■5月某日 晴れ
今日はイギリスへの移動日。朝になってようやく荷物をパッキング、買い付けた荷物は商品は大事にそっとまとめ、部屋中に置いてあった本や化粧品などの私物をスーツケースに押し込んでいく。老嬢たちが無事帰っていき、今日からは、やっと河村と二人だけの行動だ。まだ、老嬢達を引率した疲れが…。だが、11時過ぎのユーロスターに乗るためそれぞれスーツケース二個を持ってホテルを出発。
ユーロスターに乗り込むと少しでも仕事をしようと持ってきたモバイルPCに電源を入れてみるのだが、ユーロスターは思いの外揺れがひどく、ほとんど仕事にはならない。だんだん気分が悪くなり、ついにはギブアップ。「やっぱり日本製の車両じゃなきゃダメだよね。新幹線はこんなに揺れないもの。」とぶつぶつ言いながら買っておいたバゲットサンドをパクつく。なんといっても、機械モノで日本製に勝るものは無いのだ。(海外に出るとついついナショナリズムに走る私。)
ユーロトンネルを通り過ぎ、しばらくすると赤いレンガの建物が多くなってきた。ロンドンに近くなってきた。なぜだかパリからロンドンへ向かうと、自分の中からわくわく感が消え、「完全お仕事モード」に切り替わる。ロンドンにいる間は、特に外食の楽しみも無ければ、街のウィンドウディスプレイを見る楽しみもなく、もちろん美味しいお菓子に出会うこともないせいだろうか。それぞれの国民性が乗り移ったかのように、フランスでは時間があればあちこち出掛けるのだが、イギリスではひたすらフラットでのんびり過ごすことが多い。しばらくするとユーロスターの駅であるウォータールーに到着。駅で両替を済ませ、再び荷物と一緒にタクシーで、いつものフラットへ
馴染みのフラットに着くと、ラゲッジルームから前回預けていった荷物を出して貰い、再び荷物を開けて自分たちの居心地の良いように部屋を整えていく。イギリスの住宅事情、ホテル事情は決して恵まれてはいない。ずいぶん以前、シングルの部屋に泊まっていた頃、一度スーツケースが開けられないほど狭い部屋に泊まったことがある。(ベッドの上に乗せないとスーツケースを開けることの出来ないその部屋を、私は「仕置き部屋」と呼んでいたが。)同業の日本人ディーラー達と話すと皆一様に同じような体験があるようだ。今回は、ロンドンの滞在が短いため、さっさと夕方近いロンドンの街へ飛び出した。
まずは街中のアンティークモールへ。そこで下見をしていると、私達に日本語で呼びかける声が。知り合いの代々木のディーラーだ。地方の仕事で一緒になったことがあるため顔馴染みの彼女。「向こうにFさんもいたから、みんなでお茶しない?」という言葉に一も二もなく賛成。せっかくやってきたモールだが、夕方近くなって、それぞれのショップは皆店じまいし、ウィンドウの外から眺めるだけ、向こうで物色していた同じく東京から来ていたFさんを探し出し、4人で近所のティールームに向かった。
|
私達が宿泊するフラット近くで。毎年この季節になると壁いちめんの藤が美しい家。こうした住宅街を目にするのもイギリスならでは。
|
5月某日 晴れ
朝6時過ぎにフラットを出、ロンドンの南のマーケットへ向かう。その昔は、穴場のマーケットとして海外からのディーラー皆が足を運ぶマーケットだったが、ここ数年は街の再開発も手伝ってどんどん廃れる一方のマーケットだ。昨今のイギリスは、一昔前に比べてずいぶん景気が良くなってきた。が、その景気の良さが、街の再開発を促し、しいてはアンティークマーケットの衰退につながっていくのだから、決して喜ばしいことではないのだ。昔賑わっていたマーケットがどんどん廃れていく姿は、若い頃の遊び場が無くなっていくようで、とても淋しい。
今回このマーケットに足を運んだのは2〜3年振りだろうか。思った通り、何周も周るのだが、本当に何も無い。特に昔このマーケットが盛んだった頃を思い出すと、なんともやりきれない気持ちになる。「昔はさぁ、朝5時から気合入れて来たよね〜。」と河村と昔話をしながらウロウロする。結局この朝の収穫は、ボーカナイトのハートトップのみ。これはこれで嬉しいのだが、これだけしかみつからないのはなんとも辛い。いいかげん諦めをつけて、フラットへ戻り、ひと休み。ちょっぴり睡眠。
午後は昨日下見に出掛けたモールへ。高級なジュエリーが主なモールなのだが、私のお目当ては可愛い小物。いつも可愛い小物がひょんなところから出てくるのが楽しみで、ここへやって来る。今回もご多分にもれずリボン付きのバスケットをget。ちょっぴり嬉しい。その後、いつもお世話になっているソーイング小物を扱うディーラーのところへ。彼女との付きあいもう長くなってきた。そこで思いがけず小さなピンディスクを発見。今まで扱ったことの無い繊細な刺繍入りのピンディスクだ。今日の収穫は決して多くは無いのだが、自分好みの質の高い物との出会いがあってほっとする。
いつも「何かある!?」とドキドキしながら訪れるレースのディーラーの元へ。今回も事前にメールであれこれリクエストだけは入れてある。果たして、1700年代のブリュッセルのパーツやヴィクトリアンの豪華なベビードレスを。今回は、オーナーであるジュリア(実際に「ノッティングヒルの恋人」のジュリア・ロバーツに似ているのだ。)がおらず、お手伝いの女性のみ。「ジュリアはどうしたの?」と尋ねると「ミラノにバカンスに行ったのよ。」というお返事。「ミラノか、いいなぁ〜。」ビジネスが上手くいっているのか、ジュリア自身は結構留守が多いのだ。
|
5月はライラックの季節。フランスでもよく目にした藤色のライラック。日本では藤色と白との二色ぐらいしか目にすることのないライラックだが、こちらでは白から藤色まで濃淡四色ほどのグラデーション。濃淡織り交ぜ、庭から摘んだばかりのたっぷりしたブーケを手にしている人を見た。
|
5月某日 晴れ
今日がイギリスでの買付けの正念場、様々なディーラーの元を周ることになっている。いつものように朝早く出掛ける。まずはいつもの細々したゴールド細工を扱うデイーラーの元でシールを。印刻部分に矢を貫かれたハートを彫刻したとてもキュートな面白いものだ。そして、次に出てきたのがやはり顔馴染みのディーラーから出てきた"REGARD"リング。ヴィクトリアン半ばのリングらしくとても繊細な雰囲気だ。今までも何度かこうした言葉遊びのリングを目にする機会はあったのだが、どこか自分の求めるものと違う気がして入手までに至らず、今回のリングはその繊細さにあっさり脱帽。私の世界向きの"REGARD"だ。
今回出てきたエナメルも私のお気に入りのひとつ。美しいフラワーバスケットのペイントが目に入ってきたときは、思わず横の河村を「ねえねえ、ちょっと。」とつついてしまった。もうひとつの優しいエナメルロケットはまた別な場所から。いくら探してもまったく見つからない時もあるのに、今回は二つも入手できて嬉しい。エナメルは、じっくり目で見て、次に表面に指を走らせる。指の感触でダメージが無いか確かめるためだ。案外目で見て「大丈夫。」と思っても、思いがけず欠けた部分を見落とすこともある。指で触って確かめて・・・この感触もガラス質のものを買付けるときには大切なポイントだ。
今回出てきたハートのロケットも、後ろがガラスの扉になった変わったもの。表側の手彫りの彫刻も細かな、私好みのものだ。そんな繊細な細工物を目を皿にして探しているそのとき、まるでレースで編んだようなホワイトゴールドに輝くクロスが目に入ってきた。沢山のダイヤのはまった美しいクロスだ。買付けの際、いつも首から下げている倍率の高いルーペで覗いてみると、いちめんに細かなミル打ちがされていて、その細工の細かさに驚かされる。特にジュエリーの買付けではルーペは必需品だが、ジュエリーだけでなく、レースやその他の細工物も、ルーペで見る世界は本当に楽しくて興味深い。
そしてこれも久しぶりに見る美しいタティングシャトル。顔馴染みのソーイング物を専門で扱うディーラーに確かめる。「これってパレロワイヤルよね?」「そのとおりよ。」満足気に肯く彼女。持ち主のイニシャルが彫刻された美しいマザーオブパール製だ。「ひとつは持っていたい。」そんな思いで入手した。
最後に、アイボリーの可愛い薔薇一輪のブローチを。持っていたディーラーはこの業界ではまだ若い女の子(とはいっても後に彼女が35歳だったと判明。)今までも何度か話したことがあり、彼女がスペイン出身だということも、ずっと以前東京に住んだこともあって、ほんの少しだけ日本語が話せることも知っている。そんな彼女が「私、スペインに帰ります。」というので、「スペインのどこ?」と聞くと「マドリッド。」という答え。「私もマドリッドに行ったことあるのよ。もう20年前だけど。」と言うと、(なぜだかそこだけ日本語になって)「え〜っ!じゃあ、子供の頃ですか?」とびっくりする彼女。「ううん、学生の頃。私そんなに若くないのよ.」と答えると、「あら、私あなたのことずっと25歳ぐらいだと思ってた。」そうだったんだ、やっぱりイギリス人の中にいるとそんなに若く見えてしまんだなぁ、とショック。これはけっして私に限ったことではなく、オリエンタルの女性みんなにいえること。ヨーロッパでは自分が若く見られるとことは重々承知していたのだが、25歳とはねぇ。どうりでよく知っているディーラー以外は、扱いが軽い筈だよなぁ、と改めて思ってしまった。日本にいても海外にいても、仕事の上で若く見られることは決して喜ばしいことではないのだ。たまに可愛いものを持っていた彼女、ロンドンを去ってしまうのは残念。「また何かあったらメールをちょうだいね。」と別れた。
なんだか疲れたなぁ、と気が付くとフラットを出てから既に8時間近く。ずっと歩き回っている訳だから疲れるはず。仕事を終えた後はフラットへ戻りお休み。
フラットでひと休みした後は、キングスロードへ。ここにあるアンティークモールを冷やかしに。昨今、にか見つかったためしのないモールなのだが、一応、見るだけは見ておかないとなんだか落ち着かないのだ。フラットの近くからバスに乗って出掛ける。最近、昨年のテロ以降、ロンドンの市バスは全面的に新しい車種と変わり、車掌付きのバスにお目にかかることも少なくなった。車内には監視カメラは設置され、大きなモニターが取り付けられた。車掌付、後ろから乗り降り自由のバスは、扉が無いから止まっている時だったら乗り降りできたのに、もうそんな訳にはいかない。その昔、走り始めるバスに慌てて飛び乗って、仕入れたばかりのガラスのピッチャーを車体にぶつけて割ってしまったり、ゆっくり走行しているバスから飛び降りて、危うくひっくり返りそうになったのも、懐かしい思い出だ。
|
私がいつも利用しているフラットの最寄り駅グロスターロード。ここのホームはパブリックなギャラリーとして、いつもインスタレーションの展示がされている。暗いロンドンの地下鉄構内だが、カラフルな壁面にちょっぴり心が和む。
|
5月某日 曇り
今日はなんと4箇所のフェアをハシゴする大忙しの日だ。まずは、始発の地下鉄でロンドンの北、郊外の大きなホールで行われる大規模なフェアへ向う。ロンドンの街全土に張り巡らされている地下鉄は、セントラルと呼ばれる中心部から郊外に向って、ゾーン1からゾーン6まで分類されているのだが、今日最初に訪れるのはゾーン5の駅、そこからさらにバスに乗る。バス停で、顔馴染みのディーラーと挨拶を交わす。イギリスのディーラーも、日本から来たディーラーも、行くところは皆同じ。フェアの前はみんな少し緊張気味だ。
このフェアは出店するディーラーと共に入場するため、最初のうちは入場しても、なかなか商品が出ておらず、広い会場の中をあっちに走ったり、こっちに走ったり、縦横無尽に動き回る。いつも北のフェアで出会うディーラーと久し振りの再会。たまに興味深いソーインググッズを持っていることもあり、注目のディーラーだ。今回は美しいマザーオブパールの糸巻きをget。透かしになった凝った細工が嬉しい。やはりいつも注目している箱物を扱うディーラーの元からフランス製のスミレの香水ボックスが出てる。フランスらしい物の一つであるスミレのボックス、まさかイギリスで出会うとは思わなかった。中にはちゃんとボトルも入った良いコンディションだ。迷わずget。一緒に出てきたチョコレートボックスも手に入れる。
そんな中、久し振りにジョージアンのリングを発見。しばらく目にすることのなかったジョージアンのリング。きっとしばらく出会うことはないだろうと思っていただけに嬉しい。裏側に入れられた文字の彫刻も私好みだ。あまりジュエリーには期待をしていなかったこのフェアなのだが、可愛い子供の写真の入ったロケットを発見。周りにぐるりとペーストをあしらった美しいフォト入りのロケットだ。しかも、裏側には表側に入れられた写真の子供の赤ちゃんの頃の写真が入っていて、これがまたとっても可愛い。「こういうの、欲しかったんだよね〜。」と独り言。その後出てきたベビー用のブレスレットと共と同じ可愛い赤ちゃんモノだ。
会場を何周しただろうか、「もう十分。」となった何時間後、次のフェアを目指し、会場を出た。
次に目指したのは、セントラルを挟んで対角線上、約40分程また地下鉄に揺られながら向う。朝早かったこともあり、私も河村も眠りこけながら、地下鉄の心地よい揺れに身をまかせる。(通常は地下鉄などの公共の場所で眠りこけるのは厳禁!日本に比べるとけっして治安が良くないので。)今度のフェアは、イギリスでは結構楽しみなコスチュームのフェア。いつも広い会場は、老若女ばかりでいっぱい!イギリスのフェアの中でも唯一と言ってよいほど熱気に満ちた、活気溢れるフェアだ。そんなコスチュームばかりのフェアの中でも、いつも何かしら、好みの物がみつかるのだが、今回は皆無。知り合いのレースのディーラーから「コスチュームフェアの時に、ニューストックを沢山出すから来てね。」と言われていたのだが、彼女のところにも今回は気になる物が無く、out。たったひとつ薔薇の織り柄が可愛いシルクを発見。それだけを手にし、次なるフェアへ。
さて、次のフェアは、以前は楽しみにしていた見やすい中規模のアンティークフェア。だが、ここ2〜3年はロクに仕入れる物の無い、ダメダメなフェアへとどんどん成り下がってしまった。今回も、わざわざ足を運んだにもかかわらず、会場を一巡して「やっぱりね。」という感じ。以前に比べて私達が仕入れる物が変わったのか、もう良いものが出てこなくなったのか、何も得る物がない。10年前のイギリスは、素敵な物がそれは沢山あって、でも先立つものが無く「こんな素晴らしい物を仕入れるのは夢のまた夢。」という感じだったのになぁ。今となっては、当時あった素敵な物はすべて夢となって消えてしまったようだ。あのアンティーク達は、一体どこへ行ってしまったのだろう?
最後のフェアは、私達の地元、フラットからもそう遠くはないホテルフェア。いつも盛り上がりに欠けるホテルフェアだが、気に入った物がきっちりみつかることもあるのだから、ここも外すことが出来ない。最後の力を振り絞って(?)会場へ。今回はin!不思議な色合いのカメオのピアスと遭遇。グレイッシュな色合いのシェルカメオ、エンジェルが白く浮き上がる私好み。いつものようにルーペで穴が開くほどチェックし、扱っていたディーラーがとても丁寧なジェントルマンだったことも手伝って(?)get。そして、また久し振りに出会ったのが、シルバーのバターナイフとジャムスプーン。特にジャムスプーンは、元々作られた数が少ないため、出会うことが少ないもののひとつだ。これが今日一日の締めくくり。ちょうどお仕事を終了する頃、日本から来た仲良しのジュエラーと出会い、近所のPAUL
でお茶。
パリでは私達のお気に入りのブーランジェリーのPAUL
(日本にも店舗があるため、ご存じの方も多いかも)、最近はロンドンにも進出し、私達のフラットのあるサウスケンジントン周辺にも何店舗か出来たばかり。元々サウスケンジントンは、フランスのリセもあり、フランス人が多く住んでいる地域なのだ。シャネルはもとより、アニエスbやワインのニコラなどフランス資本のショップが多いのだが、このPAULもご多分に漏れずいつも沢山の人で賑わっている。が、ロンドンのPAULは、パリに比べてパンの種類が少なく、やや高価なのが私達の不服とするところ。まぁ、一昔前、“Gateau francaise(フランス菓子)”という看板を掲げながら「これでフランス菓子かい?」という感じのケーキしかなかった頃のロンドンと比べると雲泥の差かもしれないけれど。それにしても、イギリス人の美味しい物に対する興味の薄さって一体どこから来るんだろう?それほど、昔は質素だったということか?確かに現代とはまったく栄養状態が違うため、(当時のドレスを見ればよく分かるが)ヴィクトリアンの女性達は現代の私達よりもずっと小柄だったのだ。
|
いつものフラットの窓から見える風景。今回は裏側のプライベートガーデンに面した部屋。プライベートガーデンの向こうには同様にヴィクトリアンのレンガ造りのフラットが並んでいる。プライベートガーデンに足を踏み入れることは出来ないが、青々とした芝生が美しく、窓から眺めるだけでほっとする空間だ。
|
5月某日 曇り
買付けもいよいよ最終日。夜遅くに飛ぶ飛行機のため、今日は終日買付けやジュエリーのパーツなどの買い物に費やすことにしている。朝から最後の仕入れに。フレンチジュエリーを扱うディーラーの元へ。年配の夫婦なのだが、イギリスのジュエリーに混じって、魅力的なフレンチジュエリーを持っているため、たびたびお世話になっている。前回の買付けでは、残念ながら何を仕入れる物がなかったこのディーラーだが、今回は彼らのところに透かしの入った可愛いパールリングとフランスらしいピアスを発見。「よかった〜。今回はモノがあって。」と河村と頷きながら仕入れる。これで今回の買付けはfinish。なんとか目的も達成し、ほっと一息。買付けのために用意してきた金額すべてを使い切り、ヤレヤレ。
午後になってすべての用事を済ませた後は、私達の「遊び場」ヴィクトリア&アルバートミュージアムへ。ちょうど企画展“MODERNISM”がやっていたため、コルビジェ好きの河村はそちらへ。私は、ひとりで18世紀、19世紀のイギリスコーナーへ、それぞれ自由行動。19世紀のイギリスのコーナーは、普段アンティークとして扱っているものが数多く展示されていてとても興味深いのだが、髪の毛を使ったヘアジュエリーや、亡くなった子供を飾り立てて記念写真を写すことなど、ヴィクトリアンの人々の思考に、どこか生々しく相容れないものを感じることも多い。(19世紀のイギリスコーナーが照明もなく暗いせいだろうか、このコーナーにどことなく薄気味悪さを感じるのは私だけ?)その点、18世紀のイギリスは、他に想像の余地があって、私にとって楽しい時代だ。昨今のヴィクトリア&アルバートもIT化がすすみ(?)展示品と一緒に至る所にパソコンが置いてある。今回は18世紀の衣装のコーナーに置いてあったパソコンで、当時のシルク生地をデザインをして楽しんだり、自分のモノグラムをデザインして遊ぶことが出来て興味深かった。
現在、さらなるミュージアムへパワーアップのため、改装中のヴィクトリア&アルバート。今から完成するのが楽しみだ。思えば、この仕事を始めて10年あまり、特に誰かに何かを教わることなくやって来た私だが、このヴィクトリア&アルバートミュージアムが、私にとって唯一のアンティークの先生だったかもしれない。
|
シルエットが美しい18世紀のコルセット。くすんだサーモンピンクのシルクの質感も魅力的。でも、なんと言ってもこのサイズの小さいことに驚嘆してしまう。「子供用?」と思えるほど全体的にとても小柄に出来ているのだが、ウエストの細さに注目!
|
今回も長々、私の買付けの愚痴にお付き合いいただき、ありがとうございました。このお仕事を初めて10年あまり、年に数回訪れる買付けですが、今だに初めて目にするもの、初めて知ることのある一種ラビリンスのような場所であり、時間でもあります。そんな迷宮に一緒に遊びに行ったような錯覚を覚えていただければ嬉しいです。
|