〜2006年11月編〜

■11月某日 曇り
 いよいよ買付けのはじまり、はじまり。私達にとってはいつもの買付けと何ら変わり無い今回の買付けだが、祭日の今日、空港は沢山の人でごった返している。「そうか、今日って祭日だったんだ。」と日ごろ祝日と縁の無い私達。特に今回は、スケジュールの都合から一週間ですべての仕事をこなさなければならないためややブルー。「今から海外旅行に行って来ます!」という楽しげで浮き足だった人達が羨ましい。誰にともなく河村に「買付けじゃない海外旅行がしてみたい・・・。」と呟いてみる。もしそんな機会があったらどこへ行こう?やっぱり南の島へリゾート?(実は今までそういう旅は一度もしたことがない。涙)ロンドンからウィーンへ飛んで、アール・デコとオペラの旅なんているのもいいな。イタリアでルネッサンス絵画を巡るの旅というのもいいかな。見果てぬ夢は果てしなく広がるのだった。

 

ロンドンの街に木枯らしが吹き始めた11月。ロンドンバスの赤い色が鉛色の空や暗い街並みに鮮やかな対比を見せる。

■11月某日 小雨
 今回は最初にロンドンで買付けをし、二日後にはパリへ移動しなければならない。今日は早朝からマーケットへ出掛け、その後シードパールなどのジュエリーのパーツを仕入れに、そしてロンドンで主だった仕入れ先を周り、と大忙し。朝6時前から出掛けたマーケットでは惨敗、そのまま日本では手に入らないシードパールや9Kのパーツの数々を仕入れに問屋街へ。

 いつも何かとお世話になっているソーイング物を専門に扱うディーラー、ディーラー本人はそろそろリタイヤが近づいたせいか最近ホリディに行っていることが多い。今回も残念ながら留守で本人には会えなかったのだが、最近は私達と同世代(?)と思われる彼女の娘が手伝い始めていて、この日留守を預かっていたのも彼女だった。このまま娘が仕事を引き継いでくれること、それが私達の望みなのだが、どうなることやら…。イギリスのアンティークディーラー達、意外にもみんなリタイヤを心待ちにしていて、そのときが来ると、仕事に未練なくさっさと辞めてホリディ三昧の日々を送るディーラーも少なくない。どうか彼女が仕事を辞めませんように。
 そんなディーラーの元から今日は久しぶりに出物があった。久しぶりに見た完品のアイボリーのボックスに入ったセット、しかもお道具はすべてゴールド製だ。アイボリーのふたに刻まれたモノグラムも私の好み。美しい品だけにお値段ももちろん張るのだが、「この機会を逃したら、今度いつ会えるか分からない!」と河村と目と目を合わせて肯く。今日はこの他にも花かご柄のレースのファンをGet。美しい物との出会い、それだけを楽しみにはるばる遠く極東の国から来ているような気がする。


ロンドンのクリスマスショップもすっかりスタンバイ!どのデパートにも必ずクリスマス用品のフロアが設営されるこの季節、華やかなクリスマスデコレーションに思わず足を止めてしまう。

11月某日大雨
 今日は大量に仕入れをしなければならない大勝負の日。この日、夕方にはロンドンを去ってユーロスターでパリに向かうのだ。たった二日間でどれだけイギリスで買付けが出来るかが、今回のカギでもあるのだ。重圧を背負った気分の私達に、ヨーロッパでは滅多に無い土砂振りの天気が追い討ちをかける。 思ったほど寒くはないロンドンだが、こんな土砂振りのお天気も珍しい。お天気にめげることなく、今日も午前6時から仕事が始まる。
 その昔、まだアンティークの仕事を始めたばかりの頃のこと、買付け前になると、イギリスのフェアへ行っても、何もアンティークが並んでいない夢をよく見てうなされたものだった。流石に今ではそんなことはないが、こんな限られた日程の買付けの折には、プレッシャーからかふとそんなことを思い出す。

 今日はジュエリーに期待を掛けて買付けに周るのだが、どうも思ったものと出会うことが出来ない。そんな中でも細工の美しいゴールドのジュエリーや私のお得意でもあるロケット、愛らしいどんぐりのピアスやクローバーのエナメル等など。また、顔馴染みのシルバーを扱うディーラーのところからソーイング用のシルバーのはさみが出てきて嬉しい!いつも美しいシルバー製品を譲ってくれる彼。今度奥さんと一緒に日本へホリディに出掛けるらしい。その日程を聞いてびっくり!なんと三週間もの間、日本のあちこちを巡るらしい。本当にヨーロッパの人達の言うところの「ホリディ」は長い。彼もそろそろリタイヤを考えているのだろうか?今度会う時には日本での滞在の感想を聞いてみたい。

 今回はいくつか欲しいと思っていたベビードレスは、シルクのものや、エイシャーワークと呼ばれる刺繍もの、ヴィクトリアンの豪華な洗礼服をGet。今までも数えきれないほどベビードレスを扱ってきた私だが、本当に昔のベビードレスは手が込んでいる。そして、それを実際に身に着けた赤ちゃんも、愛情を持ってドレスを用意した母親も、今はお墓の中にいるに違いない。でも、「美しいものはいつまでもいつまでも大切にされるのだなぁ。」と心に呟いてみる。

 そして、最後に大切なビジネスパートナー、レースディーラーの元へ。事前に連絡をしていたものの、膨大なレースを前に気が焦る。深呼吸しながら一つ一つのレースをチェックしていく。いずれも以前に目にしたものが大半だが、前回の買付けの際と同様、亡くなったレースコレクターの元から入ったと察するものを発見。その中からいくつか選んでみたものの、あまりの高度で緻密なレースに頭がクラクラして考えがまとまらない。いくつもの候補の中から最終的に選んだもの、それは何かというと…1700年代のベルギーレースと1600年代のフランスレース、とだけ言っておこう。乞うご期待!

 二日間だけだが極度に密度の濃いイギリスでの買付けを無事終了し、ユーロスターで河村ともども爆睡しながら1時間時差のあるパリへ向かった。(体が疲れている時は、たった1時間の時差でも辛く感じるのだ。)今回はあまりにも短いイギリス滞在で、買付け以外どこにも行くことが出来なかったが、次回は是非地方のフェアへもレンタカーで足を伸ばし、久しぶりの田舎を味わったり、イギリスを満喫したいと思う。

11月某日晴れ
 昨日の土砂振りが嘘のように快晴。この時期のヨーロッパでは大雨も珍しければ、今日のような快晴も珍しいもの。今日も朝早くから仕事に出掛ける。今日もまた仕入れのハシゴが待っている。まずはこの業界では数少ないまだ若いディーラーの元へ。「女の子」と言って良いほどまだ可愛い雰囲気を持つ彼女、扱うものもツボを押さえた可愛らしいものが多い。私の好きなソーイング用のバスケットや小物もさりげなく彼女が持っている事が多い。今回も探していたソーイングバスケットを発見したのだが、内側のシルクが破れて綿がはみ出している。「う〜ん、この状態じゃあねぇ。」と唸っていると、「これはあんまり状態が良くないから…。また探しておくわね。」と彼女から一言。次回に期待するとしよう。
 今回、このような籠ものになかなか巡り会うことが出来ない。独り言のように「プチパニエ、プチパニエ。(小さなバスケットの意。)」と呟く私に、河村が"パニエ雅子"と命名したほど。特にお人形用の小さなバスケットが欲しかったのだが、あちらこちらで「お人形用のプチパニエありますか?」と聞きまわるたび「フン。」と鼻で笑われながら「そんなものある訳無いわよ!」と冷たく言い放たれる。ひょっこり出てくることもある反面、いざ探そすとなると、状態の良いバスケットを手に入れるのは本当に至難の技なのだ。

 今日はその後、ホテルで開催されるお人形のフェアに行くことになっている。「そこへ行けば何かお人形用の小さな小物が手に入るかも?」という私の淡い期待を真っ向から裏切って、広い会場はリプロダクションのビスクドールやドールハウスのためのミニチュアが並ぶばかり。特にミニチュアの小さな小さな食べ物や帽子などの服飾品、小さくとも豪華なシャンデリアが並ぶミニチュアのフロアはすごい熱気!あまりの熱気にびっくりした河村は「洋の東西を問わずこの手のものに対する女性の熱気は一緒だね。」と一言。時間があったら、私も熱気の一員となってじっくり見たかったのだが、今日は時間が無いため、次なる場所へ。そこでもレースを扱うマダムが私達の訪れを待っているのだ。

11月の終りのパリでは、街角を飾るイルミネーションや有名なシャンゼリゼのイルミネーションはまだ点灯されていなかったものの、ウィンドウの中はすっかりクリスマス。ショコラティエのウィンドウの中は贈答用なのだろうか、甘いショコラのクリスマスリースが。


 果して、マダムのところから今回出てきたのは、アングルテールのラペット。どの種類のレースであっても、この時代のレースで、ボーダーでなく製品として出てくるのは稀なこと。質の高い良いものとの出会いは、それまでの疲れも吹き飛んでしまう。が、今回はここで目にしたリヨンのシルク織物を巡って河村と意見が対立。ベルサイユ宮殿を飾ったシルク織物は、全てリヨンで織られていたことは有名だが、今回みつけたものも壁に飾る長いタペストリー状のシルク織物。今まで扱ったことのない目新しいものだったこともあり、強行に欲しがる私に「日本の家では飾ることも出来ず、かといって生地として使うことも出来ず、用途が考えられない。」というしごく現実的でまっとうな意見のもと、断固として阻止する河村。普段、買付けの折、アンティークを巡って対立することのない私達なのだが、だんだん険悪な雰囲気に。マダムに"Attendez.(ちょっと待っててね。)"と一言断り、「どうしたものか?」と二人で喧々囂々。結局、私が折れることになったのだが、私の悲しげな顔に、マダムがフランス語で「また今度、少しずつ仕入れればいいのよ。」(たぶんこんな意味。)と慰めてくれた。またいつか是非!

 その後、まだまだ買付けは続き、ようやく仕事が終了したのは午後4時過ぎ。今日はスケジュールが立て込んでいて、買付けに没頭していたため、昼ご飯を食べる暇もなくこの時間になってしまったのだ。ようやくいつものキャフェにたどり着いたのだが、今日は早仕舞いの日。それぞれ食べ物を注文しようとしたのだが、いつも給仕をしてくれるマダムに「出来るのはサラダとキッシュとピザだけ!」と厳命され、無理矢理ピザを食べさせられることに。「え〜!ピザ〜?」と思ったのだが、このピザ、シャンピニオン(キノコ)入りで意外にも美味。ボジョレー・ヌーボーと共に美味しくいただいたのだった。オムレツもそうなのだが、フランスで食べるシャンピニオン、なかなかイケます!

「ボジョレー・ヌーボー到着!」キャフェに張られたボジョレー・ヌーボーのお知らせ。今年の夏は暑かったこともあり、なかなかの出来とか。私はこうした軽めの赤ワインも好きです。

11月某日晴れ
 買付け以来初めてのゆっくりの朝。まずはホテル近く、馴染みのキャフェでキャフェ・クレームとタルティーヌの朝ご飯。私は沢山バターの入ったクロワッサンよりもタルティーヌの方が好き。ただフランスパンを切ってバターを塗っただけのタルティーヌなのだが、どうしてこんなに美味しいのか?朝からゆっくりキャフェのテーブルで、道行く人を眺めながら、河村とおしゃべりしながらのひとときは、忙しい買付けでの貴重なほっとする時間だ。だが、今日もまだ買付けが待っている。

赤い色あいが可愛いキャフェの椅子。もうすっかり冬のたたずまいのこの季節、寒がりの私はテラス席に座ることはないけれど、寒さをものともせず(?)テラス席に陣取るフランス人を見ることも。不思議?

 今日は街に出てまず両替。ポンドに対してもユーロに対しても円安の昨今、レートを考えると頭が痛い。買付けに来るアンティークディーラーの中には、プライベートな両替商にホテルまで来て貰って、一般よりも有利なレートで買付け資金を全額両替する人もいるが、なるべく大金を持つリスクを少なくしたい私達は様々な方法で外貨を買っている。今日はいつもの両替所へ。

 無事、両替を済ますとプランタンやギャラリーラファイエットなどのデパートが並ぶアーブル・コーマルタンへちょっぴり寄り道。街はまだ本格的なクリスマスシーズンになっていないのだが、このデパート街は既にクリスマス一色。有名な複雑な動きをするマリオネットのショウウィンドウを眺め、5月に買付けの折に改装中だったプランタンの屋上のレストランへ。そう、この屋上レストランは眺めがよい上、セルフサービスとあって、時間を掛けずに食事が出来るのだ。特に何か特徴のあるメニューではないのだが、「おのぼりさん」の気分を味わうにはうってつけ。私も河村も、セーヌ河岸にあるデパート・サマリテーヌ(現在は労使交渉の決裂で閉館中)の屋上にあるキャフェと同様に、実は結構昔から気に入っていたりする。

 腹ごしらえをした午後は、他のフロアには目もくれずプランタンをさっさとあとにし、今日も買付け。まだ行かなければならないところが沢山あるのだ。そんな忙しい買付けだが、それぞれ顔馴染みのディーラーから「あら、よく来たわね!」というように“Bonjour!”とにっこり微笑みかけられると、それだけでなんだか嬉しい。

この屋上レストランは、いちめんガラス張りになっていて360度の展望を望むことが出来る。エッフェル塔を眺めながら食事が出来るなんてあまり無いと思うのだが…。でも今回は食事だけ、またゆっくりデパートで遊びたいもの。

 それはいつもの光景のはずなのに、なんだか足りない。そう、私達の最寄駅であるメトロのオデオンの駅前には銀行があり、必ずそのATMの機械のある石の段々のところに座っている物乞いのマダムがいるのだが…。物乞いとは言っても、身なりが妙にこざっぱりし、とてもホームレスには見えない。「きっとあのマダムは16区辺りから通ってきて、趣味で物乞いをしているんじゃないかな?」と河村が言うほど。確かにそんなふうに見えるほど、いつも身綺麗で、段々に座ってひがな淡々と編物などをしている。そして、バカンス時期にはどこかへ消え、また9月になるとどこからともなく現われて、段々に座っている。でも、どうしたものか今回は段々にマダムの姿は無い。いったいどこに行ってしまったのだろうか?

 また、いつも立ち寄るビュッシ通りのスーパーでは、店内改装で売り場がまるっきり変わってしまい不便なことこの上ない。経営が変わったのか、慣れた売り場が一掃され、すべての商品の場所が変わってしまったのだ。中央にあったチーズやハムを切り売りしていたお惣菜のカウンターも無くなってしまった。私の好きだった自家製のハムと卵のゼリー寄せも惣菜売り場ごと姿を消してしまった。美味しかった手作りのタラモやにんじんのサラダもどこにも無い。何よりも、いつもカウンターの中で働いていたちょっと不機嫌なマダムとムッシュウはいったいどこへ行ってしまったのだろう?10年以上前から馴染みだったこともあり、少し寂しい。

フランスのスーパーはこんな感じ。キャッツフードに印刷されている猫もなんとなくフランス顔?


アンティークのティンで有名なお菓子のメーカーLUも、ほらこの通り!現代でもずらりとLUのお菓子が並んでいます。LUとグリコとが提携して作られたフランス版ポッキー"Mikado"も有名。右上にチラリと見えているのが"Mikado"のパッケージ。

11月某日晴れ
 地方でのフェアが開催される日。ノルマンディーで開催されるフェアのため、朝6時前に起床、少し厚着をしてサン・ラザール駅へ向かう。サン・ラザール駅からは1時間半程、今までも何度か訪れたことのある街だ。フランスでは、地方への列車のダイヤが非常に少なく、ひとつ乗り過ごすと待つこと何時間、ということもけっして珍しくない。今日もチケットを買う行列(フランスでは列車のチケットを購入するのに「ここはソ連(既に崩壊してしまったが)か?」と呟きながら長蛇の列に並ばないと買えないのだ。)に並んでいる間に、あと一歩で列車を逃し、待つこと1時間半。次の列車に乗り込み、ようやく列車が目的地に到着した頃には既にサン・ラザール駅に着いてから3時間以上が経過していた。さて、そこから更にタクシーに乗ってフェアの会場へ。

 街外れの荒涼とした会場に着いたものの、今回Get出来たものは、ピアスがたったひとつのみ。ハート型が可愛いピアス、たったそれだけだが「仕入れるものがあってよかった!わざわざここまで来た甲斐があった。」とほっとする。帰りは、行きと違って急ぐ必要も無く、バスに乗って駅まで戻ることにする。実は、この街には、馴染みの紙物のディーラーがいるのと、お目当てのアンティークディーラーがいるのだ。ちょうど昼にさしかかったため、それぞれのディーラーはお昼休みの時間。最近のパリでは珍しくなってきたのだが、ここ地方ではまだまだ昼休みの習慣がある。大体昼の12時から2時か2時半まで休みをとることが多い。その間、私達も街をブラブラすることに。

 ノルマンディーのジャンヌ・ダルクゆかりのこの街の旧市街は、パリなんかよりもずっと古い街並みが興味深い。パリの現在の街並みは、ナポレオン三世の命を受けたオスマン男爵がそれまでのパリの街を大改造したのだから1800年代もおしまいあたり、100年そこそこというところだが、こちらは1700年代、1600年代はもとよりルネッサンス時代の家も珍しくない。イギリスで言うところのハーフティンバー、フランスでは「コロンバージュ」と呼ばれる木組みの梁が特徴のお伽話に出てくるような家が並んでいる。

 さて、昼休みの終わったアンティークディーラーの元からは粒の大きいダイヤのピアスが、そして紙物ディーラーの元からは可愛いボン・マルシェカードやポストカードなど。ずっと探していた子供のモードイラストレーション!可愛い絵柄の女の子の大きなクロモ。はるばるやってきて大満足の仕入れが出来た。そしておかしかったのが、50台半ばから60歳近いと思われる紙物ディーラーとその娘だと思っていた女性が「実は結婚していた!」という真実が分かったこと。外から帰ってきた彼女を指して「いやぁ〜、ワイフがパリから帰ってきた。」と嬉しそうにしている様子に、びっくりした私は思わず「え〜っ!奥さんだったの?だって彼女、とても若いじゃない!」と口走ってしまった。が、次に彼が重々しく口にした言葉がふるっていた。「Non!彼女は若くない。ワシが歳をとり過ぎているんだ!」一同爆笑。「じゃ、またパリのフェアでね。」と言いながら彼らの元をあとにした。

モネの連作でも知られるノートルダム大聖堂は、ゴシックの堂々たる建物。シャルトル、アミアンとともに北フランス三大大聖堂としても知られている。モネは、この大聖堂の向かい側にあるルネッサンス建築の窓からこの大聖堂を描いたのだとか。そのルネッサンス建築の建物は現在旅行者のためのインフォメーションになっていて、足を踏み入れることも出来る。


まるで宝石を連ねたように美しいステンドグラス。こんなにも美しいのに、残念ながら残っているのは僅か。第二次世界大戦の折、ドイツ軍の爆撃でこの大聖堂は致命的な痛手を負ったのだ。当時の惨状を写した写真を見ると言葉を失ってしまう。


17世紀からあるという時計塔。沢山の人々の行き交う繁華街をじっと見下ろしているよう。皆、古い街並みをごく自然に受け入れて、大切にしていることがとても素敵なことだと思う。


ノートルダム大聖堂の裏手にある小さな教会サン・マクロー。こちらもまたゴシックの特徴あふれる建築。ゴシック好きの私と河村は、一目見るなり「フランボワイヤン(「火炎」の意。ゴシック建築の特徴のひとつで燃え上がるような装飾のこと。)だぁ〜!」と大はしゃぎ。


14世紀から17世紀に作られたというコロンバージュ(木組み)の建物が建ち並ぶ街並み。日本式でいうところの5階建てや6階建ても珍しくない。よくぞ木造でこの高さまで建てたもの。そういえば、地震のない国だったっけ。でも、経年変化のためか、かなり傾いた家も。どの家もいまだ現役というところが凄い!

11月某日晴れ
 ただでさえ短い買付けだが、終わりが迫ってきた。明日パリを発つため、今日終日買付けると、ほぼおしまい。今日は、いつもお世話になっているレースや布製品を扱うディーラーのところへ行ったあと、これもまたお馴染みのカードを扱うディーラーの元へ。

 事前にアポイントを入れ、あれこれ散々欲しいものをリクエストしておくのが常の私、そんなわがままな私のために、毎度色々なものを探しておいてくれる彼女。今回も「お人形用のシルクを!」という私に、様々な色の生地見本だったシルク生地を探し出してくれる。ブルー、ピンク、そしてピンクのようにも紫のようにも茶系のようにも見える不思議なグレイ。どれも今では考えられないような、なんとも微妙な色合いだ。当時の女性達は、こんな色のシルクを身にまとっていたのだ。レースはもちろん、帽子に着ける小さなコサージュや美しいシルクのリボン。どれも皆、当時の女性の夢の軌跡のようだ。女性なら誰でも「可愛い。」と手にとってしまうような小さな薔薇のシルクパーツ、小さなプチポワンのコインパース、薔薇とブルーバードが可愛い。

 午後までかかって、レースや布地、ブラウスなどなどを選ぶと、4時前なのに外はもう夕方の気配。冬の時期のヨーロッパは、本当に日照時間が短いのだ。大急ぎで、カードのディーラーの元へと急ぐ。

 さて、いつもの挨拶を交わして部屋へ入ると、カードのディーラーの事務所は常に壁一面の棚の上から下まで、すべて紙製品に覆われている。いつも的確に私達の好みのカードを出してきてくれる彼、もう7〜8年のつきあいになるだろうか。今回も、「何を見る?」とも聞かずに次々と私達好みの分野の膨大なカードを手品師のようにどこからともなく出してくる。そう、まるで紙ものの迷宮に足を踏み入れたようだ。1枚1枚、いったい何枚のカードを繰っただろうか。

 この日、彼の事務所には無造作にミュシャの大判のポスターが。私と河村は一緒に「あ、ミュシャ!」それは、サラ・ベルナールのロレンツォの演劇ポスター、画集の中でしか見たことのないそのポスターの実物がここにある。私達の言葉に彼は目を輝かせて解説を始める。「この淡いブルーの色が良く出ているのが、素晴らしいんだよ。とても状態が良いんだ。」「サラ・ベルナールね。」と私。「いつもアートブックの中で見ていたわ。」普段美術館や画集の中でしか見ることの出来ないものが、何気なく置かれているなんて、なんとエキサイティングな!

 すべての作業を終了し、事務所を出た頃には外はすっかり夜になっていた。今回の買付けは大方終了。仕事帰りにホテル近くの馴染みのキャフェで、私はボジュレー・ヌーボーを一杯ひっかけ、「アルコール不可」の河村はエスプレッソを。今日も仕事一筋!(笑)あっという間に過ぎていってしまった。


マドレーヌ寺院を取り巻くフォーションの果物はどれも高級そう!(実際に高級なのだが。)近くを通るたび、思わずショウウィンドウに顔をくっつけてしまう。黒地に白のロゴの入ったパッケージに色鮮やかな果物が映える。


薔薇の専門店“Au nom de la rose”はいつも素敵!薔薇の花びらを店中に敷き詰めたり、こうやって一緒にフラワーベースに入れてしまうのもお洒落。思わず写真を撮りたくなってしまう。こんな薔薇のブーケ、プレゼントされてみたい。


仕事を終えて帰ってきたホテル近くのショウウィンドウ。何ともいえない微妙な色彩のスカーフやショールはフランスならでは。こちらに来ると「にわかパリジャンヌ」に変身できる気がして(実際はどう見てもオリエンタルのおばさん)、ついついそういった“巻き物”が欲しくなってしまうのだ。

11月某日晴れ
 いよいよ最終日、ほとんどの買付けはもう昨日までで終了している。今日は荷物の発送と街のアンティークセンターを冷やかし、その後の時間は自由時間、それぞれ好きなところへ。朝、キャフェで軽く朝食をとり、またもや二人ボーっと「やっと終わりだね。」と窓際の席から晩秋の街を眺める。思えば本当に慌ただしい買付けだった。河村は「もっとパリにいたいよ〜。」と帰りたくなさそう。「今度はあのフェアへ行って、田舎にも行きたいし…。そうそう、今度こそオペラかバレエに行きたいな」と私の頭は既に次回の買付けへと向かっている。

 荷物を送ってしまった午後、アンティークセンターの中を散策する。様々な高級なアンティーク、ミュージアムピース級のジュエリーで目の保養。良いものを目にするのは、本当に勉強になる。残念ながらここは高級なジュエリーやガレ、ドームなどの工芸品、絵画や家具などの大物が主体。私が求めるレースや布、小物は一切無いが、それでもとてつもなく大きく光り輝く宝石を前に「こんなのあるんだねぇ。」と河村と意見を交わすのも楽しい。そんなジュエリーを見ているうちに、手頃なダイヤのピアスを発見。最近、はめていたピアスを皆お客様にお売りしてしまった私の耳は、何も飾るものが無くなってしまったのだ。「また売ってしまっても良いし…。」と河村を説得し自分のためにget。

 いつものように今回も夜の便で帰るため、夕方までの残り3時間は今回唯一の自由時間。それぞれ行きたい場所へ行くことに。私はマレ地区にあるスービーズ館へ。河村はバスティーユ界隈を散策するという。普段は国立古文書館とフランス歴史博物館として知られている18世紀の貴族の邸宅だったスービーズ館、この時期ちょうどスービーズ館ではマリーアントワネット自筆の古文書展がやっており、非常に興味があったのだ。展示会場の薄暗い広間にはマリーアントワネットが実際にしたためた様々な手紙やドレスの見本帖が。よく本や資料では見聞していたが、小さなシルクの布片の張った分厚い見本帖を実際に目にするのは初めて。良く読み取れないが、たぶんドレスの詳細が書き記されてるのだろう。そして、マリー・アントワネット自筆の手紙の数々。こちらは女性らしい細かな文字が並んでいる。ポリニャック公爵婦人に宛てた手紙など歴史上の人物だと思っていた人々が実在感を持って迫ってくるから不思議だ。そういえば、日本でも映画「マリー・アントワネット」が来春公開されるらしい。今から映画の中で、豪華なドレスや風俗を垣間見られるのが楽しみだ。

贈り物によく使われるチョコレート。アンティークでも、贈答用のチョコレートボックスを目にする機会は実に多い。贈答品のシーズンかショウウィンドウのチョコレートについつい目が行ってしまう。このショコラがけオレンジピール、美味しそう!


Q.さて、このチョコレートパン、いったい何で出来ているでしょう?答えはページ下に!


スービーズ館で開催中のマリーアントワネット自筆の古文書展。大判のポスターもドレスの見本帳がモチーフになっている。

今回も長々と最後までお付き合いありがとうございました。短い買付けでしたが、今回も全力投球!何とか買付けを終えることが出来ました。一緒に買付けに行ったように楽しんでいただければ嬉しいです。

***今回も長々とお読みいただき、ありがとうございました。***











A.チョコレート