シルバーのコンパクト

 私が持っている数少ないジュエリーのコレクションのひとつにシルバーのコンパクトがあります。シルバー製のそれは、スライドすると片側が蒸着銀のミラーになっていて、厚みがやや薄い点を除けば、懐中時計のようにも見えなくもありません。

 普段、ジュエリーというとゴールドの物を身につけることが多いのですが、これに限っては、パートナーからのプレゼントということもあって、シルバーの温かみのある質感を楽しんで身に付けています。また、いつもはアンティークのブラウスに合わせてつけることが多いのですが、シルバーという質感は、モダンな雰囲気にも合わせ易いので、黒のセーターを着たときなどにつけるのもお気に入りです。


私の持っている物は、バラの小花を浮き彫りにしたもの。フランスらしい洒落た雰囲気とシルバー特有の温かみがお気に入りの理由です。

 私自身のコンパクトはバラの柄ですが、以前すずらんの柄の物を見つけたこともありますし、それ以外でもアール・ヌーボーの特徴ある文様など、いかにも19世紀末のフランスらしい味わいを持つものが多いように思います。また、アクセサリーとして身につけるには、少し大ぶりですが、チェーンを通す金具がついていること、装飾的に作られていることからして、当時の女性は、やはり身につけて楽しんでいたのではないでしょうか。


アンティークのアイリッシュクロシェのブラウスにコンパクトのお気に入りの組み合わせ。同じフランス製だからでしょうか、しっくりと合うように思うのですが...。

 私の持っている物は、「ポートベロー(ロンドンの蚤の市)で見つけたから...。」という言葉とともにプレゼントされたのですが、その後、ロンドンから何百キロも離れたフランスの田舎で同様なコンパクトを見つけた時には、とても不思議な思いにかられたことを良く覚えています。確かに19世紀末、イギリスの貴婦人達の間でも、フランス製のジュエリーは独特のエレガンスで人気を博したに違いありませんが、パリからも遠く離れたフランスの片田舎にも、同じようなコンパクトを愛した女性がいたということが、またそれから100年以上経った現代でも、同様に気に入って身につけている私自身がいるということに、何時の時代になっても、何処の国にあっても、変わることのない女性の性のようなものを感じます。