パリのパッサージュ


ヴェロ・ドダは静かな静かなパッサージュ。ここは100年以上前に時間が止まっているのです。

 パリの街で、私の好きな場所の一つにパッサージュがあります。パッサージュというのは、日本でいうアーケード街のようなもの、といえば分り易いでしょうか。パリの街の中にいくつかあるパッサージュのうち、そのほとんどがガラス屋根で、明るい陽光がさしこみ、作られた18世紀末から19世紀前半当時は最新流行の散歩道としてその当時の人々に親しまれていたようです。時代は21世紀になっても、そんな当時の雰囲気に浸りに、ついつい足を伸ばしてしまうのです。

 

アンティークドールのロベール・カピアの店先。一世紀という時間を超えて、まるでかげろうのようにたたずんでいました。

 私がよく立ち寄るのは、パレロワイヤルからも程近いギャルリー・ヴィヴィエンヌとギャルリー・コルベール。この二つのパッサージュは、双子のようにつながっていますが、ヴィヴィエンヌのほうは、お洒落なブティックや美しくワイングラスをディスプレイしたワイン専門店など、現代に沿った店舗の並ぶ美しく華やかなパッサージュになっており、一方コルベールのほうは、国立図書館が買い取ったため、たまにオペラの衣装などを展示している他は、がらんとした雰囲気のままで当時の雰囲気を伝えています。

ヴェロ・ドダとはうって変わって明るいパッサージュ。ここギャラリー・ヴィヴィエンヌは現代を生きるパッサ-ジュなのです。

 パッサージュ・ド・ケールも興味深いパッサージュの一つです。ここは、パリで現存する最古のパッサージュでもあり、もともとケール(カイロ)という名前からも分るようにナポレオンのエジプト遠征にちなんで名づけられました。ここは、洋服の問屋街の側であることもあって、マネキンやポップなどの店舗用品を扱う店舗がずらりと並び、イスラム系の人々の多さとその迷路のような構造も手伝って、一瞬自分がどこの国いるの分らなくなるような不思議な錯覚に襲われる場所です。

ギャラリー・ヴィヴィエンヌの床のモザイク。いにしえの雰囲気そのままに、当時の華やかさを伝えています。

 そして、私の一番のお気に入りがギャラリー・ヴェロ・ドダです。ここは、1826年に当時の裕福な肉屋ヴェロとドダによって作られたパッサージュです。作られた当時はその頃の最大の盛り場パレロワイヤルからも近く、一世を風靡したようです。しかし1世紀以上たった今、ロベール・カピアのアンティークドールの店や古書店や古楽器屋など過去に向かう店舗がひっそりと営業し、さながら1840年代から時間が止まってしまったかのようです。場所的には、ルーブルからもすぐということもあり、19世紀の空気が吸いたくなると、ここへ来て静かな回廊をコツコツ歩き、ノスタルジアを満喫するのです。