エナメルジュエリー

今まで扱ってきた数々のエナメルジュエリー。クリックしていただくと大きな画像でご覧いただけます。


 数あるアンティークジュエリーの中でも、私の心に一番しっくりくるジュエリーといえばエナメルジュエリーかもしれません。そのガラス質の冷たくもしっとりとした質感や、何よりも美しい色合い、ロケットなどの細工になった楽しさ、どれをとっても静かな魅力が感じられる独特な雰囲気を持つジュエリーです。

 エナメルは、エマーユとも呼ばれ、酸化化合物を含んださまざまな色彩のガラスの粉末を金・銀・銅の金属片に焼き付けて表現する技法で、日本の七宝と同様なものです。こうしたエナメルの技法は、遠く古代エジプトやメソポタミアまでさかのぼり、紀元前1600年頃古代エジプトでガラスを作るときに発見されたものといわれています。中世やルネッサンス、そして19世紀に流行がみられ、さまざまな種類のエナメルが作られました。

 こうしたエナメルの種類には、リモージュ、スイス、プリカジュール、ギョシェエナメルなどがあります。リモージュエナメルは、フランスのリモージュを中心に作られた技法で、黒やグレーなどのエナメルの上に、白を何回も重ね、モノトーンによって表現するところが特徴となっています。一方、スイスエナメルは、スイスのジュネーブを中心に作られた技法で、中間色を何色も重ねることによって、風景や人物像などを表現しました。色合いのデリケートさや、繊細な表現に特徴があります。また、プリカジュールは、日本では「省胎七宝」と呼ばれる裏側の金属が無く、ステンドグラスのように見える七宝のことです。アール・ヌーボー期のラリックの作品などに見られる技法ですし、アンティークのロシア製のカトラリーでもよく見る技法ですので、一度ご自身で探されてみるのも良いかもしれません。

 そして私がこよなく愛するギョシェエナメルは、帝政ロシア時代イースターエッグの作者として有名だったファベルジェの得意とした技法として知られています。金属の表面に同心円、放射状など繊細な模様を彫りこみ、そのうえに半透明のエナメル質をかけたもののことです。金属の彫刻の上にエナメルをかけると、その彫刻の深い浅いによって、エナメルの色が濃淡が生まれ、色合いの深みにつながります。18世紀には、すべて手彫りで彫られていましたが、19世紀になりエンジンターンと呼ばれる旋盤による機械彫りが可能になると数多くのエナメルジュエリーが生まれました。ブローチやペンダントトップなどのジュエリーのほか、女性物の懐中時計等にもよく見られる装飾技法です。

 その繊細でデリケートな表現、そして何よりも滑らかな質感は、宝石を使ったストーンジュエリーとはまったく雰囲気を異にし、アンティークジュエリーの別な魅力を私達に教えてくれるような気がします。