ヴィダル・サスーンでのヘアカット

 ヴィダル・サスーンといえば、美容の世界で、初めてカットを理論的に定義したことで有名ですが、以前、私のロンドンでの買付けの楽しみのひとつが、ヴィダル・サスーンのサロンでのヘアカットでした。しばらく前までは、買付けのたび、滞在しているフラットからも程近い、チェルシーのスローンストリートに位 置するヴィダル・サスーンのサロンに予約を入れて、ヘアカットに行っていたのですが、担当のKAJAがいなくなってからは、なぜか気がそがれてしまい、ここ最近は、足を踏み入れることがなくなってしまいました。もともと、何年も前に日本で私の髪を切ってくれていたフリーのヘアメイクの女性が、ロンドンのヴィダル・サスーンのスクール出身だったこともあって、「坂崎さんの髪質にはヴィダルのスタイルがぴったりだから、一度行ってみては?」勧められたのが発端です。

 スローン・ストリートと交差するスローン・アベニュー。表通りの華やかさとは裏腹に一本奥へ入ると閑静な住宅街が連なっています。


 ヴィダルのサロンは、完全予約制。地階は、カットとシャンプーのフロア。パーマやヘアダイなどのケミカルな部門はダウンステアと担当もきっちり分かれていました。料金にしても、一番ハイクラスのディレクターから一番下のスタイリストまで、担当者のランクによって、いくつものクラス分けがなされています。確か当時、一番下のスタイリストでカットが50ポンド弱だったはずですから、日本円で8,000円程度。少し割高に感じるかもしれません。また、人それぞれですが、その他にも、担当者へのチップが必要となります。

 毎年沢山の花をつけるバラの生垣。こんな街並みを散策するのもチェルシーならでは。


 BTの電話案内で電話番号を調べ、カットの予約を入れた後、初めてサロンを訪れた際は、自分の英語力で、果 たしてどこまで希望通りリクエストすることができるかドキドキしながら足を踏み入れたものでした。まずレセプションで受付を済ませ、クロークに荷物を預け、ローブを着せられると、「何にしますか?」との質問が。ヴィダル・サスーンのサロンでは、紅茶やコーヒー、ミネラルウォーターなどのドリンクがサービスされるのですが、初めての体験でドキドキしている私は、ドリンクのメニューについて聞かれているにもかかわらず、「クラシカルなボブスタイルにして。」と言ってしまい、苦笑されたのも、懐かしい思い出です。

 チェルシーでみつけた、紫の色合いが彩やかなクレマチス。イギリスの初夏は、一年で一番華やかな季節です。


 そして、なんと「こんにちはー!」と日本語で挨拶され、びっくりしたのがKAJAとの出会いでした。彼女は、大阪出身の20代後半。歯切れのよい大阪弁とミステリアスなメイクがチャーミングな女性でした。語学留学でロンドンへ来て、その後ヴィダル・サスーンのスクールを卒業したとのこと。そのままサロンで働くようになった腕前からして、きっと優秀だったに違いありません。カットのスペシャリストで、彼女の作る切れ味の鋭いシャープなボブスタイルは、何年かの間私のお気に入りだったのですが、残念なことに彼女は、スローンストリートのサロンから姿を消してしまいました。最後に会ったときに「近々スクールの方で、教える仕事をするかも...。」と言っていた言葉を思い出すと、今頃は、学生相手にカットの講義をしているのかもしれません。

 ヴィダル・サスーンでカットの後は、チェルシーを散策して帰ります。アンティークのフレンチプリントを再現したこのショップのディスプレイは、チェルシー散策の楽しみのひとつ。