オペラの夕べ

 買付の大きな楽しみのひとつは、といえばオペラやバレエを見に出掛けること。日本では、出張が多いこともあってまずコンサートなどに足を運ぶ機会がないのですが、パリのオペラ座では、スケジュールさえ合えば公演の2〜3日前でもチケットを手に入れることが可能なので、買付でパリを訪れるたび、公演の演目をチェックするのを楽しみにしています。

 そもそも、私がオペラを見るきっかけになったのは、学生時代にヨーロッパを巡る旅の途中で立ち寄ったウィーンで、たった200シリング(当時のレートで日本円で¥200位 )で、ウィーンフィルの本拠地である国立オペラ座の立ち見席のチケットが買え、毎日のようにオペラを見ていた経験からです。日本とは違って、シーズンであればオペラ座で連日のように公演のあるヨーロッパの国々では、オペラやバレエ、コンサートなどは日常的な楽しみのひとつでもあります。特に、お洒落をしてあのオペラ座の階段を上がる時の非日常的なわくわくした気持ちや、いかにも「社交界」という雰囲気の華やかな女性のイブニングドレス姿など、日本ではなかなか味わえないものの一つではないでしょうか。

 私自身は、それほど音楽に造詣が深いほうではありませんが、オペラの壮大な舞台装置や、美しい衣装、そして何よりも人間の声という素晴らしい楽器が奏でるスペクタクルは、他の何にも換え難いものがあります。特に、それぞれの歌手が長いアリアなどを歌い終わった後の客席と一体となったあの達成感、昂揚感には、生でしか味わうことの出来ない醍醐味があります。今回はヴェルディの「リゴレット」の公演を見て、その衣装や舞台の背景から、小説家塩野七生が描くイタリアの中世の世界を彷彿とさせられました。「きっと、チュ−ザレ・ボルジアやメディチ家の人々もこんな世界に生きていたに違いない。」などと、遠いイタリアに思いを馳せつつ、舞台全体を楽しみました。

  残念ながら現在のパリでは、クラシックな建物の旧オペラ座パレ・ガルニエではオペラの公演は行われていませんが、バレエやクラシックのコンサートの公演は行われていますし、内部の見学も出来るので、もしパリに滞在の際は、お出掛けになるのも興味深いかもしれません。ガルニエの手による第三帝政様式と呼ばれるこの建物に足を踏み入れるだけでも、古き良き時代の貴婦人達のドレスの衣擦れの音が蘇ってくるような気がするのです。

 旧オペラ座のパレ・ガルニエ。パリの中の一大モニュメントでもある旧オペラ座。当時 36歳のガルニエがナポレオン三世の前で「これは何様式か?」と聞かれ、ぬけぬけと「第三帝政様式です。」と答えた話は有名です。


 薄暗いパレ・ガルニエの内部。内部は総大理石張りで、否が応でもオペラの気分を盛り上げてくれます。チケットの売り場であるボックスオフィスは、このすぐ隣。オペラ・バスティーユのチケットもここで手に入れることが出来ます。


 ロマンテックな明かりが灯ったパレ・ガルニエ内部。貴婦人が衣擦れの音と共に現れそ うな雰囲気です。


 1875年に作られた旧オペラ座は、アンティークで言えば立派な「ナポレオン。(トロワ)」 となります。砂を吹き付けての外壁の清掃も昨年に終わり、21世紀を迎えました。


 バスティーユ広場の七月革命記念柱と新オペラ座オペラ・バスティーユ。1989年に建てられた建物自体の趣はありませんが、公演前や幕間にバーで、バスティーユ広場を眺めながら楽しむシャンパンやマカロンの味は格別です。