パリのパッサージュ Vol.2

 

パッサージュ・ヴェルドーのエントランス。様々な人が通ったであろうこのパッサージュを覗くとそのまま19世紀へタイムスリップするようです。

 ここ最近、パリの街での私のお気に入りの場所は右岸にあるパノラマ、ジュフロワ、ヴェルドーと三つ続いたパッサージュです。パッサージュというのは、日本人には「アーケード街」といえば分かり易いかと思いますが、デパートも無いまだ19世紀半ば、人々が雨に濡れずにウィンドウショッピングできた唯一の場所として、当時は一世を風靡し、沢山の人々がつめかけたといいます。現在では、パリの左岸ではもうパッサージュは見ることが出来ず、セーヌ川を挟んだ右岸にのみいくつか現存しています。

 

ジュフロワの天井近くから下を歩く人々を見下ろす時計。その上には“1846年”の文字が!なんと日本ではまだ江戸時代だったんですね。

 パッサージュ・デ・パノラマとジュフロワは、グラン・ブールバールという19世紀からの繁華街であった大きな通りを隔てていますが、ヴェルドーとジュフロワは細い路地を一本隔てて続いているので、この三つをはしごするのは、さながらトンネルを三つくぐるような感覚です。最初にパノラマは、昔から続く活版印刷の印刷屋や同じく19世紀から続いていると思われる煤けた骨董品のようなサロン・ド・テ、傾いたタイル張りの床など、どこかうらびれた感じが印象的で、それがこのパッサージュの特徴といえるかもしれません。

ガラス張りの天井から明るい光が降り注ぐオテル・ショパンのエントランス。中はいったいどうなっているのでしょうね?この正面向かって左手に数段下に下りるための階段があります。

 パッサージュ・ジュフロワは、途中に蝋人形館のGrevin博物館があったり、オテル・ショパン(今回、オテル・ショパンは私でも十分泊まれる金額だと確認したので、いつの日か一度実際に、この19世紀から存在するホテルに宿泊してみたいものです。)があったり、その他にもセンスの良いおもちゃ屋パン・デピス(デジョンのデザートで“香料入りのパン”という意)や同じくお洒落な雑貨屋、ドールハウスの専門店、美味しそうなお菓子がいっぱい並んだパティスリー、映画関係の書籍やポスター、ブロマイドだけを扱った店、美術書の専門店などなど、歩く人を飽きさせないパッサージュです。でも、何よりこのパッサージュの特徴は、ほぼ中央にある階段ではないでしょうか。このパッサージュは、途中でクランクに曲がっており、その曲がり角は数段の階段になっているところが、なんとも意外性を感じさせ、このパッサージュのアクセントになっています。

クリスマス用に飾られたボヌール・デ・ダムの店先。実際にお洋服が着せられているのが微笑ましい等身大の婦人像が目印です。この像はいったいいつからここに居るのでしょうか?

そして最後のパッサージュ・ヴェルドーは、昔ながらの古書店が並ぶアンティークなパッサージュです。ここで特に目を引くのは、お店のエントランスに飾られたほぼ等身大のお人形、「ボヌール・デ・ダム(貴婦人の幸福)」の店先です。ここは、刺繍などの手芸用品のお店。ウィンドウには、素敵な刺繍の図案が魅力的にディスプレイされ、思わず刺繍をしない私でもじっと見入ってしまいます。

 

図案のサンプルとひいらぎを飾ったボヌール・デ・ダムのウィンドウ。クリスマスのディスプレイがひときわ華やかでした。

 
他にも、可愛い猫2匹が店番するアンティークカードを売る店や人が居るのかわからないようなひっそりとした古書店などが並び、ガラス天井のせいで不思議な明るさの、どこかタイムトンネルを思わせる空間になっています。こういったパッサージュ巡りも、アンティーク探しと同じく束の間の過去への時空散歩のように思われてなりません。これもパリという街が成せる技でしょうか?