ジェット
〜漆黒のジュエリー〜

どれもお気に入りのジェットです。ことにエンジェルのポーセリンの付いたものは、レースの襟元を止めるのに、ハートのチョーカーは、胸元の開いた服装のときに重宝しています。普段、黒い色の服を着ることが多いので、もともと喪服の黒いドレスのために作られたジェットは、使いやすいジュエリーのひとつです。


  私の好きなヴィクトリアンジュエリーのひとつにジェットがあります。ジェットとは、漆黒の黒炭に似た鉱物(流木などの化石化したもの)で、古代から魔除けとして身に付けられてきましたが、15世紀頃からモーニングジュエリー(喪に服す期間死者を悼んで、身につける装身具)の代表的なものとして使われてきました。それが、ヴィクトリアン中期には爆発的に流行し、現代でもその時代の物をたくさん見かけることが出来ます。

 というのも、1861年、ヴィクトリア女王の夫アルバート公の死去にともなって、イギリスでは王室を中心にその後20年にもわたる長い長い喪の期間となったためです。ヴィクトリア女王自ら、アルバート公亡き後は、黒いドレスとジェットしか身に付けないといった徹底ぶりで、この時代のイギリスでは、ロザリオやネックレス、ブローチ、ブレスレット、イヤリング等たくさんの種類のジェットが作られました。

 ジェットは、比較的柔らかい素材で細工がしやすく、磨きこむと美しい艶が出ることも好まれた理由ですが、なによりこの時代の「産業革命」の影響で沢山の数を生産できるようになっていたことも流行したの大きな理由のひとつでした。しかし、流行の宿命とでもいいましょうか、1887年の喪服の緩和令以降はあまり身に付けられなくなり、ジェットを産出していた鉱山も19世紀末頃にはすべて閉山し、幻のジュエリーとなってしまったのでした。

 もともと死者の思い出の品であるジェットの中には、ロケットになっていて、愛し合っていた二人の髪の毛を美しく編んだ細工が閉じ込められていたり、赤ちゃんの写 真が入れられていたり、また、故人のイニシャルをデザイン化したモノグラムが刻まれていたりと、ロマンチックで少し物悲しい思い出が詰まったジュエリーでもあるのです。