ヴィエノワーズのカード

ヴィエノワーズの名作ともいえる少女とさくらんぼのポストカード。あどけない少女の表情が際立っています。


 私が扱う紙製品、ポストカードの種類のひとつに「ヴィエノワーズ」と呼ばれるカードがあります。このヴィエノワーズ、「ウィーン趣味」という意味のフランス語ですが、コロタイプ印刷という手法でウィーンで発行された一連のカードのことを総称して、フランスではこう呼ばれます。ヴィエノワーズのカードは、時代衣装を身につけた女性像や子供など、繊細でノスタルジックな雰囲気が魅力、特にM.ムンク社で発行されたものが有名です。

同じエンジェルのモチーフの柄違い。可愛いエンジェルがお届けする新年のグリーティングです。


 コロタイプ印刷の発祥は、1867年にドイツで発明されたとも、ほぼ同時期にフランスで生まれたともいわれています。リトグラフなどの「石版印刷」と同様な平版ですが、リトグラフが版に石灰石やジンク板を用い、版の表面をアラビアゴムなどで科学的に処理したのとは違い、コロタイプ印刷の場合には表面に感光性ゼラチンを塗布した磨りガラスを用います。

母と子のモチーフを数多く目にするのもヴィエノワーズのカードの特徴です。優しい親子の像は私もお気に入りでもあります。


 コロタイプ印刷は、質の高い網点の無い連続階調による滑らかで深みのある質感・表現が特徴で、これらポストカードをご覧いただいても、その階調の美しさが十分お分かりいただけるかと思います。大英博物館の収蔵品の複製に使われるなど、その緻密な表現は他の追随を許しませんでした。

“滑らかで深みのある表現”そんな言葉がぴったりなエンジェルと女神がモチーフの一枚。

 また、コロタイプインクという耐久性に富んだ特殊なインクを使用したことも特徴のひとつです。ただし、この印刷は単色(モノクロ)表現に限られた為、「ヴィエノワーズ」のポストカードでは、モノトーンかもしくはそれに着色したものが主流です。

コロタイプ印刷のカードは単色か、もしくはそれに手彩色を施したもの。同じ図柄のカードでも、こうした微妙な色違いのものを目にすることもあります。


 折しも1900年初頭、ポストカードの黄金期を担ったひとつの重要な理由ともいえるコロタイプ印刷ですが、やがて1920年代になり、オフセット印刷の登場とともに、一版につき500ないしは700枚といわれる対刷性の低さがネックとなって、消え去る運命にあります。
 ただし現在でも、印刷の質が重視される美術品の複製には、このコロタイプ印刷が使われています。

美しい雪景色のシリーズ。こうした冬景色のカードは、季節感溢れるクリスマスや新年のグリーティングとして好まれたようです。