バガテル庭園 Vol.2

たくさんの花をつけたポール仕立てのバラ。薄い花びら、愁いを帯びた淡い紫色が可憐な印象です。

 また今年も、美しいバラを見たさに、昨年訪れたブローニュの森近くのバガテル庭園を訪れました。遥か向こうに新凱旋門を望む“Porte de Neuilly”からブローニュの森とパリの北駅を結ぶ43番のバスに乗り、“Place de Bagatell ”で下車。今年はバスに乗る前に、お昼に食べるサンドウィッチと飲み物をしっかり買い込み、いざバガテルへと向かいました。


1820年に作られた品種“Rosa X L'heritierana”。こっくりした濃い色合いが魅力的なバラです。きっと当時の女性の髪を飾ったに違いありません。

 このバガテル公園、もともとの発祥は1777年、ルイ16世の弟であったアルトワ伯の命により作られ、マリー・アントワネットに奉げられたと伝えられています。現在でも彼の作らせたトリアノンを、当時の優雅な雰囲気そのままに、目にすることが出来ます。植えられているバラだけでも1800種類以上1万本といいますから、その数からもこの庭園のスケールがお分かりいただけるかと思います。また、年に1回6月に行われる国際バラコンクールは、世界的にも権威あるコンクールといわれています。

 実は、昨年訪れたときはちょうどバラコンクールの当日に当たり、いくつかあるバラ園のうちのひとつに足を踏み入れることが出来なかったことから、今回はその雪辱を期して出掛けました。バスを降りて、凧揚げのメッカとしても有名な広々とした草原と乗馬用の馬場を右手に歩くこと15分ほど、レンガで囲った高いバガテルの塀が見えてきました。このあたりは、市街地から少し離れていることもあり、パリの人々がくつろいだひと時を過ごしに来る場所でもあるのです。草原にひとりで日光浴に来ているビキニ姿の年配の女性がいたり、フランス人のおおらかさにびっくりさせられることも少なくありません。


どこか芍薬を思わせるバラ“Dam. York et Lancaster”は、なんと1629年に作られた品種と記載されていました。名前から推測するとイギリスから渡ってきたバラかもしれません。

 今年のバガテルは、数日前まで気温の低い日が続いたこともあり、満開にはまだ少し早いものの、バラの植えられた幾何学的な花壇の隅々を歩き、芳しいバラの香りを胸いっぱい吸い込んできました。フランスらしいからりと乾いた空気の中、バラの香り漂う花壇の間を心ゆくまで歩き回り、爽やかな風を一身に浴びると、日常の些細な悩みなどどうでもよくなってしまいます。バラ園を一望できる小高い丘に建てられた「皇后のキヨスク」で一服し、仕入れておいたサンドウィッチでささやかなピクニックと洒落込みました。


バラ園を望む小高い丘に建てられた「皇后のキオスク」。一段高台に建てられたあずまやには爽やかな風が舞い込みます。

 パリに近いにもかかわらず、街の喧騒をすっかり忘れさせてしまうのんびりした雰囲気。「皇后のキヨスク」からの遠く丘の連なる眺めは、どこか遠い田舎に来たような気にさせられ、連日買付けで歩き回ったパリの街の記憶が遠ざかっていくようです。「日常から離れて、こんなところでゆっくり一日過ごしたい。」と思わずにはいられませんでした。



「皇后のキオスク」の屋根の内側部分。細かな細工は、まるでレースを思わせます。

 そして、この時期といえば爽やかな戸外のテラスでのひととき。ご多分に漏れず、バガテルの庭園内にもレストランがあり、この日、眩しい日差しを避けてパラソルの下、たくさんの人々が集っていました。その様子が、華やかでもあり、またなんとも楽しげで、ルノワールの絵画「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」を彷彿とさせられました。私自身もいつの日か、また是非そんな機会に巡りあいたいと思い、バガテル庭園をあとにしました。


「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」を思わせるテラスのレストラン。パラソルの下でのお食事はとても気持ちが良さそうです。シーズン中は大賑わいなので、どうぞご予約を

 このバガテル庭園は、パリに数ある公園の中でも、私の大のお気に入り。バガテルで過ごす一日は、初夏のフランスを満喫できる大切な思い出になること間違いなありません。かくいう私自身も、仕事のことはすっかり忘れて、願わくば、一日ゆっくりここで過ごしたいものです。

Parc de Bagatelle
Route de Sevres-a-Neuilly
& Allee de champ
Bois de Boulogne
75016 Paris