〜2006年1月 後 編〜

■2月某日 曇り
 無事、ユーロスターでパリに到着。パリ北駅からはタクシー。今回はひとりでいつものホテルに着くと、レセプションのムッシュウは47号室だという。このホテルではほとんどの部屋に泊まった経験がある。47号室、それは私の河村の間では「あの47号室」と言われている悪名高い屋根裏部屋だ。この屋根裏部屋、建物の最上階にあって、パリの街を見渡せて、何より「屋根裏部屋」という響きがロマンティックなのだが、なんといっても、元は女中部屋。夏は暑くていられず、冬は寒くて暖房がまったく効かないのだ。満室で他に部屋は空いていないという。泣く泣く毛布を2枚かぶって寝ることにする。

 

2月といえばバレンタインデー、赤い色とハートのディスプレイが街中に溢れます。サンシュルピス教会横のパフィームリーのディスプレイはいつも凝っていて楽しみ。

■2月某日 曇り
 朝7時過ぎ、パリの空はまだ真っ暗だ。いつものコース、泊まっているホテルの裏からバスに乗ってマーケットへ出掛ける。早朝のバスは本数が少ないのだが、運良くすぐにやってきた。パリでは、バスに乗るときにも運転手と"Bonjour!"と挨拶を交わすことが多い。この時も、切符を買おうと挨拶すると、運転手の彼はすこぶる機嫌の良さ。"Bonjour!"と高いトーンでにっこり。おまけに"Cava?(気分はどう?)"とまで聞いてくるではないか!こちらも慌てて"Cava bian. Et vous? (とってもいいわ。あなたは?)"と返す。車内は誰も乗っておらず、どうも私が今日初めて乗せるお客だったらしい。彼のお陰ですっかり朝から気分が良くなる。

 どうもこちらのバスの運転手は、フランス人だけあって(?)個性豊かな気がする。そういえば、以前にも同じ路線に同じく早朝乗った折、あるバス停で乗客を降ろすためにバスを駐めると、そのまま運転手もバスを降りたきりどこかへ行ってしまった。もちろんバスはバス停の前に駐まったままだ.「あれ〜?どこへ行ったのかしら?」と思っていると…戻ってきた!戻ってきた!バス停の前のブーランジェリーから、パンをくわえながら小走りで。バスには数人の乗客が乗っていたにもかかわらず、みんな大人しく待っていた。
 また、別の折には、道路工事でバスルートが変わったらしく、いつもとは違った道を通っていたのだが…どうやら運転手自身も道が分からなくなってしまったらしい。運良くいつもバスを利用しているマダムが乗っていて、運転手の横で「次を右曲がって.そこを左。」と指示し無事到着、こと無きを得た。これだからバスってやめられない.

 そしてマーケットに到着。まだ日は上っていない。暗くてよく分からないので、持ってきた懐中電灯でひとつひとつのアンティークを舐めるように照らしながら進んでいく。懐中電灯を頼りにペーパーマッシュのボックスを発見。ふたの貴族柄が好み、早速買付ける。

 いつも買付けている彼女のブースに到着。彼女が若いせいか、何かしら可愛らしいものを持っているのだ.だが、今回はいまひとつ。「あんまり心に響くものが無いなぁ。」と思っていると…ブースの奥にボロボロになった時代衣装を詰め込んである箱を発見。ちらりと見えた柄はフラワーバスケットだ.側にはちゃんとふたもある!勝手知った彼女なので、接客で忙しそうな手を煩わせることなく自分で中身を空け、内側と外側をチェック。それは、バラのお花の可愛いフラワーバスケット柄のハットボックスだった。こんなふうに商品を入れている場合、売ってもらえないことが多いのだが、彼女は売っても良いと言う。「やったぁ!ラッキ〜!!」無事getし、預けておくのも心配で大きな箱を抱えながら歩く。
 顔見知りのマダムたちから"C'est joli!"とうらやましげな視線を浴びてちょっぴり得意。今日一番のヒットだった。

 その後、いつものマダムのところでカード選び。彼女との付き合いももう長い。ここでもカード自体は表に出ていないため、いつも奥から出してきてもらう。「ええと、あれとこれと、comme d'habitude(いつもどおり)ね。」と告げると、様々な種類のカードの箱が。膨大な数のその中から選ぶのは根気のいる作業だ。ずっと立ちっぱなしで選んでいると、いつしかカイロを入れてきたはずの足先がジンジン冷えてきた。
 おしまいにいつものカフェですっかり冷えきった体にカフェクレームを流し込む。このときの暖かいカフェクレームほど美味しくありがたみを感じることは無いほどだ.ほっと一息ついてまたバスに乗って帰宅。

 何度も言っているが、冬の外での買付けは本当に寒い。体の芯から凍えてしまう。ホテルに戻ってまずすることは足湯。(いつもフランスのホテルはバスタブ付きにしているのだ。)バスタブに熱々のお湯を溜めて足を入れると、あまりの心地よさに頭まで溶けていきそうな気持ちがする。そのままバスタブのふちに腰かけてワインを飲みながら買ってきたバゲットサンドをパクつく。この足湯、本当に気持ちが良いのだ.ついついそのまま「暖かいから腰湯にしてしまえ。」と服を脱ぎだし、そして「いいや、もうお風呂に入ってしまおう!」となってしまうことも多い.今日は足湯のみで、また次の買付け先へと出掛ける.

ショコラトリーももちろん真っ赤なハートがいっぱい!可愛いパーッケージ入りのチョコレート、写真を撮るのに頭がいっぱいで、ひとつも買わずに帰ってきてしまいました。ちょっぴり残念。

■2月某日 曇り
 今日はまず16区で開かれる小さなアンティークフェアへ行き、その後大きなマーケットへ。朝7時からオープンと開催を知らせるインフォメーションには書いてあったものの、「果たしてフランス人が休みの朝7時から本当に働くのだろうか?」という疑問が頭をもたげ、ホテルを7時半頃出て、地下鉄に乗って出掛ける。

 普段の昼間の地下鉄は何てことは無いのだが、休みの早朝の地下鉄は人っ子一人いないため、深夜と同様に結構恐怖。誰もいない地下道を後ろの気配を気にしながらコツコツ歩く。地下鉄の車両も同様だ。私以外誰も乗っていない車両なのに、むやみに近くに座ってくる男性に少しドキッとする。地下鉄を降り、メトロの駅の扉を開けようとしていると、この寒いのにもかかわらずミニスカートのマダムが。黒いサングラス、真っ赤な口紅の派手な化粧にブロンド、にっこり微笑みかけられたのだが、よくよく顔を見ると…なんと男性だった!

 「16区にもいろいろといるんだぁ。」と思いながら(一般的にパリの16区はお金持ちの住む街とされている。)果たしてフェアの会場へ着くと、もう8時だというのにやっと並べ始めたばかりだった。少しウロウロするが、とても商品の全容を見られるまで至らず、近くのカフェでお茶することにした。

 カフェから出てきた後も同様。唯一、気になっていたレース屋のマダムはきれいにディスプレイを終わった自分のショップに、今度は人が入らないようにネットを掛けているではないか!「あの、見たいものがあるんですけど…。」と声を掛けると「今からカフェに行こうと思ってたのよ。」と言いながらネットの中に入れてくれた。ディスプレイしてあった可愛いブラウスをget。結局、他のものはまだ見ることが出来ず、次なる目的地へと向かったのだった。

 再び地下鉄を乗り継ぎ、バスに乗って次なる目的地の大きなマーケットへ。マーケットへもう少し、という交差点にさしかかり、ふと隣に並んだバスに視線を向けると…そこには見慣れた顔が。「あれ?誰だっけ?」と思うと、向こうも私に手を降っている。そう、それはいつもお世話になっている仕入れ先のマダムだった。「また後でね。」とこちらからもニッコリ笑って手を降り返した。

 まず真っ先に訪れたのはレースのプロフェッショナルと自負しているマダムの所。今回、探していたアランソンは小さなピースしか出てこなかったのだが、かわりにリボン柄のポワンドガーズや珍しくリボンの形をしたポワンドガーズのピースが出てくる。その他にもメヘレンの繊細なボーダーやシャンティーなどを仕入れることが出来、ほっとする。そうそう、アルジャンタンの襟が出てきたのもここだった。珍しいレースが入手できるととても嬉しい。彼女から仕入れるレースは高価なものばかり、いつもは河村と相談しながら最終決定するのだが、今回はひとりのため、とても緊張する。

 その後、お人形の材料になるような小さなラインストーンやブレードなど細々したものを仕入れていく。小さいものだが、様々な色彩溢れるこうした材料を選ぶのはうきうきする作業だ。「この色を選ぶんだったら、この色も一緒に並べるときれい。」とついつい沢山になってしまう。マーケットの通路を歩いていると、あちらこちらに見知った顔のディーラーが。"Comment allez-vous? Cava?"と挨拶を交わしながら進んでいく。

 そんな中、いつも足を運んでいるレースや布を扱うディーラーの元で可愛いポーチを発見。クリーム色の地に花かごのリボン刺繍が可愛くてとっても私好み。だが…このディーラーは、マダムは感じが良いのだが、ムッシュウはなぜかいつも機嫌が悪い。マダムは私の顔を覚えてくれているのだが、彼は皆無。今日は運悪くムッシュウだけが店番をしていた。花かごのポーチは高いところにディスプレイされていて私の身長では良く見ることが出来ない。彼に見せて欲しいと頼むと、あからさまに嫌な顔をし、背を伸ばせば十分届くものを面倒くさがって下ろしてくれない。さらに「状態は良いか?」と聞く私に「わかっているのか!アンティークだから古いんだよ!!」と英語で喧嘩越し。売られた喧嘩は買わずにいられない私。「分かってるわよ!!」と同じく英語で叫んでいるところにマダムが戻ってきた。
 私たちの険悪なムードを察したマダムが「まぁ、まぁ。」と驚いて入ってくると、彼はやっとポーチを下ろしてくれた。下ろしてもらったポーチを片手に思案する私。(可愛いだけあってお値段も決して安くはなかったのだ。)が、この場合、悔しくて「ありがとう。」と置いて帰ることが出来ない。これが河村と一緒だったら、「こんなの相手にすること無いって、ほっときなよ。」と至極冷静にそっけなく言われるのが関の山なのだが、今日はそうやって止める河村はいない。思わず「いただくわ。」と大見得を切ってしまった。その途端にコロッと態度が変わるムッシュウ。"Merci"と澄ました顔で言われ、こちらもせいぜい余裕で"Merci beaucoup"と返した。今から思うと、あれが彼の手だったのかも?

 買付け後、思い立って帰りのバスから見えるサクレ・クール寺院へ。河村には悪いが、気ままに行動出来るのもひとりだからこそ。モンマルトルの丘に登るのはしばらく振りだ.パリ全土を見渡せる丘の上から深呼吸。そう、「馬鹿と煙は…」のことわざどおり私は高いところが大好き。そのまま「気分はアメリ(?)」で、アベス周辺を散歩しながら帰宅。

 

久し振りに一人でモンマルトルの丘へ。サクレクール寺院の白い建物、パリの街からでもその姿がチラリと見えるとなんだか嬉しくなってしまう。

■2月某日 曇り
 昨日から暖かくなってきたのは嬉しいことなのだが、急に最高気温が10度近く高くなると体がついていかない、と言うのが正直なところだ。今日は、まず昨日十分に見ることに出来なかった16区のフェアへ。

 その前にオデオンの駅前のいつものカフェに朝ご飯を食べに入る。「あら、今日は日本人の女の子がいるなぁ。」と思いながらカフェへ入ると、偶然にもその中の一人は知人で、銀座のアンティークショップを手伝っている女の子だったのだ。わざわざ私の席まで挨拶に来てくれた彼女、フランスにしょっちゅう来ていることは知っていたのだがまさかこんなところで会うとは…。彼女曰く「やっぱりオデオン界隈がいいですよね〜。」聞けば、私が常宿にしているホテルのすぐ側のホテルに泊まっているらしい。
 私の周りにいるアンティークディーラーの多くは空港からの便の良さからオペラ座界隈に泊まっていることが多いのだが、私はカルチェラタンとサンジェルマン・デ・プレに程近い6区のこの界隈がお気に入り、長年泊まり慣れた左岸のこの場所以外に泊まる気がしないのだ。

 さて、再び訪れた16区のフェアでは、馴染みのカードを扱うディーラーからポストカードを仕入れたのみ、その後、パリの市内に向かいカードの仕入れに出掛ける。が、満足のいくものに出会うことが出来ない。いったい何枚のカードを繰った事だろうか、多分軽く数千枚を越えると思う。あまりにも気に入るカードが出てこないと虚しくなってしまう、何しろ時間のかかる膨大な作業なのだ.そんな中でもお客様からのリクエストをみつけ、少しだけ気持ちが明るくなる。

 最後にアンティークセンターへ行く。ガレのガラス器や高価なジュエリーなどが並ぶアンティークセンター、私の好みのもの、私らしい商品を細心の注意をもって隈無く探すが、今回は皆無。「また次回!」と強く胸に思い、帰ることにする。

■2月某日 曇り
 買付けも終わりが近くなってきた。明日、パリを去ることになっている。朝、「どんな具合かしら?」と心配していた横浜のフェアに一人で行っている河村の元へ電話。すると、河村は私達の仲良しでもあるアンティークディーラー、ローズコテージさんのご自宅できりたんぽ鍋をよばれているではないか!「すごく美味しいよ〜!」と電話の向こうで満足気な河村が少し羨ましい。

 今日は最後のディーラーのもとへ。頼んでおいたものが手に入ったのだ。刺繍のキャミソールやほぐし織りのシルクが入ったという。ついでに「好きかと思って…。」と言われて出てきたのは可愛いロココの束だった。様々な色や形のロココとリボン刺繍。眺めているだけで「なんて可愛いんだろう!」と嬉しくなってしまう。今回の買付けはこれをもって終了、

 今回のお仕事はこれでおしまい。本当は、フランスのアンティーク雑誌で見た最近オープンしたばかりのマキシムのミュージアムへ行こうかと思っていたのだが、午後はマレにあるカルナヴァレ美術館に行くことにする。マキシムはもちろんレストランの有名店だが、そのアール・ヌーヴォーの内装も有名だ。現在のマキシムのパトロンは、ピエール・カルダン。彼のコレクションしたアール・ヌーヴォーの家具や、サラ・ベルナールが愛用したドレッシングセットなど様々なアンティークがミュージアムで公開されているらしい。ミュージアムだけでも入れるのかもしれないが、私も見たアンティーク雑誌には入場料が「110ユーロ」と記載されていた。110ユーロとは日本円で約15,000円強、この金額を見て一瞬ギョッとした私だが、これはどうやらマキシムの昼のメニューのお値段らしい。レストランでお食事をすると無料で見せて貰えるということか。今回は私ひとりのため、「どうせ見るなら、後で二人で色々感想を話せる方が楽しいし…。せっかくだから今度河村も一緒に。」と次回に行くことにする。

 という訳で行ったカルナヴァレ美術館、何よりも建物が元々貴族の館ということもあるし、その時代時代の装飾様式が見られる、インテリアによる時代の変遷がテーマになっている。特に、ヴェルサイユでは革命のために一切のものが壊されてしまった1700年代後期の室内装飾が興味深い。とともに、マリー・アントワネットのエテュイ(お針道具など身近な道具を入れる箱)などが展示されている。マリー・アントワネットが身近において使った道具かと思うと、歴史の本でしか知らなかったマリー・アントワネットが急に生身の人間として感じられる。マリー・アントワネット好きの方には必見かも。

 美術館を出ると、すぐ近く同じマレにあるピカソ美術館の裏手へ。ここに、私がよく足を運ぶセレクトショップ“Yukiko”があるのだ。数年前に偶然足を踏み入れて以来、たびたび彼女のところでお買い物をしている私だが、今日は河村の目もないし…。お店に入ったのだが、早速Yukikoさんその日着ていたベージュの素敵なトップスをチェック。ご挨拶そこそこ

私「ねぇ、今日あなたが着ているそれ、売ってないの!?」
Yukikoさん「ありますとも!」

という訳で、早速ご試着。ボディからネックにかけての女っぽいラインに
「ねぇ!これってさぁ、ちょっと女っぽくなぁい!?」などと試着用のスペースの中から騒々しい私。Yukikoさんに「素敵ですよ!」とお墨付きをいただき、お買い上げすることに。日本では、まずなかなか気に入るものがないし、何よりあまりお買い物をする暇もないことだし、ま、いいか!が、これが坂崎のお買い物協奏曲の始まりだったのだ。

カルナヴァレ美術館の中にある、昔パリに実在した宝飾店フーケのアール・ヌーボーの内装。ドラマティックな店内の雰囲気に、当時の女性達はドキドキしながらジュエリーを選んだに違いない。

■2月某日 晴れ
 いよいよ最終日、ヨーロッパを訪れてから初めてのお天気だ。買付けは昨日で終了しているため、今日はやる飛行機で帰国するまで、終日パリの街を思うままに歩くことにしている。まずは手芸店巡り。レ・アールにあるドログリーへ。日本にも出店しているドログリーだが、パリの本店の可愛さといったら手芸好きにとっては感激モノだ。元々は毛糸店だったというドログリー、ボタンやビーズの可愛さもさることながら、壁にディスプレイされた手編みの小さな子供サイズのセーターの愛らしさといったらない。様々な色の溢れた楽しい空間だのだ。もちろん、ビーズやパーツの豊富さも魅力的だ。唯一、困りものなのが、この沢山の商品の中から自分の欲しいモノを出して貰って、「実際に買う」ということ。まずは、何人かいる大忙しの店員の女の子を捕まえ、見本を元に壁に一面並べられたビンの中から欲しいものを欲しい数だけ出して貰い、その伝票を書いて貰って、キャッシャーのボックスへ。こちらで支払いが済んでから、やっと欲しかったものが手元へやってくる。本当に時間がかかるのだ。今日は、紫のベルベットのマフラーに付けるため、様々な色の小さなボンボンを入手。

 さらにもう一軒、リボン専門店ウルトラモッドへ。実はこのウルトラモッド、二日ほど前にメトロのキャトルセプタンブルで降りた際、偶然前を通りがかって、ウィンドウに目が釘付けになってしまった。以前からその名前は耳にしていたものの、実際に足を運ぶ機会がなかったのだ。このウルトラモッド、パリのデザイナー達も頻繁に足を運ぶという。まるで映画のセットのような19世紀そのままのクラシックな店内には、壁一面が色のグラデーション!壁一面に巻きのリボンが並んでいる。その数はいったい何色あるか分からないほど。あまりのリボンの数に頭がクラクラしてしまった。
 以前にも経験があるのだが、こういったリボンの専門店には、たまに非常に古いストックが現代でも売っていることがあり、今日はそういう古いシルクのリボンを探しに来たのだ。だが、「シルクのリボンありますか?」と言って出てきたのは、リボン刺繍用のごく細いリボンで、しかも引き出しに残っている色はグレーと黒のみ。今度は壁一面のリボンをひとつひとつチェック。こちらもすべてレーヨン、もしくはポリエステルのみで、沢山のリボンに囲まれた私の驚喜は、瞬く間にしぼんでしまった。やはりアンティークのシルクリボンはなかったのだ。でもこのリボンの数は一見の価値あり、この店の向かい側には、姉妹店の帽子の装飾品の専門店もある。

 手芸店巡りを終えて、オペラ座界隈を歩いていると…ショウウィンドウにバレエシューズのような可愛い靴。ウィンドウをじーっと見つめること3分。実は、私坂崎は自他共に認める靴好き。本当は洋服よりも靴の方が好きかもしれない。店頭で立ち仕事の時は、足に疲労の激しいヒールの靴はNG。履ける靴が限られているにもかかわらず、自宅の靴箱には全部の靴を収めることが出来ず、ボール箱に入った靴が溢れている。あぁ、それなのに…頭の中にはお買い物協奏曲が鳴り響き、そのまま店に入って、ムッシュウに「この靴の36か37を見せてください。」と言っている自分がいた。その店の名はレペット、オペラ座近くのこの店はオペラ座のバレリーナ御用達のバレエ用品の店。バレエシューズを元に作られたタウンシューズはどれもどこかクラシックでチャーミング。私の選んだ一足はシニョンの黒、あぁ、またお買い物しちゃった。(日本へ帰って探してみたら、日本語のホームページがあって、日本でも買えるのにびっくり。ただしパリで買う方がずっと安いけれど。)

これはレペットの店先に飾ってあったシューズ。もうすっかり大人になってしまったというのに、このロマンティックな少女っぽさに弱いのです。

 そうこうしながら、一日の大半をトコトコ徒歩とバスでパリの街を徘徊。魔法のようなショウウィンドウを眺めて回っているうちに、夕方になってきた。フランスで普通に売っているものは、けっして日本製のものに比べて質が良い訳ではないし、そう洗練されている訳でもない。最近の日本のデパートでは世界中のものが売っていて、買えないものが無いと思えるほどだ。だが、やはりパリのウィンドウの魅力にはかなわないと思う。なぜだろう、照明の当て方だろうか、ディスプレイのセンスだろうか、どんなものでも魔法にかかったように垢抜けて素敵に見えてしまうのだ。
 そうなことを思いながら街を歩いているうちに、きっと100年前の女性達も私と同じ気持ちで街をそぞろ歩きしたに違いないと思い始めた。その頃には、今アンティークになっているものがごく普通にウィンドウに並んでいたのだ。その時代にさかのぼって見られたらと思わずにはいられない。今、私達が血眼になって探し回るアンティークが街中にザクザクあったかと思うと、「タイムマシンがあったら…」と思ってしまうのだ。

 今回も、沢山のアンティークを買付け、無事帰国しました。このたびも長々と最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。私達の買付けの様子が皆様に伝わりましたら嬉しいです。