アール・グレイの紅茶

 買付を含めて、一年の約半分を自宅以外で過ごす私にとって、自宅でゆっくり朝食をとるひとときは、限られた貴重な時間です。ロンドンでも、パリでも、それぞれ朝は、馴染んだフラットでミルクティーや、馴染みのカフェでカフェ・オレやエスプレッソを楽しんでいるものの、自宅でのんびりお気に入りの紅茶をいただく朝のひとときは、格別 です。

 以前は、どちらかといえばコーヒーを愛飲していた私ですが、ロンドンのフォートナム&メイソンやフランスのマリアージュ・フレール等々の数ある紅茶を飲み比べているうち、今では、私にとってすっかりなくてはならないものの一つになってしまいました。もともとくせのあるものが好きで、マイルドなものより、どちらかといえばストロングなテイストが好きな私のここ何年かのお気に入りは、フォートナム・メイソンの、アール・グレイの中でもより香り高い「アールグレイ・クラシック」です。通 常アール・グレイといえば、ミルクティーを思い浮かべる方が多いかと思いますが、私は、ミルクもお砂糖も入れずストレートでいただくのが習慣となっています。もともと中国紅茶に柑橘系の果 物ベルガモットの香りをつけたアール・グレイは、そのスモーキーな味わいが魅力のフレーバー・ティーで、ベルガモットの香りには、精神を安定させる効用もあるとされています。イギリスでは、その昔、グレイ伯爵が、この茶葉を中国から持ち帰ったことからアール・グレイ(アールとは伯爵の意)と名付けられたとされていますが、私自身は、その個性的な香りとともに、どこかしら漂う東洋的な雰囲気に惹かれるのかもしれません。

 ロンドン滞在中は、必ずピカデリー・サーカスのフォートナム&メイソンの店舗まで出向き、茶葉の補充を欠かしません。店舗に入ると、お土産を買う沢山の観光客を尻目に、迷うことなくカウンターへ直行し、缶 入りではなく、紙のパックに包まれた茶葉をオーダーします。ついでに、近くのチョコレート売り場で、いくつか好みのトリュフを選び、その後は裏通 りのジャーミン・ストリートへ向かいます。紳士物を扱う老舗が並ぶことで有名なジャーミン・ストリートの古めかしいウィンドウを眺めつつ、トリュフを齧りながら地下鉄へ。ロンドンでのいつもの習慣です。

 毎朝、自宅でシルバーのティーキャディースプーンやティーポットを使い、お気に入りのヴィクトリアンの手描きのカップで紅茶をいただくたび、「アンティークにたずさわっていて良かったなぁ。」と一人でうなずいてしまうのです。

 グレーが上品なリッジウェイのカップ。この他にもラベンダー色のコールポートも愛用しており、その日の気分によって選びます。


 愛用のティーキャディースプーン。シルバーの独特の質感が魅力です。


 フォートナム&メイソンの裏通 り。ピカデリーの喧騒から離れて落ち着いたジャーミン・ストリートには、いかにも英国紳士というファッションが似合います。