エナメルボタン

様々なエナメルボタン。美しい発色はエナメルならでは。

 子供の頃、母の裁縫道具のボタンの箱の中から、色とりどりのボタンを辺り一面に並べておはじきをしていたのは、いつの日の事だったか。様々な色や形をしたボタンが、子供心に面白く、どれだけ眺めていても飽きなかったことを覚えています。大人になった今でも、ボタンに対して興味や愛情を感じてしまうのは、そんな体験からでしょうか。
 アンティークのボタンには、マザーオブパールやガラス、カットスティール等のメタル、他にも様々な素材を使った物を見ることが出来ますが、その中でも私の一番のお気に入りは、「フレンチエナメル」と呼ばれるエナメルボタンです。エナメルとは、いうまでもなく七宝焼きのこと。当然ハンドペイントの手仕事になりますが、このわずかな直径のサイズのボタンに小さな小さなバラの花が描かれている様子には、見るたびに思わず小さな微笑が浮かんでしまいます。

お気に入りのエナメルボタン製のリング。エナメルボタンをゴールドで加工してみました。これまでも、お客様からのオーダーも含め、いくつものボタンを加工してきました。

 アンティークのエナメルといえば、女性用の懐中時計に施されたスイス・エナメルが有名ですが、エナメルがジュエリーに使われるようになった歴史は古く、中世やルネッサンスの頃からエナメル製のジュエリーは人気を博していたようです。こうしたエナメル素材がボタンに使われるようになったのは1830年頃からで、産業革命後の19世紀末まで手作業で作られました。それまでの素材と違い、より華やかな表現が出来るようになったことがエナメルの大きな魅力で、鮮やかな色あいや、細やかな表現のボタンが数多く作られました。

ボタンを襟元に飾って。お洋服の裏側からピンで留めたり、ハットピンを利用したり。画像は、ボタンをハットピンで留めたものです。この他にも、ベルベットのリボンに付けてチョーカーにするのもおすすめです。

 エナメルボタンといえば、5個から30個のセットでボックスに入っている物がもともとの形で、当時は洋服に直接縫い付けるのではなく、付属の金属部品がついていて、次々違う洋服にセットできるようになっていました。また、実際に付けられたのは男性の衣服が主流で、豪華な宮廷用の衣服に付けられていたようです。当時としては、ボタンも大切な財産のひとつとしてジュエリー同様、代々受け継いでいく物のひとつでした。
 一言にエナメルといっても、エナメルとカットスティールを組み合わせた物、周囲にトルコ石をはめ込んだ物、透かしになった物など、その表現は様々で、当時の人々が競って美しい物を身に付けた心意気が伝わってくるようです。