ミシュランビル

ブロンプトン・クロスにたたずむミシュランビル。1906年に竣工したエドワーディアンです。

 皆さんは「ミシュラン」という名前を耳にしたことがありますでしょうか?一番馴染みがあるのが、パリのホテルやレストランの格付けではないでしょうか?「三つ星」とか「四つ星」と言われるあれのことです。もともとはフランスのミシュラン社が出版したロードマップや旅行書に記載されたホテルやレストランの格付けを示す目安でしたが、今ではそれ自身が権威を持ち、その業界では重要なランク付けとして認識されているようです。もともとミシュラン社は、1832年にフランスで設立されたタイヤメーカーでしたが、車社会の発展に伴う地図や旅行ガイドの制作にも力を入れ、現代のヨーロッパでは「ミシュラン」といえば地図の代名詞にあげられるほど、その地位は確固としたものです。

これが正面のビバンダムのステンドグラス。

 さて、そのミシュランですが、ロンドンでの拠点だったチェルシーに位置するミシュランビルは私の大のお気に入りの建物です。現在ミシュラン社は入居しておらず、あのコンラン卿率いるコンラン・ショップとなっており、内部はすっかり近代的に改装されていますが、その外観は当時の面影を十分に留めています。これは余談になりますが、もともとコンラン卿という人は、「由緒ある建物好き」のインテリなのでしょう。パリのコンランショップも、世界で最初に出来たとされるデパート ボン・マルシェの所有していた建物の中に入っています。

壁面は、1800年代末のカーレースの様子を模したタイルの数々で飾られています。

 もとはといえば、ミシュランビルがあるスローン・アベニューとブロンプトン・ロードの交わるブロンプトン・クロスと呼ばれる交差点、このチェルシー界隈は、シャネルやKENZO、アニエスbやフランスワインのチェーン店ニコラなどフランス資本の洗練されたお洒落なショップが集まるところとして知られています。
 そういう私もご多分にもれず、仕事から離れたひとときに、このあたりを散策するのがロンドン滞在の楽しみのひとつで、ウィンドウショッピングのかたわら、いつもミシュランビルの周りをぐるりと歩き回り、ビルの壁面を眺めては、「なんて可愛いんだろう!」とひとり感嘆しています。特にビルの正面、両端の白く段々のドームのようになった部分は、ミシュランのマスコットでもあるビバンダム(もともとはタイヤ男という意味合いで、デザインされたもの。)を模したようで興味深いですし、その他にもビバンダムをモチーフにしたステンドグラスや装飾には、ミシュラン社のユーモアが感じられます。1906年に建造された建物自体、アール・ヌーボーの影響の感じられる不思議なこのビルは、現在ロンドンの歴史的建造物となっており、今もコンラン・ショップとして生き続けています。

これもタイルで出来た壁画ののひとつ。ビバンダムの足の裏はタイヤのトレッドパターンになっています。ビバンダムが悪路を蹴り上げている姿とか。

ミシュランビル〈番外編〉

京都の七条通りで見つけた「富士ラビット」ビル。どこかで見た記憶が...ロンドンからこんなにも離れた極東の古都にミシュランビルの面影を見つけました。1925年大正時代に輸入車を扱う会社のショウルームとして建てられたモダン建築です。