フランスのポストカード
〜めくるめく紙の世界〜

 私のお気に入りのひとつに「紙もの」と呼ばれるポストカードがあります。特にフランスでは、アンティークの中でも紙製品の占める地位は高く、私も、Salon du Papiers Anciens といわれるいわゆる「紙もの」だけを集めて開催されるフェアには必ず足を運びます。そういったフェアの会場では、カード、切手、証券、お札、ポスター、新聞、雑誌、書籍、写真等など、ありとあらゆる紙素材のアンティークが集められており、私のお目当てのポストカードについても、「フランス中のポストカード業者が集まる」といった感じの、それは興味深い大がかりなフェアなのです。こうしたフェアの会場の中には、それぞれのブースに椅子とテーブルが用意されていて、長時間かけて、お目当てのカードを選べるようになっています。膨大な量のカードから一枚一枚辛抱強く真剣に選ぶ様子は、普段なかなか見ることのないフランス人の隠れた面を見るようでもあります。

 私がコレクションしているHelrna Maguireの手による猫カード。リアルながらお茶目な猫の表現が魅力です。お気に入りのカードに、タイトルをつけてみました。これは「お見舞い猫」猫同士の喧嘩でやられたのでしょうか?

 このような紙もの専門のフェアですから、アール・ヌーボーのイラストレーター アルフォンス・ミュシャの手による大変高価なポストカードに巡り会ったり、アール・デコ特有のポショワール版画のカードを手にしたりと、なかなか普段お目にかかれないようなレアなカードを目にすることが出来る貴重な機会です。そんな経験のひとつひとつが、アンティークディラーとしての楽しみでもあります。

「猫の軽業師」生真面目な顔つきの猫の姿がなんだかけなげです。

 アンティークのポストカードの中でも、私が扱っているようなイラストレーションのカードは、フランスではfantasie(ファンテジー)と呼ばれており、1900年代初頭にもともとドイツで印刷された物が多いのですが、特にフランス向きに刷られたものは、色合いがデリケートで、デザインも洗練された物が多いように思います。当時の印刷は、現在の版画のリトグラフと同様の石版印刷だったため、何色もの色を重ねて複雑な色合いが表現できたということも、こうしたカードがもてはやされた理由かもしれません。"Noel"と書かれたクリスマス用のカードはもちろん、"Bonne Fete"(良いお祭りを)、"Bonne annee"、また、魚があしらわれた(フランスではエイプリルフールに魚の形のチョコレートを贈る習慣があります。)エイプリルフールのカード、"Paques"と書かれたイースターのカード、すずらん祭りの日に送られるすずらん柄のカードなど種類も多く、「銅版印刷のような」と評される筆跡の美しさと、カードの色合いに合わせて貼られた切手や、紫のインクを愛用するお洒落心に、フランス人の美意識を感じることが出来ます。

「猫のクリスマス」椅子の背から出ている黒猫の尻尾がユーモラスです。

 それに加えて、一枚一枚消印が押され、はっきり年代が特定できるということも、ポストカードの特徴です。特にフランスの場合は、切手の貼られた面や裏面の仕切りからも年代を特定できるなど、その年代ごとの細かな違いも、ポストカードの面白さのひとつといえるかもしれません。

「ガーデニング猫」

 稀にポストカードを選んでいると、100年も前に遠く日本から届いたカードに出会うなど、一枚のポストカードから人と人との結びつきに、改めて思いを馳せることもしばしばです。

「猫の海水浴」

「猫馬車」