ユーロスターでのひとコマ

 いつも買付では、イギリスとフランスの両方の国を渡り歩いていますが、その移動手段には、ユーロスターを利用することがほとんどです。ユーロスターは、ロンドン−パリ間を約3時間で走る国際列車ですが、ご存知のようにイギリスとフランスは陸続きではないため、ドーバー海峡の下を潜り抜けて走ります。実際に海底のトンネルを通 過するのは20〜30分ぐらいでしょうか。学生の頃にフェリーや飛行機を使ってフランスからイギリスへ渡った経験のある私にとっては、初めて乗ったとき「なんと便利になったことでしょう!」といたく感動したことを良く覚えています。ロンドン−パリ間というのは、飛行機ではたった1時間足らずの距離ですが、なにしろどちらの都市も街の中心部から飛行場までの距離がかなりあり、さらにチェックインの時間を考えると、それぞれロンドンだったらWaterloo駅、パリだったら北駅と、街から街へ1時間毎にじかに移動できるユーロスターは、画期的な乗り物です。

 ロンドンに住むMichaelに出会ったのも、そんなユーロスターの列車の中でした。たまたま隣り合わせたきちんとした身なりの黒人の彼に、「あなたの隣に置いてある雑誌を取って下さらない?」と声をかけたのが、きっかけです。彼は、ロンドン在住の32歳。ロンドンに住み始めて3年目、ナイジェリア出身で、本国のmaster(修士)の資格があると言っていたので、きっとナイジェリアではエリートなのでしょう。自分のことをアムネスティ・インターナショナルのロンドン支部に勤めていると紹介し、「何か人権を侵されたときには、いつでも相談して。」とネームカードをくれて、冗談を言っていたので「大丈夫。中国では色々問題があるみたいだけど、日本ではまず問題ないわ。」と笑いながら答えていました。パリまでは仕事で行くとのこと、その間の3時間は、彼の奢りのワインを開けつつ、お互いの仕事のこと、日本のこと、イギリスのこと、たくさんのおしゃべりを楽しみました。

 特に彼の故郷ナイジェリアの話は興味深く、「ナイジェリアって何語なの?」と聞く私に「公用語は英語だけど、ナイジェリアには地方によってローカルな言葉が250種もあって僕にも良く分らないんだ。」と教えてくれ、「9人兄弟(!)で育ったから、ロンドンの一人暮らしは淋しくて。」と呟いていました。「ねぇ、いつも食べているナイジェリアの食べ物は何?」と聞く私に「う〜ん、“フーフー”かなぁ。」と答えてくれ、「フーフー?何それ!?」とさらに聞く私に「“フーフー”だってばぁ!」と言うので、二人で吹き出してしまいました。どうもそれは、アラブ料理の“クスクス” に似たもののようです。「今度、僕のうちへ遊びにおいでよ。料理が好きだから、君の為に美味しいディナーを作ってあげるよ。」という誘いを「うん、また今度ね。」などと軽くかわし、楽しく過ごした最後。どうも、私の英語がおぼつかないせいか、なんとなく「子ども扱いされているなぁ。」と感じて、彼に「ねぇ、私いくつに見える?」と尋ねるとごく自然に「21歳ぐらい?」と言う答えが返ってきて、あ然としました。そういえば、以前もイギリスの田舎の酒屋で「本当にadultなの!?」としつこく聞かれ、ビールを売ってもらえなくなりそうだった(イギリスでは、未成年に酒類を売ると、売った側も処罰される)経験があったことを思い出し、(日本人女性は、私だけではなく誰でも子供っぽく見えるらしく、フランス在住の知人の女性など20歳ぐらいサバ読むのはザラと言っていました。)「そうだ!私のパスポート見る?」と言って、私の本当の年齢を知った彼の顔といったら!なんとなく、「してやったり」という気分で、パリに到着したのでした。

チケットと時刻表。ユーロスターは、完全予約制。発車の20分前にチェックインが必要です。


使い込んで年季の入ったスーツケース。国境を越えることになるのですから、パスポートチェックや、荷物のレントゲン検査はもちろんですが、以前、発車寸前に、危険物が載せられた情報が入ったとかで、急きょ乗客全員の荷物検査が行われたことがありました。

ロンドンは、Waterloo駅から。車内のアナウンスも、最初は、英語そしてフランス語の順ですが、
国境を越えると逆転します。

私は、残念ながらセカンドクラスしか乗ったことがありませんが、ファーストクラスに乗ると、飛行機の機内食のようにお食事が出るそうです。

コーポレートカラーは、ネイビーブルーとイエロー。どちらかといえば、フランス的な感じがします。