リストウォッチ

不思議とかっちりした形の物ばかりが集まってしまったリストウォッチ。アンティークの物だけを集めてみました。

 私の好きな物、腕時計はリングやブローチやネックレスなど数あるアクセサリーのうちで、実は一番好きなアイテムかもしれません。何より「自分の好みを出張する」という意味あいのほか、常に時を刻む道具でもある点に、一番の魅力を感じます。まるで命があって生きているような...そんなふうに錯覚するほど時計には特別な思いがあります。

唯一持っているメンズウォッチ 1940年代のハミルトン製。メンズウォッチなのに小ぶりなところとつるりとしたカマボコ風防が気に入っています。ゴールドのインデックスを植字したアップライトダイヤルに当時のこだわりを感じます。裏側にはD.O.Jのイニシャルが。

 そういう理由もあって、私の手元には、アンティークの物も含めて、思いがけずいくつもの時計が集まってきました。その中でも、やはりアンティークの物は、竜頭を巻くとカチカチ動き出す、眠っていた時計が目覚めるようなシュティエーションが、とても好きです。思えば、まだ学生の頃から祖父の形見の時計を譲り受けて、カジュアルな服装に少し古びた腕時計を合わせて楽しんでいたように思います。

アンティークウォッチのデビューだった思い出の時計。ホワイトゴールド張りの1930年代のエルジン製。ケースの個性的な形はまだ小さなムーブメントが出来る前の時代のもの。特徴あるインデックスもお気に入り。ケースいちめんに施されたエングレーヴィングは当時の手仕事ならではです。

 もともとヴィクトリアンの時代の女性用の携帯する時計といえば、エナメルや宝石・金細工の施された贅沢で小ぶりな懐中時計のことを指し、1920年代にニューヨークのジュエリーメーカー・ブローバが出した物が女性用では最初の腕時計とされています。その後、一般的に腕時計が使われだしたのは1930年代ですから、アール・デコの時代を経て、服装もようやく現代に近くなってきた頃です。その当時、腕時計のケースに入るほどの小さなムーブメントを作る技術や、常に腕につけて動かしても大丈夫なように対振動装置の技術が開発された事、何よりもヴィクトリアンの時代と違って、女性も外に外出する機会が多くなったことも、腕時計が一般的な物になっていった理由にあげられると思います。

本当に小さい、そのシックな姿に一目惚れしてしまった1930年代のエルメス製。自分では開けることが出来ませんが、ルビーが数石使われているムーブメントの美しさにも心打たれました。

 1930年代とはいえやはりアンティークの物ですから、当然、現代の時計には無い様な細工にも惹かれます。例えばケースに施された手彫りのエングレーヴィング(彫刻)とか、フェイスにひとつひとつ留められた金属のダイヤルや、贅沢に宝石を使ったムーブメント、どれもそれが作られた時代、熟練した職人が生み出したであろうその仕事に、ひとしおの敬意と愛着を感じます。
 もともと私自身が辛口の好みのためか、フェイスも丸みの優しいオーバルやラウンドよりもスクエアや幾何学的なかっちりした形が好きだったのですが、そういった中でも私の一番のお気に入りは小さなオクタゴン、1930年代のエルメス社の物です。ダイヤの嵌ったカクテルウオッチなので、本当は、普段にしょっちゅうはめる物ではないことは分かっているのですが、ついつい手にしてしまいます。その時計に出会うまで、ダイヤやルビーなどの石が嵌ったのカクテルウオッチは、何か自分には相容れないけばけばしい派手さを感じて、今ひとつ魅力的に感じませんでした。にもかかわらず、偶然ロンドンで出会ってしまったこの時計は、その小さめプラチナのシックな姿に文字通り目を奪われてしまいました。まだまだ私には大人過ぎて、不相応かとも思いましたが、ロンドンでの一週間の熟考の果て、私の手元にやってきました。

 思えば、自分自身の為に本当に気に入ったリングやブローチなどのジュエリーを求める時というのは、何か自分の中でも節目であるような気がするのです。いつの日か、本当に素敵なジュエリーが似合う女性になりたいと願わずにいられません。