バガテル庭園

ロゼット咲きが愛らしいオールドローズ。淡く細かい花びらが幾重にもなった姿はオールドローズそのもの。

 前々から気になっていた場所。「秘密の花園」。バガテル庭園の薔薇園は、私にとってのそんなイメージのひとつでした。今までなかなか訪れる機会が無く、行く事の出来なかった場所でしたが、今回は、ちょうどバラの花咲くシーズンということもあり、夏のような暑さの6月の或る日、念願かなって足を運ぶことが出来ました。



カップ咲きの花形と薄い花びら、愁いを帯びた雰囲気が印象的でした

 バガテル庭園は、パリの西側に広がるブローニュの森の中に位置しています。ひとくちにブローニュの森と言っても、863hもの敷地のある広大な森ですから、その広さに怖気づいていたことと、私がいつも滞在する左岸のサンジェルマン・デ・プレ界隈からは非常に遠いと思っていたことが、今まで足を運ばなかった理由でもあります。



バラの茂みがあちこちに。こんもりと生い茂るオールドローズの周りをミツバチのように戯れます。

 実際に足を運んでみると、そんな不安を忘れてしまうほどアクセスは簡単で、ブローニュの森とパリの北駅を結ぶ43番のバスに乗り、パリの旧城壁の門である“Porte de Neuilly”を経て“Place de Bagatell ”で下車。そのまま道なりにまっすぐ10分ほど歩けばバガテル公園の門の前へ到着です。また、この“Place de Bagatell ”界隈は、パリ郊外のヌイイ市になり、パリの背の高いアパルトマンが立ち並ぶ街並みとは違った、ゆったりした敷地のお屋敷街が続いています。
 さて、“Place de Bagatell ”からの道すがら、バガテル庭園の石造りの塀の上からはちらちらとバラの花が咲き乱れるのがうかがえ、バラの芳香が風にのって甘く漂ってきて、期待十分となったところで庭園の門に到着しました。



原種に近い種類でしょうか。どことなく桜を思わせる小さな花がびっしりついていました。

 もともとこの公園は、薔薇園だけでなく、森を巡る散歩道がしつらえてあり、あずまやあり白鳥や鴨のいる池あり、孔雀までいて、一日ゆったりした気分でピクニックを楽しむには絶好の場所です。また、18世紀末に建てられた城館が過ぎ去った昔の日々を彷彿とさせる雰囲気があったり、パリに近いにもかかわらず、街の喧騒をすっかり忘れさせてしまうかのようなのんびりした雰囲気です。

オールドローズでは数少ないとされる黄色の色あい。「バラの図譜」で見た黄色いバラを思い出しました。

 そしてお目当てのバラですが、日頃ルドゥテの「バラの図譜」を扱ってきた私にとっては、まるではるか1700年代にルドゥテがナポレオンの后ジョセフィーヌの命によってバラを描いたその時代にタイムトリップしたような気持ちになった不思議な瞬間でした。それこそルドゥテの「バラの図譜」そのもののオールドローズの数々や、日本では、目にしたことの無い様々なオールドローズを見て、「これよ!これ!」とひとり頷いてしまったのでした。
 聞くことによると、バガテルのオールドローズは、当時ジョゼフィーヌが作らせた品種そのままだとか。「これこそ原種に近い種ではないかしら?」とか「これバラの図譜に載っていたわ。」と、まるで花園に迷い込んだミツバチのように忙しく花の周りを行ったり来たり、甘い香りを楽しんだのでした。



美しいサーモンピンクの花びら。花びらの縁がギザギザしたユーモラスな姿でした。

 そんなバガテル庭園での優雅なひとときでしたが、庭園の西側をのぞむと彼方にはラ・デファンスの新凱旋門グランド・アルシュなどの高層建築が立ち並び、庭園とその光景のアンバランスさになんとも複雑な気持ちにさせられました。