリュッセルのサンカントネール博物館の大判カタログ何枚か。レースのカタログはたぶん20世紀に入ってからの物だと思うのだが、古いオフセット印刷。私達も何度か訪れたサンカントネール博物館、長い間クローズとなっていて、もうずっと見ることの出来ないレースのコレクションが大判で詳細に見られるのが良い。最近レースに力を入れているマダムが、「この美術館はベルギーにあって…。」と説明しようとするのを、「知ってる!知ってる!行ったことある!」と遮る。
 今日はそのカタログ何枚かとシルク生地とコットン生地を選んだ。マダムに「今度はいつ?」と尋ねられ、「年内に!」と言って握手をして別れた。

 一度ホテルに戻った後は、毎度アポイントを入れるレースを扱っている年配のマダムの元へ。またまた大げさににビズーを強要され、いつも河村をお気に入りのマダムは「ムッシュウはどうした?」とまたここでも尋ねられる。マダムともうひとりのアシスタントのマダムに「彼は東京で仕事をさせてる。」と私が答えると、ふたりとも「そうね。男はしっかり働かさないとね。」というように大きく頷く様がおかしかった。
 そんな楽しく始まった商談だったが、今回私が望むようなレースはなかなか出てこない。いつものように薄紙に包まれたレースを次々出してくれるのだが、どれも既に持っているものだったり、ミラネーズなどのあまり繊細さが感じられないレースだったり、なかなかピンと来る物が無い。マダムも意地になって「これは?」とか「あれは?」とすすめてくれるのだが、どれもいまひとつ。でも、そんな中、ひとつだけ面白いレースが。それはバンシュとヴァランシエンヌをつなげたパーツ、ヴァンシュを手に取るのは本当に久し振りだ。糸の細さと柄の細かさに感動しながら、そちらだけはチョイス。だが、それだけで帰るのをマダムは許さない。(苦笑)レースが無い以上、「リボンは?」「シルク生地は?」と矢継ぎ早に質問。結局今日は、ピンクやブルーのモアレのシルクリボンの他、ブルーのベルベット生地を入手。薄地のベルベット生地はお人形にもぴったり、ブロンドヘアにブルーアイズのお人形が似合いそうな生地だった。

 午後はもうひとり、よくお世話になっているジュエラーのマダムと。こちらもバカンス明けにもかかわらず充実の品揃え。小麦色に良く焼けていることから、どこか海辺でしっかりバカンスを取っていたことが分かる。羨ましい気持ちを抑えてガラスケースを覗く。今日はガラスケースの中にダイヤのクロスを発見。小振りながらダイヤの輝きが美しい。もうひとつはガーネットとシードパールのピアス。出して貰って、実際に耳元に当ててみると、ガーネットのなんともいえない透明感のある色合いが魅力的。ガラス越しにケースに入った物を見ているよりも、耳元に当てて見る方がずっと映えるピアスだ。「ガーネットって素敵!」とばかりに、今日はクロスと共にこのピアスを手に入れた。

 たまたま出会ったシルク生地に埋もれたマダムは初めて見る顔だ。初めて出会った割には、あまりにフレンドリーなマダムは、大きな声でひとりでしゃべりながら私の手を取り、その一方で次から次へとシルクを出して見せてくれる。このところ、美しいシルクの織地を手に入れるのにとても苦労していた私は、蜜の中に落ちた蟻のように、横でしゃべり続けるマダムを他所にシルクを物色。でもマダムは、そんな彼女の商品に夢中になっている私が嬉しいらしい。ここではお人形の衣装にぴったりな織り生地をいくつか。「また来るから!」と初めて会ったマダムなのに、お互いにビズーをしてお別れ。このフレンドリーさは元々地方出身の人なのかも。

 その後も素敵な物を探してあちらこちらを歩き回る。何かブロンズ(オルモル)素材の物が欲しくて探し回るが、いくつかピックアップしたものの、今日はまだ決定することが出来ない。ここには明日もう一度来るので、明日までゆっくり考えよう。

 今日は終日歩き回り、仕事が終ったのは夕刻。ぐったりバスに乗ってホテルへ帰宅。今晩は買付けの最後。いつもだったら河村と一緒に「打ち上げ」と称し、近所の行きつけのレストランへ繰り出すのだが、今日はスーパーでシャンパーニュのハーフボトル、近所の総菜屋で美味しいお総菜を奮発!本日のメニューは蟹のサラダ、アボガドとグレープフルーツのサラダ、モッツァレラとプチトマトのオリーブオイル和え、そして私の大好物のカボチャの種付きパヴェパン(パヴェは石畳のこと。石畳そっくりな形の全粒粉のパンにカボチャの種が練り込んである。)を調達。(私は元々メイン料理よりもチマチマした前菜が好きなのだ。)さっさとお風呂に入った後、ベッドの上で「ひとり宴会」を楽しんだ。

 ホテルの程近く、ボナパルト通りのLADUREEはよく通る場所。もちろん通ったときにはウィンドウの撮影は欠かせません!私はまだ行っていませんが、シャンゼリゼのお店は最近改装したばかりのようですよ。


 この馬車のパッケージもフランスでは通常の商品です。ディスプレイするだけでも素敵ですね。両脇の小さなマカロンタワーも可愛い。


 中央はフランボワースのマカロンタワーでしょうか。手前の花模様のパッケージも可愛い!中身はともかく、ついついボックスだけでも欲しくなってしまいます。

■9月某日 晴れ
 買付けも今日でおしまい。最終日の今日はしっかり荷作りした荷物をレセプションに預け、最後の買付けへ。今日は午後8時過ぎのフライトのため、夕方には戻ってきて空港へ向わなければならない。フライトの時間からチェックインの時間、空港までの時間を逆算し、昨日のうちにタクシーの予約はしてある。今日は、昨日迷っていた物をもう一度見たり、最後にアポイントを取っておいたディーラーの元へ立ち寄る予定だ。

 まず最初に見つけたのはマザーオブパールの繊細な透かし細工のボタン。小さなテーブルにボタンばかりを並べている女性は初めて見るディーラー。特に期待もせずに眺めたのだが、その中にひとつだけ気になるボタンが。まるでアクセサリーのような繊細な透かし彫り、マザーオブパールの素材感も美しい。数ある中から、その一番良いボタンを選んだ。

 フランスといえば、伝統的にカーテンなどに付けるインテリア用のブレードやタッセルなどのパスマントリーに美しい物がある。21世紀の現代でもそういった専門店では、日本では見たこともないような手の込んだタッセルを見つけることが出来る。しかし、今日見つけたのは現行品ではなく、もちろん古い物。こっくりしたピンクとアイボリーの糸で複雑に編まれた凝ったタッセルとブレード。扱っていたマダムから「これはセットで使われていた物よ。」と一言。セットでも、そうでなくても、それぞれに使えそうなアイテムだ。タッセルのペアも、実際に窓辺で使わなくとも、お店の壁に掛けておいても素敵そう。取りあえずセットで入手。

 昨日も探したブロンズ製のアイテム。あちらこちらで数々見たものの、「やっぱりこれ!」と私が選んだ物はふたりのエンジェルが飛ぶ小さめな丸いフレーム。エンジンターンの細工も繊細で、今回見た物の中で一番美しかったのだ。持ち主の年配のマダムに正直にそう伝えると「そうでしょ!そうでしょ!エンジェルだしこういう細工は珍しいし。」と満足気。高価なフレームゆえ、他にもいくつかフレームも出して貰って、マダムと「ああでもない。」「こうでもない。」とじっくり商談。たったフレームひとつのことなのに、やっとこれに決定したときには、ぐったり疲れていた。

 そしてアポイントを入れていたコスチュームと素材系のディーラーへ。ここは、夏の間はバカンスに行きつつ仕入れもしてくるため、「バカンスはいつもより余計に疲れる。」と言うフランスには珍しい働き者ファミリー。ここでも「ムッシュウは?」と皆に聞かれた後、様々な物を物色。
 今日もまず目に付いたのは南仏でよく見る19世紀のプリント生地。すぐさま「バカンスに南仏に行ったのでしょ?」と尋ねると「そうなのよ。」と笑顔のマダム。彼女のこの夏の戦利品の中から、まずは丸い形のカルトナージュをチョイス。それは普通の丸いソーイングボックスではなく、チョコレートボックスになった珍しいカルトナージュ。他にもロココやお花など、いつも探している素材をみつけ、そちらもキープ。それから荷物を預かって貰って、彼女の膨大な在庫を1点1点チェック。なにしろたぶん「フランス一」在庫を持っているファミリーのため、それをチェックしていくのは半日仕事。だんだん手が埃でカサカサ真っ黒になっていくが、そんなことも言っていられない。最後にもうひとつ、私が大好きなほぐし織りの広巾リボン、しかも大きな薔薇模様のアイテムをみつけ、「もうこれで良し!」と気も済んだ。

 早朝から午後まで食事もせず物を探し続け、結局ホテルの側に戻ってきたのは午後3時過ぎ。いつものキャフェで最後の晩餐ならぬ最後の昼餐。コート・デュ・ローヌの赤と最近のお気に入りローストビーフのサンドウィッチを注文すると、顔馴染みのギャルソンがあれこれ世話を焼いてくれる。タクシーの来る時間までゆっくり最後の食事、ワインとサンドウィッチの後はデザートに“Mystere(ミステリーの意)”と呼ばれるアイスクリームまでしっかり完食。“Mystere”は外側をナッツクランチなどで包み、食べるまで中身が何か分からないアイスクリーム(中にメレンゲが入っていることも。)、普段キャフェでデザートまで食べることはまずないのだが、ワインでほろ酔い気分のまますっかり食べてしまった。
 どうも河村のいない今回の買付けは、いつも以上に食べ物に執着したような気が…。でもやはりひとりの買付けよりもふたりの買付けの方がずっと過ごしやすい。(普段ふたりでやっていることをひとりでするのは結構タイヘン!)次回はまたいつも通りふたりで訪れたい。

 買付けの最後はローストビーフのサンドウィッチとコート・デュ・ローヌの赤で〆。最後の昼餐はのんびりゆったりデザートまでしっかりいただきました。


***今回も長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。***