パリの街角散歩
Rue Saint-Sulpice

パリではお馴染みのホーロー製の地名看板。辻ごとの壁にこうした看板がつけられるようになったのは、なんと1728年のこと。当時は黒文字の真鍮製のプレートだったとか。1844年当時のセーヌ県知事だったランビュトーによってこのような青地に白抜きのホーロー製に改められ、今では、パリの通り約5200のすべてにつけられています。
今回は、二週間のうちに5ヶ所を移動するという、時間的にハードな買付けだったため、なかなか普段行くことの出来ない他の場所へ足を伸ばす、ということはできませんでしたが、その代わりに僅かな時間をみつけて、パリで定宿にしているサンジェルマン・デ・プレ界隈の散歩を楽しみました。
サン・シュルピス通りの入り口にあるホテル。洒落たアイアンとガラスファザードが、どことなくアール・ヌーボーを彷彿とさせます。
私のいつも泊まっているホテルは、オデオン座のすぐ側、すぐ裏にはリュクサンブール公園を望み、便利な場所であるにもかかわらず大通りの喧騒から離れた静かな地域です。公園の敷地内にあるリュックサンブール宮から15分おきに鳴らされる鐘の音が、どこか哀愁を帯びて聞こえてきます。このあたりからサンジェルマン・デ・プレへ向う裏通りが私のお気に入りの散歩コースです。
ジビエ(狩猟)の季節に合わせた可愛いウサギのディスプレイは、帽子のプレタポルテ マリー・メルシェのウィンドウ。左側にさりげなく飾られているのはボルドーのベレー。
この辺りいったいは、ずっと以前アンティークに携わる仕事を始める前から何度か滞在したことのある思い出深い街。ことにいつもの散歩コースでもあるRue
Saint-Sulpice(サン・シュルピス通り)は、その当時から、アンティークのバスグッズを扱う店、美術書と写真集だけを集めた書店、カトリーヌ・メミなどの洗練されたインテリアショップ、ロウソクの専門店CIR、宗教具の専門店等など興味深い店舗が散りばめられていて、まだ若かった私が美しいショウウィンドウを憧れを込めて食い入る様に見つめていたことを、昨日のように思い出します。
ブルーのトワル柄で統一されているのは南仏プリントが有名なレゾリヴァードのウィンドウ。コロニアル風のインテリアがここ最近の流行のようです。
ことにアンティークのバスグッズや化粧小物を扱っていたBote
Divine(ボテ デヴィンヌ)は、ウィンドウに飾ってあるアール・デコの香水瓶や照明器具が幻想的で、その時代へタイムスリップするような不思議な感覚に、何度も立ち止まってウィンドウを眺めたものでした。やはりアール・デコのものでしょうか、“モガ”という感じの小惑的な女性が印刷された香水ラベルや、ウィンドウ中に深緑色のモスを敷き詰めて、その上に化粧小物を飾るディスプレイの素敵さは、今でも忘れることが出来ません。そんな魅力的なお店のひとつでしたが、残念なことに数年前に店を閉じてしまいました。
静かにウィンドウの中に佇むマリア像。クリスチャンでなくとも、どこからともなく敬虔な気持ちが湧いてくるようです。
古くは11世紀ころより南フランス特産の石灰質の粘土で作られたというサントン人形。現在でもプロヴァンス地方で作られ、ノエルには欠かせないキリストの生誕を模したミニチュアです。素朴でコミカルな可愛さが持ち味です。
他に私のお気に入りといえば宗教具の専門店です。この界隈は、サン・シュルピス寺院のすぐ側ということもあって、何軒かのカトリックの宗教具を扱う店が連なっています。マリア像やノエルに飾るサントン人形、金糸の刺繍が施された豪華な式服。私自身クリスチャンではないのですが、ウィンドウに静かに佇むマリア像や数々のメダイヨン、ロザリオは、非常に異国的なものを感じ、現代の物ではあっても、何かしらとてもクラシックで、過去とつながっているような不思議な気持ちにさせられます。
サン・シュルピス寺院と広場の噴水。サン・シュルピス寺院が着工されたのは17世紀半ば。工事は何度も頓挫し、ようやく寺院前に広場が出来たのが、19世紀の七月王政になってから。現在でも右側の鐘楼は未完成、壁面に細かな彫刻を施されることもなく、広場を見下ろしています。
足をサン・シュルピス広場まで進めて、一休み。ここから広場の前のカフェで一服しましょうか。それとも近くのマルシェでパテのサンドウィッチを買いましょうか?広場からお洒落なブティックが並ぶRue
Bonaparteへ折れてウィンドウショッピングを続けましょうか。