ヴィクトリアンのソーインググッズ
〜貴婦人の楽しみ〜

 私が扱う商品の中でも大きな比重を占める商品は、ソーイング小物です。ソーイング小物は、以前より特に注目して集めている商品のひとつで、ことにヴィクトリアンのものは、大変魅力的で、心惹かれる物が多いように思います。ヴィクトリアンとは、ヴィクトリア女王が在位 していた1838年から1901年までに作られた物をさし、イギリスではこのようにアンティークの年代をさす言葉として王様や女王様の名前が使われています。現在、実際に私たちが眼にすることができるヴィクトリアンの多くは1800年代中期から後期の物で、それ以前のヴィクトリアンの物はイギリスでは「アーリーヴィクトリアン」と呼ばれ、より古くなることからも、珍しいとされています。今回は、ソーイング小物の中でもヴィクトリアンのものに焦点を当てたいと思います。

 やはり、道具の一つとは言っても、女性が使っていた物というのは、どうしてこんなに美しかったり、繊細だったりするのでしょうか。ことに、マザーオブパールやアイボリー製の糸巻きや、コットンリールなど、素材の美しさもさることながら、手の込んだ細工の物が目立ちます。ことにそのような道具は、庶民の女性のではなく、ある階級以上の女性の持ち物でもありました。当時の社会では、良家の子女は家事をする必要がなく、当然外に働きに出るなんて以ての外でしたから、刺繍などの手芸や絵を描いたり、ピアノを弾いたり、といったことこそが「良家の子女のすること」というように定義されていて、普段の生活は、現代から比べるとかなり制約されたものでした。そのような限られた生活の中で、手芸をしたり、手芸用品にまで気を配ることが、女性同士のたしなみや数少ない楽しみの一つであったに違いありません。このような土壌からレースを編んだり、刺繍をしたりという手仕事の産物が生まれてきました。今残っている細工の美しい手芸用品は、そういった貴婦人たちによって使われてきた物なのです。

アイボリー製のピンクッション。
こういった円盤型のものは、ビスキュイ型と呼ばれるフランス製で、周囲にピンを刺して使います。このように、バラの彫刻の施された物は珍しい物の一つです。


マザーオブパールやアイボリーの様々な形の糸巻きとコットンリール。
コットンリールは、上下が分かれるようになっており、糸巻きのボビンの飾りとして上下からはめて使われました。右端に写 っている円盤型のアイボリーの物は、ピンクッションではなく、糸のすべりを良くするためのワックスです。


画像では分りにくいですが、左からすずらん柄、エナメル、リボン柄のシルバー製シンブル。
手前の小さい物はベビーシンブルと呼ばれる子供用です。シンブルには、このように様々な柄や大きさのものがあります。


両サイドが王冠の形に彫刻されたアイボリー製のニードルケース。
きっちりネジが切ってあり、中に針を納めることの出来る愛らしいツールです。


シルク地を細かなビーズのネットで包んだ小さな小さなピンクッション。こういったミニチュアのピンクッションは、実用というよりも、ソーイングボックスの中のマスコットとして作られたようです。その証拠に、非常に状態の良いものも目にすることが出来ます。


アイボリーが美しいソーイングセット。
1880年頃のフランス製で、持ち主のイニシャルがモノグラムで彫られています。道具類は、シルバーにゴールドメッキ製です。


中を開けると、きっちりと道具類の大きさに合わせて彫られており、作った職人の技術の確かさが伺えます。美しい細工から、当時としても誰もが持てる物ではなかったという状況が偲ばれます。


美しい象嵌細工が施されたタティングシャトル。
数々の凝ったシャトルが使われていたのもこの時代です。


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様々なソーインググッズが掲載されており、見ごたえ十分です。アンティークのソーイング物を扱った資料としても、非常に参考になります。
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