アイリッシュクロシェのブラウス
〜どこか懐かしい風合い〜 

 レースの中でも、特に好きな物。繊細なポワンドガーズやアプリカシヨンが華麗なブリュッセルレースのとろけるような味わいにも、もちろん惹かれますが、それとはまた別に、素朴な可愛らしい雰囲気を持つアイリッシュクロシェには、実用という面においても、魅力を感じるレースです。アイリッシュクロシェは、ハンドメイドとはいっても、もともとカギ針で編まれたものですから、どことなく懐かしいノスタルジックな雰囲気をかもしだしています。

 アイリッシュクロシェは、その名前からもアイルランドが発祥のように思われがちですが、実はフランスが発祥で、現代のフランスでも、沢山のアンティークのアイリッシュクロシェの物を見ることが出来ます。その技術は1800年代初めにフランスからアイルランドに伝わりました。厳しい気候から、たびたび起こっていた飢饉を乗り越えるための手段として、修道院でアイリッシュクロシェを編むことが奨励された結果 、アイルランドを代表するレースのように言われるまでになりました。

 アイリッシュクロシェのモチーフには、必ずバラのお花、クローバーが使われ、それにアザミが加わることもあります。その他にも、ヴィクトリアンの時代に作られたアイリッシュクロシェのブラウスなどには、さまざまなモチーフが加わった大変豪華な雰囲気の物もあります。このモチーフのひとつ、バラのお花には、2層や3層になった花びらが編まれているなど、その立体的な味わいが魅力のひとつのようです。また、アンティークのアイリッシュクロシェには、大変細い糸が使われており、それがたとえカギ針編みであっても、「いかにも手仕事」という細やかさを表現しています。実際、現代では、その細い糸を撚ることの出来る職人自体がいなくなってしまった、という話も耳にするので、こういった繊細さは、やはりアンティークのアイリッシュクロシェならではの特徴かもしれません。

 そんな素朴でありながら、繊細さも併せ持つアイリシュクロシェは、私のお気に入りでもあります。普段からよく着ているワードローブのひとつ、アイリッシュクロシェのブラウスは、丁寧にアイロンをかけ、せっせと繕いながらも着ている愛着のあるものです。またフェアの折などにもよく着ているので、皆さんが見かけられることもあるかもしれません。

 こちらのブラウスは、1800年代後半に作られたヴィクトリアンの物。アイリッシュクロシェとボビンレースを組み合わせた豪華な物です。特に袖の細かいネット状になっている部分など、着た時の美しさは格別 です。当時は、このようなブラウスは、限られた階級の女性のための物であり、そういった貴婦人達には、着付けを手伝うメイドがいたこともあって、後ろ開きの物が多く見られます。


 こちらは、やはりフランスのアイリッシュクロシェのスリップです。下着一枚にも、このような手の込んだ仕事を施してあることからも、当時の心の豊かさやゆっくりした時間の流れを感じることが出来ます。このようにエプロンドレスのように着ると、とてもラブリーです。


 薄いローンの地にアイリッシュクロシェをはめ込んだブラウス。フランスで手に入れた100年程前のものです。


 実際にブラウスを着てみると、思いの外着心地の良さを感じます。